秋人の1日②
お嬢様の様子がおかしい。夕方にお嬢様が起きた後から、明らかにお嬢様の僕に対する態度が今までと違っている。
いやもしかしたら、ベッドに連れ込まれたところからもうおかしかったのかもしれないけど。僕はお屋敷に帰ってきた春菜様と一緒のベッドで寝てしまった。ベッドに春菜様を寝かした所で僕も引きずり込まれ、離してもらえなかった。不可抗力といえば不可抗力だけど、僕も一緒に寝てしまったのは落ち度だと思う。
起きた後にはもういつもの春菜様と違っていた。
「うーん。あれ、僕どうしたんだっけ? って、うわぁ!!」
「おはよう秋人くん。よく眠れた?」
夕方、僕が起きると春菜様はもう起きていた。春菜様は僕が起きたとき、ニコニコしながらこっちをむいていた。この時点でおかしい。ふつうだったら、春菜様が起きて僕と寝てる時点で叩き起こすだろうし、絶対にこんなニコニコしてることはない。
「よく眠れたけど、えーっと取り敢えずごめんね。一緒の布団で寝るなんてやだったでしょ?」
「私もよく眠れたわ。それに昔はよく一緒のベッドで寝てたじゃない。私は全く嫌じゃないわよ。それどころか懐かしくて安心して眠れたくらいだわ。そっちはいやだったかしら?」
春菜様は、そう言って不安そうに僕を見てきた。もうこの時点で僕の頭はパニックだった。
「嫌じゃないよ。それどころか僕もいつもより安心してよく眠れたくらいだけど。春菜様大丈夫? いつもとだいぶ雰囲気が違うよ」
春菜様は僕の発言にパッと花が咲いたような表情を浮かべた。その表情に僕の不安は高まるばかりだ。
「嫌じゃなくてよかったわ。雰囲気が違うのはもう我慢することはやめたの。それだけよ」
「我慢するのをやめただけって言われてもそれだけじゃわからないよ」
「だから、私はもともとこうやって秋人くんを抱きしめながら起きてイチャイチャするような生活を送りたかったの」
春菜様のおでこに手を当てても熱はないようだ。だけど春菜様の調子は、全く良くなる兆しを見せないらしい。さすがに朝までの春菜様と違いすぎて信じることができない。
本当は、普通の幼なじみらしく近い関係でだらだらと生活を送りたかったということだろうか? それが調子が悪いせいで理性が飛んで実行に移してしまった。これであってるのかな?
「熱があると思うのは失礼じゃないかしら。まあ触れてもらえるのは嬉しいけど」
そう言って春菜様は、僕の胸に顔をこすりつけてきた。なんだこれは、もう僕の思考は限界寸前だ。そこで僕は、いまだに春菜様と抱きしめ合っているのに気がついた。取り敢えずベッドから降りなくては。
「春菜様、本当に大丈夫? 取り敢えず僕はベッドから降りるから離れてくれる?」
「嫌です。もう少しこうしていたいです」
もうどうすれば良いのか。春菜様は更に僕を抱きしめる力を増やしてかたくなに僕を離そうとしない。
取り敢えず、今何時か調べようと時計を見ると、夕食を作るための時間はとっくに過ぎていた。僕が軽く焦っていると、時計の近くに夕食は私が作っておきます。と書かれたメモを発見した。
ふう良かった。後で謝らないといけないけど、取り敢えず夕食の問題は解決されたな。そこで、僕は気付いてしまった。このメモがここにあるということは、誰かが春菜様の部屋に入ってきて僕たちを見てしまったことになる。
まずい、これはご当主様に伝えられて問題になるかもしれない。主人と執事という関係ながら、一緒に寝てたなんてしれたら、昔はともかく今は問題になってしまうかも。
「春菜様。この状況を誰かに見られちゃったかもしれない」
「ええそうでしょうね。さっきメイドの一人が来て、私たち見るとメモを残して去って行きましたから」
春菜様は知っていたらしい。気づいたなら起こしてよ。
「いやいや、ええそうでしょうね。じゃないよ。昔ならまだしももう僕たちは大きいんだし、執事と主人が一緒にベッドに寝てるなんてご当主様にしれたら、僕この屋敷から追い出されちゃうかもしれないよ」
春菜様は僕の言葉にムットした表情を浮かべるとさらに抱きつく力を強めてきた。正直ちょっと痛い。
「私、その執事と主人という言い方嫌いです。やめてください。それに、お父様が知ったからといって追い出されることは絶対に有り得ません。絶対に認めてくれます」
「確かに、ご当主様は優しいから、なにもないと頑張って説明すれば、追い出されはしないかもだけど、それでも認めてくれることはありえないよ」
「ふぅ。まあ今はいいでしょう。取り敢えずは今はそういうことにしておきましょう」
その時、部屋の外からノック音が聞こえた。
「お嬢様、それに秋人くんも? お嬢様のご飯の時間です。そろそろ起きてください」
まずい! この状態をこれ以上多くの人に見られるのはよくない!取り敢えず春菜様に離してもらわないと。
「春菜様とりあえずはな「わかりました。少し話したいことがあるので入ってきていいですよ」しって春菜様!?」
春菜様はあろうことか、メイドさんを中に入れるきらしい。僕がどうなってもいいの!?
