出会いは必然と言うけれどマジで必然だったら世の中どうなってンだ
「何これ。」
思わず呟いた。
目の前には確か数時間前まで建物であった場所。
というか自分の、篠原睦月の事務所であった場所。
朝にはちゃんとこの場所で起きたし、ちゃんとこの場所から出掛けた。
それが今ではどうだろう。
半壊している。
いや、おかしくね?
なにこれなにこれ、家に帰ってきたら家がありませんでしたとか笑えなくね?
おかしくね?
仕事請け負ってきたら、家の修理代まで請け負ってたってか?
うまくねーんだよ、おいマジでどーすんのこれ。
足を一歩踏み出せば、先には己の事務所の残骸である瓦礫が転がっている。
嘘だろおおおお!!
誰か目撃者がいないのかと、というかこんな街中なのに目撃者がいないはずがない、と辺りを見回すが。
なぜか素通り。
誰もこの半壊の事務所に見向きもしない。
なんで!?
むっちゃ壊れてんじゃん!!怪しいじゃん!!
大きい音とか聞こえたでしょ!!
そしたらびっくりすんでしょフツー!!
とまで考えて、はたと気づいた。
あ。この街フツーじゃねェわ。
30年前異神人がこの日本に攻め込んで来てから確かに色んな所に奴らは住み着きはしたが、戦争後はもっぱら東京に集まるようになった。
だから回りを見渡しても人より異神人の方が多い。
断然多い。
こりゃ原因分からずじめーかもな。と諦め事務所の方へ足を踏み出したとき。
ガラリと瓦礫が崩れる音がした。
何かいるのかとその音がした方へ駆け寄ってみると。
少女がいた。
コバルトブルーの透き通る海を思い出させるようなミディアムの髪に比例する蒼玉色の瞳。
年は15歳ほどだろうか。
瓦礫の上に座っている。
座っている?
「なァ、そこで何してんの?」
顔をひきつらせながらおそらくの可能性をまさか、と否定しながら少女に問いかける。
すると少女はゆっくりと口を開き、
「建物を破壊してしまったからちょっと休憩してるわ」
「テメェかぁぁあああ!!」
思わず後頭をひっぱたいたのは悪くない。
悪くないはず。
少女はドシャアと凄い音をたてて転がった。
しまった。
事務所を破壊したとはいえ少女。
やりすぎたか。
と思い大丈夫か、と声をかけようと手を伸ばした瞬間、少女はむくりと会ったときと変わらない傷一つない姿で起き上がり俺の手を引っ張る。
そして、
「いたいけな少女に何すんのよぉぉおおおお!!」
「うそだろおおおお!?!?」
背負い投げた。
ガンッと背中に走る衝撃を受けながら、いたいけのいの字も感じねーじゃねーかと場違いな事を思った。
すると少女は憮然とした態度で俺を見下ろして言葉を吐き捨てる。
「アンタ、こんな可憐な少女ひっぱたくってどーゆーつもり?何様のつもり?王様にでもなったつもり?あり得ないバカなんじゃない?それともアレなの?私に触りたかったの?触りたかったけど小心者過ぎて触れないからだったら後から言い訳がつく触り方で触ってやろうって?そうゆうことなの?」
いきなりの長ゼリフを話始めた少女に思わず瞠目した。
なんだこいつは。
頭イッてんのか。
貧乏ゆすりをして、俺を見下ろしながらいきり立つ少女に半端なく引いた。
しかも明らかに自分の容姿を推してくる。
確かに可愛いが。
100人いたら53人は振り返りそうだが。
ただ俺頭ひっぱたいただけだよな?
つーかむしろ俺が被害者だよな?
なんだこれ俺が悪いみたいになってない?
