歓迎会②
「兄ちゃん、さっきは凄かったなァ」
「あんな凶暴な奴を、まるで子供扱いなんて!」
「イリスちゃん、何処でこんな男を捕まえて来たんだい?」
「何処から来たの? 一人旅?」
「荷物も持たずに、ここまで来るなんて大したもんだ」
町の人たちはカルナに興味津々と言った様子で、カルナは質問攻めにされた。
「多少の心得があります」
「独りです」
「余計な荷物がある方が、旅は難しいですから」
そのように、ものを咀嚼する合間に答えていると、ふとその視界の隅に何人かの子供たちの姿が映った。
一〇人くらいの子供たちが、大人たちに混じってカルナの周りに集まっている。しかしその眼は、カルナではなくて机の上に並べられた料理に向けられていた。
「坊やたち」
カルナが子供たちに言った。
「お兄ちゃんは、もう腹いっぱい喰わせて貰った。良ければ、食べるかい」
すると子供たちは眼を輝かせてテーブルに集まって来るのだが、彼らの親であろう大人たちがこれを引き止めた。
「やめなさい、あんたたち!」
「これはお客さまにお出ししたものだぞ」
「卑しい事をしてはいけません!」
「いえ、本当に俺は……」
どうにか親たちを宥めて、食べ切れなかった分を子供たちに明け渡すカルナ。
子供たちは皿を掴み取ると、がっつくようにして肉も野菜もスープも果物も、あっと言う間に平らげてしまった。
カルナが見た所、子供たちは何れも、頬がこけて、腹がげっそりとしている。下腹が出ていないという事は飢えているという訳ではないのだろうが、一番腹が減っている時期に満足のゆく食事を摂れていないらしかった。
親たちは、自分の子供たちが食事にがっついているのを見て、申し訳ないとか、情けないとか、子供たちではなく自分らに対して思っているような表情を作っていた。
「あの、カルナさん……」
イリスが、質問責めをやめた大人たちの身体をすり抜けて、カルナの横にやって来た。
「実は……」
「この町、余り栄えていないんじゃないのか?」
カルナの指摘に、イリスばかりではない、他の大人たちもどきりとしたようだった。
貿易の要衝と言うからには、ひっきりなしに旅団や兵団が訪れて、様々な国の文化を残してゆくものであろうと考えていた。周囲に何もないこの町が、高い石塀を築き、争いを行なわずに、複数の浴場や食堂を経営していられるのはその為であろうと。
「そうなの、実は……」
「イリスや……」
イリスの肩に、老人が手を置いた。
彼女の祖父だ。
「お祖父ちゃん」
「ダイパン爺さん、身体は平気なのか?」
「何とかな」
ダイパンというのが、イリスの祖父の名前らしい。
ダイパンはイリスの眼を見ると、首を横に振った。
「イリス、この方は旅のお人じゃ。迷惑を掛けてはならん……」
「でも、お祖父ちゃん!」
「町の事は、町の者で解決しなくてはならんのじゃ。だからこそ、ディアナたちはこの町を出た。その為の力を身に着けるべく……」
イリスは一度頷き、周囲を見渡した。しかし他の人たちが浮かべているのは、何れもダイパンと同じ類の顔であった。そして助けを求めて、カルナの方に視線をやる。
カルナは凛とした眼でダイパンを見やると、
「何かあったんですか。この町に活気がない事には、何か理由があるんでしょう」
「旅のお方に話すような事では……」
「俺は暫くこの町に滞在する事にします。ですから、町に不穏な空気が流れているのは見過ごせないんです。どうか教えて頂けませんか」
「――カルナさん!」
イリスは祖父の手を優しく肩から除けると、カルナの手を取って彼を見上げ、涙を滲ませて言った。
「お願い、この町を、あいつらから守って欲しいの!」