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はじまりの日2

「これから3年間よろしくねあ・き・ひ・とちゃん」


 ご当主様と話し合いを終えた後、春菜様から、学校での話もあるので少し部屋へ来て欲しい。という願いを受け僕は、彼女の部屋へやってきた。そして、部屋に入った彼女の一言目のセリフがこれだ。


「言っておくけど、春菜様のために学校へ一緒に通うんじゃないからね。ご当主様の願いだから一緒に通うんだからね」


僕は自分でもわかるくらいに、苦い顔をしながらもそう強がりを口にした。そんな僕に対して彼女はとても似合う、バカにしながら勝ち誇ったような顔をした。


「そんなこと知ってるわよ。だからお父様を頼ったんじゃない。私が頼んだだけじゃ絶対通ってくれないわ。それはお父様の前で頼んでも。それどころかきっと無茶を言うな止められるわ。だから先にお父様を頼ったの。娘の久しぶりのお願いというのは利くものね」


確かにご当主様は娘を愛している。でもそんな簡単に認めてもらえるとは思わない。


「ご当主様がそんな簡単に認めてくれるとは思えないけど」


「ええそのとおりよ。お父様も最初は渋ったわ。でも最後は認めてくれた。もうそうなったら私の勝ちは確定したようなもの。お父様を尊敬している秋人ちゃんは頼みを断ることはできないでしょうからね」


きっと相当な粘りを見せて、説得をしたのだろう。何がそこまで彼女を動かすのだろうか……

 そう思っていることなどつゆ知らず、彼女は高笑いを上げながら、勝利の余韻に浸っているようだった。これは彼女の動向を観察できていなかった僕のミスだ。今思えば、彼女はこの頃少しおかしかった。昨日のお茶会の時も。


「春菜様なにか楽しそうですね。なにかいいことでもありましたか?」


「そうね。新しい学校がとても楽しみなのよ。どんなふうになるかワクワクが止まらないわ」


「どんなふうですか?」


 この時の会話は確実に僕のことを言っていた。何故気付けなかったんだ。春菜様が楽しそうに笑うときはだいたい悪巧みをしていた時ではないか。それでも何時ものことだろう。そう思ってほうっておいたのが行けなかった。


「春菜様と学校に行くのはわかったしょうがないし認めるよ。だけどちゃん付けで今から呼ぶ必要はないんじゃないかな」


「学校で秋人君なんて呼ばないための練習よ練習。それにこんなに可愛いんだからもうちゃんでいいじゃないの。私があなたに女物の服を着せてた時よりもっと綺麗になって。顔はちっちゃく目はぱっちり、唇はぷくっと膨らんでて肩幅は狭いし、腰も細い。こんな美少女なかなか居ないわよ。久しぶりに見てみたかったのよね秋人ちゃんの女装」


 そう言って笑う彼女を見て僕は辟易としていた。確かに僕は女の子みたいだとよく言われて育った。この頃も女性向けのアンケートに答えてくださいと道端で言われたばかりだ。それでも僕は男子トイレや男湯に入る。心は男なのだ。

 彼女にも何度も言ってきたはずだ。


『僕は君の執事なんだ。君に仕える執事なんだよ。女の子じゃない』


そう何度も言ってきたはずなのに。


「僕はしたくなかったよ。あの頃も言ったよね。僕は男だよって、女物の服より男物の服を着たいって。何度も言うけど僕は君の……」


 その言葉にかぶせるようにまあまあと言いながら彼女は、クローゼットの中をあさりだした。その顔は僕の話など耳に入っておらずとても楽しくてしょうが無いのだと、何も言わずとも伝わってくるようだった。


「何を探しているの?」


僕が嫌な予感を覚え聞いてみても。


「少し待ってなさい」


彼女は楽しそうに、そう返してくるのみだった。そして目標のものが見つかったのか、あったあったと言いながら彼女は、お目当ての物、僕にピッタリ合いそうなメイド服を持って近づいてきた。


「あなたに合いそうなメイド服用意しといたのよ。とは言っても買ったとかではなくて、昨日のうちにメイドの1人に借りておいたの。だからほら取り敢えず着てみてちょうだい。胸は取り敢えずタオルでも入れておけばいいわ。後メイクは、着替えたら私がするわね」


素晴らしい笑顔を向けた彼女と、それを見た僕はもう逆らうことはできないと、悟りこう言うしか無かった。


「手際が良いね……」


その日僕は久しぶりに彼女の着せ替え人形になった。



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