ライバル
「はああ」
「お前らまだ喧嘩してんのか?」
「喧嘩じゃねーよ」
喧嘩ではない、そうおれは思っている
昨日のあの一件をまだ引きずっているのか
あいもおれもどう接すればいいのかよくわかんなくなってしまっている
そんな気まずさ満載のままおれたちは4層にやって来た
ここまで特色のある気候が続いていたから次はクソ寒い雪国かと思っていたら、そんなことはなかった
その代わりに中央にそびえ立つ巨大な古城と古城から放射線状に伸びる道、そして中世のようなレトロな街並みはまるでパリにいるかのよう錯覚してしまう
(行ったことないけど...)
いつものようにとりあえず宿を探すのだが
「どうかしたか?」
さっきから後ろを気にしているのに気づいた坂本が声をかけてきた
「ああ、誰かに見られてる気がして」
「んん?誰もいなそうだけどな」
坂本も辺りを見回してみたが怪しい人影はなかった
「まあ、疲れてんだろ圭太も」
坂本なんぞに慰められているのに少し嬉しさを感じてしまった
いい加減なやつだけど実はいいやつなのかもしれない
と坂本を見直しかける
「まああいちゃんとは昔結婚の約束もした仲だもんなー、しょうがないわ」
「え?なんでお前約束のこと知ったんだよ?おい」
「あっ」
咄嗟に口をふさぐもすでに遅い
おれの耳には約束の二文字が届いてしまっている
「あれはおれしか知らないはずなんだが?」
「いや、まあ、ね?」
「どういうことだ?坂本?」
坂本を問い詰めようとしたそのとき
「それは本当なのか???」
知らない男の声が聞こえてきた
不意を突かれキョトンとしながらもゆっくりと声の始点を向くと、茶がかった髪色の爽やか系男子がいた
「君安達さんと結婚するのか?」
「いやいや、しないって、たぶん」
「はあ、なんだ」
露骨にホッとしやがるいけすかない男にムッとしながら
「お前誰だよ?」
初対面にもかかわらずいきなり強い口調で言ってしまった
でもこれは出会って1分でここまで嫌われるあいつが悪い
「ああ、おれは1年の長谷川隼人、よろしく」
「あーよろしく」
差し出された手を渋々握り融和ムードを演出する
「で、君は安達さんのこと好きなわけ?」
「はあ??」
突然何聞いてくるんだこいつはと思っていると
「おれは好きだから。安達あいさんのこと。あの怪我を治してくれるときの真剣な表情とか天使のような微笑みとかもう素敵すぎて...」
平然とあいへの想いを語り出す長谷川におれは圧倒されてしまった
それに駄目押しするかのように
「ちなみにおれはもう告白して今いい返事を待っているところだから」
告白済みであると言ってきてもう何が何だかわからなかなってきた
あのあいが人気はあると聞いていたけどこんなにも本気で好きになるやつが現れるとは思ってなかった
「で、どうなんだ?好きなのか?付き合いたいと思っているの?」
「おれは...」
おれはあいつとどうなりたいんだ?
すぐにどうなりたいとか思い浮かばない自分の不甲斐なさに苛立ちを感じた
もしかしたらこいつの方があいに相応しいのか?
そんな考えも頭をよぎりだしどんどん負のスパイラルにとハマっていってしまう
でもそんなとき、坂本が
「お前、圭太とあいは10年前から結ばれることになったんだよ!部外者が邪魔すんな」
この一言で思考の整理がついた
「おれもあいつのことが好きだ」
まっすぐに長谷川の目を睨みつけおれの気持ちを言い放った
こんなにも恥ずかしいことを言っているのに何も思わず平然としていられる自分に驚くが、さっきこれより恥ずかしいことを聞いた後だから自分の感性が鈍ってしまったからかもしれない
「そうか、じゃあおれたちはライバルだね?」
さっきまでとは違い長谷川の視線がより鋭くなった
「おれが勝っても文句言わないでよ?」
「それはこっちのセリフだ」
再び差し出された手を今度は握ることはせず目で牽制をしてその場を後にした
「ぜってえ勝つ」
自分史上最高に燃える試合が幕を開けた




