AIにだって情はある
赤旗が上がり観客席は今日一盛り上がった
ガッツポーズをするといけないという不思議なルールにより勝った男の子は観客とは対照的に冷静を装っていた
お互い礼をして、彼の勝ちが決まった瞬間、彼と同じ道場の面々が続々と彼のところへ向かい等の本人よりも勝利に沸いている
道場に通っていない私は二階の席から応援していたから駆け寄ることが出来ず指をくわえて歓喜の輪を眺めていた
そんな私に輪の中心にいる彼は手を振ってくれて
「表彰式までいろよ」
歓声に負けない、けど私以外の人には届かないくらいの声で叫んでくれた
日中は沢山の剣道少年少女の父兄たちでごった返していた観客席も子が入賞した人くらいしか残っていなくてスカスカになっていた
その中で剣道をやっていない私と父はなかなか異端な存在かもしれない
協会の会長のくだらない話に失神しかけていた私は父に起こされるとなぜか式は終わっていた
私はすぐに男の子のことを待ち伏せするために早歩きで体育館の入り口へ向かう
私の目に扉が入ってきたとき、金メダルと丸めた賞状を持った男の子が出てきて私のことを見つけた
続々と人が出てくるので私たちは扉から離れて人気のない通路へ移動した
「ほらっ、金メダル獲ったぞ。だから、あの約束、わかってるよな?」
私のことを目の端で伺いながら金メダルを差し出してきた
「約束...?」
約束とは何か思い出そうと頭を使っていると次第に男の子がぼやけてきて意識が寝る直前のようにスーッと遠ざかっていった
「おはようございます。気分はどうですか?」
目を覚ますと急激な頭痛が襲ってきて、さっきビームを撃たれたこと、そして高校生になる以前の記憶が蘇ってきた
「あなた、何をしたの?」
あれだけ強烈なビームを喰らったのにビームを撃った張本人とこうして対峙しているのだから会長や奈々さんの安否を気にする余裕もなかった
「以前お借りしたアイテムに入っていたあなたの記憶データを戻してあげただけですよ」
「なんでそんなこと?」
「それはただの気まぐれですかね」
「気まぐれ?」
そんな理由で私の記憶を戻してくれるなんてAIにも情というものがあるのだろうか




