赤
馬場先輩がこの前のボス戦でのサッカー部の後輩たちの不甲斐なさを問題視したため、坂本と圭太を巻き込み特訓を行うためパーティーから離脱した
だから今回は私たち女子4人で京都女子旅のようなゆるく、でも華やかな様相で攻略を目指す、たぶん
前回の経験から私たちが頑張らなくても攻略できるだろうという考えが深層心理に蔓延っているので、攻略3旅行7ぐらいの比率で散策している
突貫工事で作られたような歴史を感じさせない建物もちらほら見受けられるが、そこに目を瞑れば十分古都を巡っている感覚は味わえた
会長が訪れた場所を次々まわり、とうとう金閣寺にやってきた
やはり京都といったら金閣寺が挙がるのか、中々多くの生徒で混み合っていた
とても入れそうにないので金閣寺は断念し仁和寺の五重の塔へ向かった
中心からだいぶ離れているからか人はおらず、静寂に包まれた仁和寺の五重の塔はより一層威厳を感じた
「これって登れるんだよね?」
誰も止める者はいないから、私たちの答えを聞く前に会長は1人で勝手に行ってしまった
ここはゲームの中だから、誰かに怒られることもないだろうとたかをくくって会長を急いで追うことはしなかった
「きゃあっ?!」
「会長?」
塔の中から会長の叫び声が聞こえた
まさか敵が潜んでいたのか?
大至急塔の内部へ入るとそこには、鬼のように巨大な兜と甲冑を身につけて、日本刀を握った武士の化け物がいた
ロウソクで照らされた日本刀には赤い液体が付着している
会長の姿を探すと床に横たわり痛みをこらえようと震えていた
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、ちょっとかすっただけだから」
会長の左腕に切り傷があり、赤い液体がピタピタとこぼれ出ている
「なんで血が?」
このゲームでダメージを受けて血が出るなんてありえない
会長の体力ゲージはまさかの満タンであり、ダメージを受けることなく負傷してしまったようだ
「まさかっ?」
このゲームのワールドは元々は現実世界を模した電脳空間を少しアレンジしてゲームの仕様を植え付けたものだ
この異質な世界ではアイテムは2つに分類される
1つは私たちが持っている剣のように使用すると数値データとして処理されプレイヤーやモンスターの体力が減少し、数値に応じた衝撃が加わるもの
他方はゲームがつくられる前私たちが使っていた包丁などで使用すると物理エンジンが作動し現実世界と同じように食べ物を切り、殺傷能力を有するもの
この世界で肉体が受けた物理的ダメージは全て現実世界で装置に入っている本物の身体に反映される
つまり、この世界で包丁を刺されて致死量の出血をした場合、すぐさま、現実世界で、死ぬ
「早く逃げないとっ」
メニューを開きすぐさま安全な場所へワープしないと
なぜか震える手のせいで中々うまく画面がタッチできない
「危ないっ」
奈々さんが叫ぶ
上を見上げるともうすでに武士は剣を振り上げていた
実行、実行、実行、実行、実行、なんで?どうして?
なんとかワープの最終画面まで辿りつき、実行ボタンを連打するのに、一向にワープできない
「なんで?ワープしてよっ、お願いだからっ」
それでも全然ワープすることはできず、ついに剣が音を立てて振り下ろされる
もうダメだ
武士を見るとすでに剣が目の前まで迫っていた
キーーーーンっ
目を瞑って痛みに備えていたら、金属音が響き、私の目の前で剣が止まったようだ
「お姉ちゃん、諦めないでっ」
目の前で妹が必死で武士の剣を剣で受け止めている
「入口のバリアは解いたから、そこから脱出して」
「...うん、わかった」
妹の命令に私は何も考えず従うしかなかった
会長の右腕を私の肩に回し、2人で歩きで外を目指す
「はやく!」
奈々さんが叫ぶ
金属のぶつかる音が何回も聞こえる
真衣のおかげで攻撃を受けることなくなんとか出口へたどり着いた
「真衣っ、着いたよ」
「わかったっ、すぐ行く」
そう言って剣を振り解き、こちらに向かって走り出す
よかった、みんな無事に帰れる
安心しきった私は会長の左腕の傷を気にしてしまった
「真衣っ!」
奈々さんがまた叫んだ。でもそれはさっきよりも断然大きかった
真衣を見ると、物音をたてずにスーーッと武士が猛スピードで真衣の背後に着いていた
「危ないっ!!!!」
私の叫びは届いただろうか、それはわからない
背中を思いっきり斬られた真衣は、光となって天へと昇っていってしまった
私の理論が正しければ、頭のおかしい女子高生の戯言がもしも万が一合っていれば、
安達真衣は本当に死んだ




