準決勝決着
「渚って誰ですか?」
会長だと思っていた馬場の意中の相手は渚とかいう謎の女であり、渚が気になって気になって支障が出てきそうな圭太は思わず聞かずにはいられなかった
「ええー、もう教えねーよ」
わりと勇気のいった告白が不発に終わり少々落胆の色が見える馬場だが、もう意地になって教えまいという頑固な姿勢をとった
「おれが優勝したらわかるから大人しく負けとけ」
今度は馬場が走り出す
まだ痛みが残るはずなのに、圭太は気合でなんとか剣を握り、走りだす
2人が交差したら準決勝の決着がつくのはお互いなんとなくわかっている
互いが全身全霊で挑んだこの攻防
馬場が圭太の間合いに入ってからの1秒間
金属のぶつかり合う音はしなかった
そのかわり、光が宙へと昇っていった
私たち女子の待機部屋でも試合の模様が映し出されていて、初めはみんな知っている男子を見つけては運動会や体育祭を観る感覚で応援したりとわりと気楽に見ていたが、次第に人数も減っていき試合の展開も息を飲むような接戦が増えていくに連れて、そのような明るい応援は無くなっていき皆黙って本気で観るようになっていった
準決勝を迎えてさらに緊迫した空気に包まれる中、私は会長の隣で少し気まずい思いをしながら観ることとなった
圭太の相手がまさかの馬場先輩という知り合い同士の対決になってしまい、おそらく馬場先輩は会長のために戦っているだろうし会長も馬場先輩を応援しているだろうから、私の圭太を応援したいという気持ちを押し殺してなるべく平常心を保つよう努力する
けれど
「ほら、あいっ。ちゃんと応援しないと」
「え、なんで私が?」
「ほら、みんなもちゃんと応援してね」
ありがたいことに私のクラスメイトたちが集まってきて、何を勘違いしているのかわからないけど圭太への大応援を始めた
「会長さんも一緒にしましょ」
「あははは、わかったわ」
会長は苦笑いを浮かべていて私は非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、だからといって会長と馬場先輩の関係を話すのはできないし、ただただ心の中で祈ることしかできなかった
キャアアアアアアアア
試合が始まると女子たちの明るい観声が鳴り響く
みんなが画面に夢中になっている中
会長がこっそりと
「どっちが勝っても恨みっこなしだからね」
そう囁いてきて、否定するのもアレだから頷くことしかしなかった
「きゃっ」
2回目の交戦において、圭太がダメージを受け悶えているのを見て思わず目を背けた
右腕を抑えてはいるもののまだ戦えるようで、その姿に皆感化されより一層応援に熱が入る
私も抑えきれなくなりついつい応援してしまう
2人は何か話しているがこっちに音声は入ってこないから聞けないが、2人の表情からそろそろ戦いに終止符が打たれるような気がしてならないく
私が最後に見た圭太の剣道のインターハイ予選決勝
中学のとき唯一倒せなかった3年生との対決に少しは緊張しているかなと思ったら
笑っていた
あいつは試合直前にもかかわらず笑っていた
それは試合中も変わらなくて、すんでのところで面を決められそうになっても防具の奥にはあいつの笑顔があった
それからというものの
差し込まれていたはずなのに、あっけなく一本をとり、会場中の人々の意表をつき、私は開いた口が塞がらなかった
その時の笑顔というか半笑いのはにかんだ表情を今の圭太は浮かべていた
再び馬場先輩が駆け出した
圭太もまた駆け出した
2人が交差するその瞬間
部屋の空気が無くなったように静寂に包まれる
剣を交えたのは2人だったが、残っていたのは1人だった
「やったーーー!!!!」
応援団が騒ぎ、呆然としている私を揺すりまくる
「おめでとぅ、あいちゃん」
少し悲しそうな顔で私を祝福してくれる会長
頭が現実に追いついていないがどうやら
勝ったのは...




