邂逅、そして戦闘
異世界に転生してしまった高校生、藤田翔は、そこでエレノアと呼ばれる王女と出会う。彼女を守らんとする兵士、そしてそれを排しようとする勢力の争いに彼は足を踏み入れる。彼に与えられたスキル"再生"で、無双する。
『再生、さ。』藤田翔の頭の中で声がした。彼がふと目を開けば、一面は緑で覆われていた草原だった。正確に言えば、周りには木が生い茂っているため森の中とでもいうべきだろうか。
藤田翔は目をこすった。彼は今までこのような夢などみたこともなかった。そもそも、自分は日本にいたはずだ、いつものように高校に通い、探して、手がかりも見つけられずに・・・
彼は心の中でそうつぶやいた。
夢だ。夢であるべきだ。そう淡い期待をもった彼の幻想は次の瞬間打ち壊された。影を落とす巨大生物。爬虫類の見た目をした巨大な生物。そして、両側には雄々しい翼が生えていた。ドン・キホーテなら討伐を挑むだろう、ドラゴンと形容するしかない生物が上空で空をかけていた。幸い、矮小な翔のことなど気にも留めていないようだ。
情報量の嵐に頭がふらついたが、今現在自分がおかれている状況が馬鹿げているということは理解できた。諸々確認する前に、とりあえずここから出なければならない。森の中で夜を過ごすなど彼にとってあまり考えたくはない事態であるからだ。
『とはいっても・・・どっちに向かえばいいんだ・・・』
彼が右往左往しているうちに、日が暮れてきた。とりあえず見つけた小川のようなところをたどったはいいものの、それがあっているか翔には見当がつかなかった。
『川に出ることができれば、そこに人がいるかとも思ったけど・・・これは本当にまずいなぁ。腹も減ってきたし、どうすればいいんだ・・・』
誰に聞こえなくもないような声量で彼は独り言を紡いだ。翔の体は疲弊しており、もはや叫ぶ気力も無かった。そんな時に、彼の眼光にかすかにあかりが見えたような気がした。遠くの闇からちらっと、炎の柱のようなものが彼には見えたのだ。それは道に迷った翔にとって、灯台の光のような希望だった。
翔は思わず走った。息を荒げながら、とにもかくにも走った。
『誰か!いますか!助けてください!』
翔が近づいてみるとどうやらそれは焚火のようだった。そして、数人の人影が見えた。心細い探検もようやく終わりを迎えたのだ、と思った矢先、翔の喉元に短剣の切っ先が迫った。
『何者だ!!動くな!動けばその喉元を掻っ切るぞ!』
頑強そうな甲冑を来た兵士が翔をつかみ、そして地面へたたき伏した。辛うじてのぞき見えたその目には殺意と、そして焦燥が見て取れた。
『ふ、藤田翔だ!じゃあなくって、ああ、ええっと、遭難して・・・そこで明かりが見えたから、助けてもらえないかと・・・・』
焦りながらも翔は言葉を紡いだ。声は震えていたが、ちゃんと言葉にはできていたようで、兵士は周りの兵士に目配せをした。
『さて、どうする?こいつ、嘘をついている感じはないが、怪しすぎる。殺すか?』
『殺害に一票。生かしておく価値がない。それに、服装も小綺麗だ。遭難しているなんて信じる方が難しい。』
翔を取り囲んで包囲していた兵士の一人がそう発言した。その言葉を皮切りに、兵士たちが次々に言葉を発した。
『私は反対~。別に悪い人じゃなさそうだし、可哀そうじゃない?顔も悪くないしね~』
『儂も反対だ。もし本当に遭難しただけの民間人であれば、それを殺すのは兵士の倫理に反する。そんなこと、獣が行う行為である。我々は人間であろう?』
意見が真っ二つに割れた。そして、兵士たちは目線を一斉に奥に座っている人影にやった。地面と完璧に接地している翔から顔は見えなかったが、気品を感じる声で発言した。
『離してあげなさい。おおかたの正体は察することができるわ。それに、あなたたちで抑えられるようであれば、問題はないし、この森は夜になると魔物が出てくるでしょう?』
『了解しました。お嬢様。というわけで、良かったな、藤田とやら。寛大な心に感謝せよ。』
そう兵士は言い放つと、ようやく翔の体を押さえつけていた剣と拳が離れた。ふう、と一息つき、見渡してみると、翔のほかに兵士らしき人が四人、そして、奥には甲冑を着た、しかして高貴なオーラを放つ少女が翔をじっと見つめていた。月明りに照らされたその瞳は、人を吸い込む魔力を感じるほどきれいであった。
