ブランコ
「真衣はどうするの?」
お姉ちゃんは私の考えを見透かしたように意地悪な質問をしてくる
そんなのもちろん私もみんなと一緒にもっとずっと楽しい日々を過ごしたい。さっさとこんな世界から逃げ出して日常を取り戻したい
でもそれは叶わないことは私が一番わかっていた
私はまだ1つみんなに秘密にしていることがある
安達あいのことを私はお姉ちゃんと呼んでいるけれど、彼女は私の姉ではないのだ。もちろん父親も違う
物資の枯渇した日本では貧富の差がより生活の質に直結していて、特に食に関しては不十分な供給を需要が大きく上回り価格がどんどん上昇していきとても食料を手に入れられず犯罪に走る者、飢え死にする者も出てきていた
私が生まれた家庭も貧しくとても私を養える余裕などなかったが、母はとてもいい人で母は食べる量を減らして私に食べさせてくれた。おかげで私はなんとか5歳までは生きることができた
しかし、家計は物価の上昇に追いつけなくなりとうとう私を育てる余裕などなくなってしまった
ある朝目を覚ますといつも横にいる母はおらず、キッチンにも立っておらず、ただ手紙をテーブルの上に残して消えてしまった
かろうじて平仮名のみ読むことができる私のために大きな文字で短い文章の所々紙が濡れてふやけた手紙を読んで、私は幼心なりに母はもう帰ってこないことを悟った
まだこの街のどこかに母がいるかもしれない
靴を履くのも忘れ裸足で部屋を飛び出した
どこを探せばいいかなんて分からないし当てずっぽうに見たことのある道を辿り続けた
お腹が空いているのも忘れてひたすら歩き続けた
空はいつのまにかオレンジ色に変わっていたけれど母は見つからなかった
最終的にいつも遊んでいた大きな滑り台のある公園にたどり着いた。普段なら母が家に帰ろうと言っている時間帯だったけど、私を家に帰るように言う人などいなかった。大好きなブランコに座っていたけれど誰も押してくれないからちっとも楽しくなくて、このとき私は初めて泣いた
「どうしたの?」
いつもの癖で、声を押し殺して泣いていた私に女の子が声をかけた
「背中、押してあげよっか?」
私よりも少しだけお姉さんに見える女の子は私がブランコが上手にこげなくて泣いていると思ったらしい
私がそんな子ども染みた理由で泣くわけないと少しムッとしてしまったけれど、幸せしか知らないような満面の笑みの女の子に文句を言う気も失せてしまったのでせっかくだからお願いした
「いくよーっ」
女の子の押す手は母より全然力強くて、私の最高到達点を軽々塗り替えた
押すタイミングは下手くそでブランコは上がりすぎたり全然上がんなかったりしたけれど、力強く押す分私の背中に女の子の手の感触が、熱が強く感じられて、人の温もりというものを再び知ってしまった私は恋しくなってまた泣いてしまった
「ごめんっ、強く押しすぎちゃった?」
「ぐすっ、おかあさんが、いなくなっちゃったっ...」
「えええっ?!じゃあひとりぼっちなの?」
「うんっ、」
「じゃあ、」
女の子は私の手をぎゅっと握って私の顔を覗き込んで
「私がお姉ちゃんになってあげるっ!」




