サソリ撃破
会長の炎魔法がサソリの顔に当たり、視界が奪われたすきに2発、3発とサソリの右腕に斬り込む
しかし、サソリの体は堅く、なかなかダメージを与えられない
「く、ならば」
剣を空に掲げて
「我のつるぎよ、己の光を解放せよ」
まわりから光が剣に向かって集まりだす
幾重にも重なった光があまりに眩しくて私たちは目を瞑った
目を開けるとそこには
光り輝く剣を握った奈々さんの姿が
「そんなカッコつけなくていいから早く倒してよっ」
たった1人で応戦していた会長が叫ぶ
まるで薙刀を突き刺すように踏み込んだ
そして
顔から尻尾へと光を突き刺す
しかしサソリも黙っていない
まだ損傷の少ない両腕で掴みにかかる
「させないっ」
サソリの手が届く前に奈々さんのまわりに防御魔法をかけサソリの腕を弾いた
サソリが怯んだ瞬間
奈々さんが両腕でを斬りにかかる
ボトッボトッ
さっきは弾かれたが今回は楽々と切断に成功した
両腕が地面に落ちる
「キュイーーーーーーーーッ」
金切り声をあげるサソリ
両腕でを切断され尻尾もまともに動かせず、攻撃手段を失ったサソリには何もすることはなかった
「どう?奈々ちゃん強いでしょー」
「いやびっくりしましたよ。ほんと人が変わったみたい」
もう勝ちを確信した会長は戦線を離脱し私たちのところへやってきた
「圭太くんもどう?すごくない?」
「あの剣を光らせるやつすげーかっこいいっすね。俺もやってみたいですね」
戦隊モノのロボットを見る幼稚園児のように目を輝かす彼を微笑ましく思った
ただただ奈々さんの突きを喰らい続け
ついに
バタッ
大きな体が倒れた
「ふう...」
激しい突きの後で乱れた呼吸を整えていると
「痛っ、何?」
足元を見ると小さなサソリがいた
小さくても容赦なく剣を突き下ろす奈々さんを
私たちは後ろ姿しか見ていなかった
「どうしたの奈々ちゃん?」
「いえ、なんでもないです」
いつもと変わらない奈々さんを見て会長もそれ以上追求しなかった
中ボスからラスボスまではあっという間で
とくに見慣れない仕掛けとかもなく、ただただ迷路が続くだけだった
一つ気がかりなのは
奈々さんの動きが少しだけ鈍い気がするが
もしかしたらずーっと奈々さんを見てたから自然と目が慣れただけだろうと勝手に解釈した
「行くよーボス戦っ」
威勢良く私たちに発破をかける会長は、いつも猫被ってたんだというくらいに明るい人だったので、なんかいけないことを知ったみたいで嬉しい気持ちになる
ガーっ
ボス部屋に足を踏み入れるとゆっくりと柵が降りてきた
それと同時に何か粉のようなものも降ってきて視界が邪魔される
しかしそんな状況でも巨大な影を確認できた
「あれはゴーレム?」
まるでエジプトの遺跡がそのまま動いているかのような巨体を備えるゴーレムらしきモンスターがボスのようだ
「ゴーレムなら私が」
「私も戦います」
ゴーレムが届かない距離から魔法使い2人が強力な水魔法を放とうとする(なんか水でドロドロになりそうだし)
「アクアアングリフっ」
「アクアマギアっ」
道中に考えた魔法を出すときの決めポーズを決め込んだのだが
水がでない
「え、なんでなんでなんで」
いくらゲームマスターの私でも魔法が使えないんじゃ頑丈な村人程度にしか役立たないのに
そういえば先輩も水出てない気が
「あっ」
成績優秀容姿端麗、学校のマドンナ的存在で男女ともに人気を集めるあの会長が
「どどどどどど、ど、どうして、え、え、」ガタガタ
あからさまに動揺しているなんて
なんか自分の中の会長像がぐちゃぐちゃになってきた
自分より緊張してる人を見ると落ち着くって聞くけど本当にその通りで、冷静になった私は管理者ページをこっそり開き見て見ると
「マジックポイントがなくなってる...」
めちゃくちゃ魔法を乱発してた会長ならともかくこの作品でまだ3、4回しか魔法を使ってなくて、しかも未だに敵を倒したことのない私がなくなるはずないのだが
「砂か。みんな、砂にMPを奪われたんだ」
「え、そんな」
立ち尽くす私と会長のもとに
「あぶないっ」
体の砂を自在に操って一瞬で私たちの目の前に現れた
ゴーレムの腕が私たちを飲み込もうと伸ばしてくる
ダメだ、飲み込まれる
そう思ったそのとき、目の前に奈々さんが現れて
「攻撃が効かないなら」
攻撃を溜めて
剣先に集中して
「風を起こすっ」
一気に貫く
いや、正確には砂が避けていくというか
まだ捉えきれないくらい素早い突きで生じた風がゴーレムの腕に穴を開けた
「奈々さんっ」
奈々ちゃーん」
危機一髪助けられた私たちは涙目で奈々さんのもとへ駆け寄ると
「くっ」バタッ
唐突に倒れてしまった
よく見ると彼女の足が黒ずんでいて顔も真っ青になっていた
「これは、猛毒っ」
おそらくサソリの毒を食らってしまったんだろう
残りHPはもう4分の1を切っていた
毒のダメージから考えてあと5分といったところか
「ね、毒消し草あるから、これで治らないの?」
「いやこれは猛毒なので毒消し草は効かないんです」
「そんな...」
こうなったら方法は2つ
私が管理者ページを開きボスを強制排除して猛毒を治してHPを回復するか
5分以内にボスを倒してレベルアップしてMPを回復させて私の魔法で治すか
圧倒的に前者の方が簡単ですぐに終わるが、そんなことをしたら会長や圭太に私がゲームマスターだとバレてしまう
そうなったらもうこのゲームを続けるのは不可能だろう
でも5分であの巨大なボスを倒すなんていくら圭太でも難しいだろう
じゃあもう奈々さんをあきらめる?
そうすればこのゲームを続けることもできるし
時間をかければボスも倒せなくはなさそうだ
悪魔が囁く言葉を私は聞かずにいられなかった