『ありがとうございます。命を助けていただき感謝します。ところで、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか。』
翔は礼儀作法などあまり詳しくはないが、取り敢えずそれっぽい言葉と姿勢をとってみた。
『時間がないから、移動しながらでも答えてあげるわ。我々はもとよりここに小休止してただけ、町までは送ってあげるから安心しなさい。』
その申し出に頭を深々と下げた。とりあえず、この森を出てから色々思案しても遅くはないだろう。魔物がはびこるらしいこの森を、形は違えど護衛してくれるのはありがたい。
『ってなわけで、イシュメール、お願いね。』
そう彼女が言うと、イシュメールと呼ばれた兵士は、何やら呟き、その瞬間、亜空間から箱から何かを取り出すように、古い馬車のようなものが現れた。ようなものと表現したのは、馬は繋がれておらず、駆動するための機構が横についていたためである。
『乗りなさい、もう出発するわよ。』
『ありがとうございます。』
兵士が次々に乗車し、それに続いて翔も乗った。
『この度は本当にありがとうございます。皆様のお名前を聞いてもよろしいですか?』
車が動き出し、少し経ったところで翔が切り出した。
『私の名前はイシュメール。お嬢様の護衛だ。あまり気安く話しかけるな。』
『私は~メアリー。メアリーちゃんって読んでね~。ところで、君顔かわいいね~』
『俺の名前はファウスト。好きなように呼べばいい。お嬢様にはふれるなよ。』
『儂の名前はアンデルセン。しがない老兵だが、よろしく頼むよ。』
まずは兜を脱いだ兵士たちが語り出した。イシュメールと名乗った人物は赤髪で、りりしい顔つきをしていた。反対にメアリーと名乗った人物はほんわかしている雰囲気をまとっており、ファウストはただ無心にこちらを向いており、アンデルセンと名乗った老人は白く長いひげをなでながら手を差し出してきた。翔は取り敢えず手を取り、握手をした。礼儀作法が日本と一緒だったらいいのだがと思ったが、翔が見たところそこまで差異は感じられなかった。
『ありがとうございます。僕の名前は藤田翔です。一応・・・分からないとは思いますが日本という場所から来ました。この度は助けていただいてありがとうございます。』
そういうと、一番奥に座っていたお嬢様と呼ばれていた少女が振り返り、翔を見つめながら話しかけた。
『私の名前はエレノア・ド・モンフォート。あなた、外導者ね。その無知さ加減を見るに、最近こちらへ来たのかしら?』
『はい、そうです。ところで、外導者っていうのはなんでしょうか?』
聞きなじみのない言葉だが、ニュアンス的には外から来たもの、ひいては異世界から来た異人という意味だろうか。そう考えていると、兵士こちらを見つめ、警戒態勢に入った。
『お嬢様、そう分かっていた上で、彼を助けようとする姿勢は素晴らしいです。しかし、私はやはり危険だと思うのです。“彼ら”に通じていない人間だということが、確信を持てないのです。』
イシュメールがエレノアに進言した。どうやら外導者というものは好ましく思われていないらしい、と翔は思った。
『そうね、そうかもしれないけど、それでも私は助けるのよ。お母さまならそうしたわ。それに、これは未来に繋がることよ。人ひとり助けられなくて、どうして上に立てるかしら。まあ、あなた達に迷惑はかけてしまうかもしれない。それはごめんなさいね。』
彼女はイシュメールにやさしく語り掛けた。その光景があまりにもまぶしく、彼女の周りに淡い光が集まっているかのような幻覚さえ見えた。
『了解しました。過ぎた進言申し訳ございません。私どもはあなたを守ることが使命です。迷惑などとんでもございません。』
イシュメールがそう言うと、周りの兵士が微笑み、彼女も微笑みで返した。翔には詳しくは分からなかったが、彼女たちは固い絆で結ばれているのだろうと思った。
『すみません、少し気になってしまって。“彼ら”とは一体何ですか?もし、教えていただけるのであれば教えてほしいです。』