取り合えず落ち着け、そう自分に言い聞かせる。
そして少女に問いかける。
「オマエ名前は?」
「あるわよ」
「あるわよじゃねーよ。名前は何か聞いてんの」
「あぁ...なんでアンタに教えなきゃいけないの?普通名前を聞くときは自分から名乗るのが常識なんじゃないの?」
くっそこのガキ。
思わず口を噛み締める。
こんなガキ相手にキレるのも大人げないのは分かってる。
落ち着け落ち着け。
「スマン。俺はしの「綺羅よ」なんなのオマエ!?今名乗ろうとしてたじゃん!!俺名乗ろうとしてたじゃん!!つーかオマエが名乗れっつったんじゃん!!俺は篠原睦月な!!」
「あら、よろしく。篠原、睦月...むっくん。合わないわね。むっちゃん。なんかネチャネチャしてて気持ち悪いわ。しのりん。死ねばいいわ。はらむつ。業界用語じゃないんだから。...決めた!!シノ、シノって呼ぶわ!!」
「なんでもいいけど俺年上な」
「あらやだパワハラ?イマドキ流行らないわよ?」
「流行らせようと思ってねーよハッ倒すぞ」
「え?押し倒す??し、仕方ないわね」
「なーに聞いてんだオメーは。なーにツンデレにジョブチェンジしてんだオメーは馬鹿か。誰が押し倒すかそんな貧「はァ?」ごめんなさい」
いきなり顔面を片手で潰された。
あれか、貧乳気にしてんのか。
ギチギチと音をたてて潰される顔面に流石に限界を感じギブアップを知らせるため腕をぺチぺチと叩いた。
話がだいぶ逸れたが、本当に聞き出すべきは名前ではないのだ。
目の前に広がる残骸の原因について聞かなければならない。
しかも今ぶん投げられたお陰で余計に破損場所が増えている。
顔をギチギチと潰されてる場合じゃない。
そう思っているとベシッと乱暴に手を離された。
マジかよこの狂暴女。
女らしさの欠片もねーな、外見と言葉づかいだけが救いか。
ケホケホと噎せながら立ち上がる。
俺顔歪んでないかな?
大丈夫これ。
己の顔をペタペタと触り、異常が無いことを確認する。
よし、無いな。
さてと、と綺羅に向き直る。
「なんで、俺の家壊したんだ?」
「...仕方なかったのよ」
俺の問いに綺羅はす、と目を伏せる。
綺麗な蒼色に影がかかる。
もしかして、何か訳があるのか。
例えば、何者かに追われていた、とか。
思わず睦月は少し眉をひそめた。
そして、もういいと。
話さなくてもいいと、声をかけようとした時。
綺羅は重々しい雰囲気で口を開こうとする。
しかし、なかなか言葉にならないようで閉口を繰り返す。
「オイ、言いたくねェなら...」
「いえ、言うわ。」
綺羅は決心した様子で拳を握りしめ言った。
「お腹が空いていたの。」
「......はァ?」
「お腹が空いていたのよ。私こう見えても異神人でね?傭兵民族の悪修羅族っていう種族なの。最近、とゆーか一昨日私達の故郷が潰されて今日この街に着いたのだけれど、あいにく手持ちがなくてね。イライラしてたんだけどー、フと横を見ればなんか腹立つ建物があるじゃない?イラッとして...いや、出来心でやりました。ごめんなさい」
「いや、ごめんなさいじゃねーよ。え?なに?つまりお腹が空いてた腹いせで俺の住み家奪われたの?俺の城ブレイクされたの?イライラする建物ってなに?んな建物あるわけねーじゃん。そんなんあったら俺だってそこら辺の建物壊して回ってるわ。出来心で住み家奪われたらたまったもんじゃねーよふざけんな。つーかさ...」
いったん言葉を切る。
故郷が滅ぼされたのは分かった。
実際それはとんでもなく悲しいことなのだろう。
その悲しみはきっと本物だ。
人間である俺に異神人だと告白することもまぁ勇気がいるだろう。
この国には、異神人を排除しようとする者がまだ残っている。
戦争時に比べればだいぶ少なくなったといえども、政府の処罰から生き残った者達がたくさんいるのだ。
その者達は何れも指名手配されているが。
だがまぁそんな事は今は関係ない。
大切なのは、
「そこまで言い淀む理由じゃなかっただろぉがぁぁあああ!!」
たまらず鼻フックを決める。
ガツンッと音をたてて綺羅は顔面から沈む。
あ、やべ。
破壊傷増えてねーかな。
あ、大丈夫だ。
破壊具合を確かめていると、
「ゴフッ」
アッパーカットを決められた。
「アンタ本当に馬鹿ぁぁあああ!?乙女に鼻フックするなんてまじであり得ない!!こんなか弱い乙女にぃぃいい!!」
「か弱いの意味わかってる?少なくともオマエはか弱くねぇ、ゴジラだゴジラ。100歩譲ってモスラだ。」
「変わってねーじゃねぇか!!譲れてねーよ!カタツムリがナメクジに変化したくらいの違いしかねーじゃねぇか!!どっちもキメーとこだけ残ってんじゃん!!」