「あっはい? わかりました。失礼します」
「ちょっま……」
「春菜様、まだベッドに……って秋人くんも。あぁ」
入ってきたメイドさんは僕たちを見るととてもニコニコいやニヤニヤとしだした。これは言い逃れできない。本当に僕は終わったかもしれない。
「一緒にまだ寝ていたのですか。良かったですね春菜様」
「ええ、今起きたところです。それで話なのですが」
春菜様は、僕に抱きつきながら話を始めた。メイドさんも微笑ましそうに僕たちを見ながらその後は僕について何も言わずに話を聞いている。
「というわけで、今日は、いえ本当は今後ずっとがいいのですが、取り敢えず今日は秋人くんと一緒に食事がしたいんです。そのために秋人くん用の料理をお願いしたいんです」
「うーん。別に秋人くんの料理はもうあるのでかまわないのですが、当主様と奥様が了解を示してくれるでしょうか? 昔もそこまでは認めてくれませんでしたし」
「その件は、わたしがなんとかします。では両親の了解が取れたらお願いします」
メイドさんも、それならと納得し挨拶をした後部屋から出て行った。
「というわけなので、両親を説得してきます。寂しいですがしばらく離ればなれです」
寂しいって本当にどうしちゃったのさ……?
「怒涛の展開すぎて何も言えなかったけど、僕どんどん窮地に立たされてる気がするんだけど、僕明日から無職なんて嫌だよ?」
「どんどん窮地に立たせていることは否定しませんが、そちらの窮地ではないので大丈夫ですよ」
どんな窮地かは知らないけど、結局窮地に立たされているんじゃないか。僕に明日はあるのだろうか?
その後、どんな説得をしたのか知らないけれど、僕は春菜様と両親とで食事を摂ることになった。ご当主様は僕を見てやれやれという顔をしているし、奥様も、困り顔の僕とにこにこ顔の春菜様を見比べてため息を付いている。本当に僕は大丈夫なのだろうか?
「今日は、秋人くんも一緒ということだが取り敢えずはご飯をいただこうか」
ご当主様の言葉を合図に夕食の開始となった。ご当主様も奥様も僕たちを気にしながらご飯を食べている。もうそれだけで、僕の胃は何も受け付けなくなりそうです。
「秋人くん口を開けてください」
「春菜様どうしたの? こうでいい?」
「はいあーん」
「むぐっ!?……ちょいきなりどうしたの」
「はいあーん」
「むぐっ。わかったから一旦やめて」
春菜様は僕が口を手で抑えると不服そうな顔を浮かべている。ご当主様と奥様は、僕と春菜様を見て苦笑いを浮かべているし、もう僕は駄目かもしれない。
「私が使ったはしは嫌でしたか?」
別に春菜様が使ったはしが嫌というわけではなくて、もっと根本的な問題があると僕は思うんだけど。
「いや、春菜様が使ったはしが嫌だったわけじゃないけど……」
「ならあーん」
期待するような顔で僕を見つめる春菜様と、それを見つめる春菜様の両親。これは断ったほうが良いのか、それとも受け入れるべきなのか……
「嫌ですか……?」
少し涙目で僕を見てくる春菜様の誘いを断る事はこの状況ではできない。
「わかったよ。あーん」
「よかったです。あーん」
その後僕は全部の料理を春菜様に食べさせてもらった。そして、春菜様は僕にあーんをしたはしを使いとても美味しそうに自分の料理を食べていた。……そんなに料理美味しかったんだ。僕は味が全くわからなかったよ。
「では、みんな食べ終わったな。ごちそうさまでした。」
その後、みんなが食べ終わりごちそうさまの挨拶を行い解散となった所で春菜様が手を上げた。
「あの、頼みたいことがあります」
「ん? どうした」
「今日、少し体調を崩してしまったのですが、その時今日は一日中看病をしてあげる。と秋人くんが言っていたので、秋人くんを私の部屋に1日泊めることにして、看病してもらいたいのですが、許可してもらえますか?」
えぇぇ。1日中って僕がいる間の事だったんだけど。これ以上は本当に僕が無職になっちゃうからやめてー。
「それは、許可できないな。すまないな春菜」
ご当主様も戸惑った表情をしている。ここまで、言い方が悪いが飛んでいってしまった春菜様を見たことがないのだろう。僕もない。
「ですが、秋人くんは1日面倒を見てくれると。それに秋人くんが近くに居たほうが私も安心して回復することができます。」
「なるべく叶えてあげたいのだが、さすがにまだはやい。秋人くんの1日中というのも、秋人くんの顔を見れば彼がいる間という、意味のようだし」
「ですが……」
「春菜の気持ちはさっきわかったが、それでも、もう少し関係をしっかりしてからにしなさい」
「わかりました……確かに焦りすぎていました。今日は諦めます」
はっ! 途中から、緊張で少し意識が飛んでいたらしい。取り敢えず今日は諦めるということで決着が付いたみたいだ。今後はわからないみたいだが、それまで僕はこのお屋敷に入れるのだろうか?
その後は特になく、夕食は終わりになり解散となった。
「では、今日ここまでですね。おやすみなさい秋人くん」
「うんおやすみ春菜様。まだ調子だいぶ悪そうだし、今日はゆっくり寝てね」
「もう体調は大丈夫ですよ。秋人くんと一緒に寝てたら治りました」
その返しは治ってないと思うんだけど……でも、もし本当に治っているとしたらなにがあったんだろう?