部外者が口を挟むような雰囲気ではなかったが、警戒される理由が気になった。
『それはね~私が教えてあげよっか~?』
『今ね~この国を倒そうとする勢力がいるの~。そして彼らは外導者の集団なのよ~。これは一般的にはあんま知られていないことなんだけどね~』
メアリーと名乗った女性が気の抜けた、ほのぼのとした雰囲気でそう言った。
『やめなさいメアリー・。今話すような話ではないわ。ただ、貴方に助言するのであれば、目立たたないように生きなさい。今の情勢的に少し厳しいかもしれないけれど、普通に生きることには困らないような国よ。』
何か言おうとしたメアリーをエレノアが静止した。察するに、悪さをしている外導者がいて、それで外導者自体が冷ややかな目線で見られているのだろう。なんとも迷惑な話だ。
『こっちに来なさい。儂が先ほどの傷を手当てしてあげよう。』
しばしの沈黙が流れたのち、アンデルセンがこちらに話しかけてきた。包帯のようなものを手に持ち、先ほど押し倒されたときの手と、切っ先が当たっていた首辺りを見回した。
『おや、これは奇妙であるな。傷などどこにもないではないか。』
アンデルセンが驚きながらそう言った後、自分でも触れてみると、そこに傷はなかった。確かにおかしいことではある。その時の痛覚を覚えているし、現に出血していたはずだ。
『あっ、「再生」ってそういうことか・・・?』
一瞬考えたのち、最初に頭に流れた声を思い出した。再生、再び生きる。まさに自分の身に起こっていることであり、そしてその文字列が意味するのをそのまま受け取れば、自身の傷が治っていることに関して納得がいく。少しの間考え込んでいると、ファウストがこちらを向き、話しかけてきた。
『貴様の能力の話か。確か、外導者にも一人一つ与えられるのだろう?』
『そうなんですね。ただ、能力の詳細も規模も検証が必要そうですね。』
どうやらこれは一人一つ与えられるものらしい。そう考えれば、生存するということに関してこれほどうってつけの能力は存在しないかもしれない。相手を倒すという手段には欠けているかもしれないと翔は一瞬考えた。
『ふん、まあ精々頑張るといいさ、どうやら運はあるらしいからな。』
『貴様の持っている服だと目立ちすぎるし、防具にもなっていないだろう。これをやるから、持っていくがいい。』
そうファウストが言い放つと、何やらつぶやき、虚空の空間から服と軽装の防具を取り出した。丁度伊シュメールが車を取り出したのと同じような感じであった。
『ありがとうございます。ところで、その取り出すのって、どうやっているんですか?』
もらった服と防具を身に着けながら翔は尋ねた。ファウストはため息交じりに返答した。
『はぁ、本当に何も知らないのだな。これは、「ボックス」というこの世界での常識みたいなものだ。それにある程度ものを入れることが出来る。ただ、劣化はするし、容量は当人の実力によるものが多い。開けるときの解号は「リリース」だ。これは貴様ら外導者にも使える。他にも使えるテクニックはあるが、そこまで説明する義理はない。』
『いや、充分です。ありがとうございます。ええっと、「リリース」。』
そう唱えてみると、空間に四角形の穴のようなものが現れた。中を覗き込むと、箱のような空間が見える。大きさにしたら半畳くらいの立方体だろうか。
翔は少しの間考え込んでいた。この「ボックス」と言われる技術と自分の能力を合わせたら何かできないかと思考を巡らせていたのだ。それには少しの実験が必要だと思い、アンデルセンからナイフを借りた。自身の腕を傷つけ、そして能力の把握を行おうとした。
その結果分かったことがいくつかある。一つ目は、再生は意識的に止めることが出来ること。再生する速度や、再生する箇所は選べるようだった。二つ目は、再生するときに血などの対象が近くにあれば、それらを巻き込んで再生しようとすることである。つまり、出血した時に近くにその血があれば、再生するときにそれが時を戻すかのように傷口に戻っていくということだ。なんだか汚らしい話ではあるが、この特性は何かに使えそうだと彼は感じた。そのようなことをしている彼を、イシュメールは気持ちが悪いものを見るような目で見ていた。