「お、おぉ...喋り方変わってンぞ」
「あらやだ死ねば?」
「なんで?」
そこまで言い合いをしてから、睦月はハァ...とため息を吐く。
とにかく、と言い辺りを見回す。
壊れたのは二階だけ。
何とか一階は無事だ。
生活は出来るだろう。
基本的に生活は一階、事務所は二階としてやってきたのだ。
書類等も一切残さないタイプなので問題はない。
唯一二階に置いてあった大切なモノも先程見つけた。
それに二階はまぁ知り合いに任せれば明日の午後には直っているだろう。
睦月はそこまで確認し、まったくもうとか何とか言いながら服のホコリを払っている綺羅に話しかけた。
「オメーどうするよ。」
「どうするって?」
キョトンとしながら聞き返す綺羅に半ば呆れる。
「だーからこれからどーすんだよ。無一文なんだろ?それに腹が減ってる。どーすんの?」
そう聞くと、ハッとした顔をしてうんうん頭を抱えて悩みだした。
何も考えてなかったなこのバカ。
「俺ァ請負屋だ。依頼されたら何でもこなす。殺しや犯罪以外はな。」
「は?請負、屋?」
「そうだ。だがテメーは帰る場所もねぇ、金もねぇ。さぁ、どうする?」
綺羅は顔を輝かせて、わかったわ!!と叫ぶ。
「体で払えばいいのね!!」
「なんでそーなった。」
バシッと頭をはたく。
痛い!!と声をあげるが知ったことかそんなの。
綺羅の頭にグリグリ攻撃をかけながら言葉を紡ぐ。
「言ったじゃん。貧に「はァ?」...ガキの身体に興味ねーってよォ。別に困ってねーしやめてくんない?そーゆー勘違いやめてくんない?まじで。」
ったくと息を吐き、最後にペシッと頭を軽く叩いて解放する。
そして、
「雇ってやるっつってンだよ」
風が吹いた。
綺羅は少し目を見開いて、クスリと笑った。
「分かってるわ。」
その言葉に睦月は分かってんのかい、とツッコミそうになったが続いた綺羅のでも、と言う声に口を閉じた。
「私は異神人よ?人間の嫌いな生物よ?おそらく一番。そんなヤツを雇えるの?得体も知れないのに。」
少し、ほんの少し寂しそうな声質だった。
あぁ、コイツはきっと人間が好きなんだろう。
だから故郷から旅立つとき、他の星を選ばないで地球を選んだのだろう。
そう茫然と感じた。
「あなたは、化物と過ごすことができるの?」
その言葉に睦月はフ、と笑った。
吹いた風に、揺れる無造作な黒味がかった赤い髪。
細まる赤水晶に少しドキリとした。
「かまやしねェさ」
その言葉に綺羅は着いていこうと決めた。
きっとあなたに会わなかったら感じられなかった胸の暖かさに、きっとあなたに会わなかったら知らなかったであろう優しさに。
思わずフフッと溢れる笑い。
「ならお願い。私を雇って、シノさん。」
最後に紡がれた言葉に睦月は少し目を見開いて、シノでいいよと呟いた。
「あーァ、めんどくせぇ拾いもんしちまったな」
そう言いながら、瓦礫を蹴る睦月に綺羅はムッとする。
「何よ、雇ってくれるって言ったのはあなたよ?」
そんな綺羅の頭にカハッと笑いながら手を乗せ、
「そらそーだ。じゃあよろしく頼むぜ?綺羅」
初めましての名前を。
乗せられた手を退けるでもなく、全く意に介さない様子で、
「ええ、よろしく。シノ。お世話になるわ」
初めましての世界へ。
二人が出会い仲間となった春の爽やかな興味深いこの日。
綺羅がフと視線を下げたその道場なの隅に、母子草が見えた。
ああ、やっぱり今日は良い日だわ。
そう思いながら、己の故郷とは違う快晴の空を見上げ微笑んだ。
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おまけ
「私ほんとにこの家に住んでもいいの?」
「いいって。つーか住むしかねーだろ。」
「でも...」
「デモもクーデターもねーよ。...あぁ!大丈夫だ襲わねーから」
「ほんとに?」
「あたりめーだろーが。どんだけ気にしてンだソコ。あ、繋がった。もしもーし俺だけど。...はァ?オレオレ詐欺じゃねーよ...だから違うって...なんだオレオレ詐欺じゃねーよ詐欺って!!一回否定する意味ねーだろ!!そんな事言ったら全員検挙だろーが!!...そうそう本題は、今から俺ン家来てくんね?二階半壊してっから。...ちげーよ俺じゃなくてどこぞの貧乳ブスが「エイッ」ぁぁあああ!!!?てめッケータイ壊してンじゃねーよ!!」
「うっさいわね、貧乳で何が悪いの?しかもブスじゃない。ぜぇったい可愛い。」
「そこそこな」
「はァ?ぶん殴るわよ?」
「ごめんなさい。謝るから瓦礫置いて、お願いだから置いて。」