『ありがとうございます。アンデルセンさん。助かりました。』
『いや、返さんでええよ。お主の護身用にもなるじゃろう。特段高価なものでもない。』
アンデルセンは少し引きながら、ナイフを翔に譲渡した。
『ところで、じゃ。お主、ここに来たのは偶然じゃろうが、何かやりたいことなんかはないのか?生きる目的がなきゃあ、異国で暮らすのは辛かろうて。』
アンデルセンがナイフから話題を逸らすかのようにそう尋ねた。翔は少し考えた後、質問に答えた。
『そうですね。今のところは、わかりません。ただ、あなた達に助けられた命ですから、誰かを助ければいいなと思っています。』
彼の口から出るには少しクサかった台詞ではあったが、彼の胸中では妹の姿があった。立派な兄になるため、それが昔からの彼の行動原理であったためである。藤田翔は、命を助けてもらった彼らに、恩と尊敬の念を抱いていた。
『ふん、偽善の戯言だな。それがいつまで続くか見ものではあるが。』
イシュメールが不愉快そうに鼻を鳴らし、翔をみおろした。兵士の彼女からしたら、きれいごとの彼の言った言葉は地雷だったのかもしれない。
『まあまあ~イシュメール落ち着いて~。ほら、翔くん、結構かっこよかったわよ~』
メアリーがイシュメールを宥めた。あいも変わらず穏やかな雰囲気を纏っていた。
だが、それが一瞬で変化した。初めに気付いたのは藤田翔だった。強烈な悪寒。圧力。死へといざなう嫌悪感。圧倒的な力。煉獄のように燃え盛る殺意。それがこちらに向けて放たれていた。一瞬遅れてイシュメールがそれを感じ、戦闘態勢をとる。それに呼応するように、斬撃が、隣にいたメアリーを葬った。
血、鉄と臓物の匂い、真っ赤に染まる視界。破壊される車。事態を把握する前に、藤田翔はそれを感じた。イシュメール、アンデルセン、ファウストは攻撃を回避し、エレノアはイシュメールに抱きかかえられながら脱出していた。藤田翔は吹っ飛ばされながらもなんとか着地していた。
『イシュメール!!お嬢様を連れていけ!藤田!イシュメールについていけ!』
ファウストが大声をあげて叫んだ。アンデルセンとともに臨戦態勢を取り、殿を務めんとするように影に挑んでいった。藤田翔は訳もわからず、言われたとおりにイシュメールについていった。
イシュメールは苦痛に顔をゆがませながら、その場から離脱する前に彼らに声をかけた。
『必ず後で合流せよ!!死ぬのは許さん!!許さんぞ!!!』
彼女が手を血が出るほどの強さで握りしめているのを、翔は必死で走りながら見ていた。
数刻走っただろうか。翔は自身の足が燃え盛っているかのような感覚がするほど、必死で走っていた。だが、イシュメールが突然走るのをやめた。その理由は翔にも理解できてしまった。先ほどの殺意が、影が、すぐ後ろに迫っていたのだ。つまり、彼らは・・・
ガタッ、っと何かが飛んできた。藤田翔の足元に転がったそれは、血まみれになった二つの首だった。顔はぐちゃぐちゃになっており、もはやどちらか区別がつかない状態であった。それを目にした時、初めてエレノアは頬に涙を浮かべ、小さく嗚咽を漏らした。
『お嬢様。お逃げください。出来るだけ遠くへ、生きてください。』
『嫌よ。嫌よ。嫌よ。みんな死んでしまうなんて。置いていかないでよ・・・』
小さく、か細く、押し殺すような声でエレノアはつぶやいた。イシュメールはそれを見て微笑み、彼女の頭を撫でた。それは母と娘のような光景であった。
それを見ていた影、いや、男は斬撃を放った。辛うじてイシュメールが受けたが、その斬撃は彼女の左腕を切断し、エレノアの視界を朱色に染めた。藤田翔はそれを黙ってみていることしか出来なかった。恐怖で足がすくんでしまっていた。
イシュメールがエレノアの額にキスをして、翔に目配せをした。それの意味することを理解し、翔は彼女の手を取り、抱きかかえてその場から逃げ出した。最後に見たイシュメールの申し訳なさそうな、満たされているような顔を脳裏に焼き付けながら、翔は暗闇へと走り出した。だが、それも長くは続かなかった。殺意が、影が、追いついてしまった。
毎日更新をなるべく続けていけたらなと思っています。頑張ります。




