006★とりあえずは、ゲームの記憶を頼りに安全地帯へ
思考の堂々巡りを振り払い、自分なりに気配を消すように心がけながら、おぼつかない足取りでソロリソロリと記憶をたよりに足を進める。
とにかく、足を少しでも動かして、安全部屋にいかなければ………。
もし、ここで魔物と遭遇したら、死ぬよりもおぞましい未来しか待っていないのだから………頑張るのよ、シルビアーナ。
魔物の産卵母体にされるなんで、絶対にごめんよっ。
流石エロゲー会社って言うような、破廉恥なスチルのような目には陥りたくないわ。
はぁ…はぁ…息切れして…呼吸がキツイわ。
そういえば、パーティー全滅で男性キャラや獣人キャラでも、魔物の産卵母体なんてコトもあったわねぇ~………アレは画面内のことだけだったけど。
もし、ここで魔物に捕まったら、リアルでああなるってコトなのよね。
絶対にそんなコトは御免よっ。
パーティー全滅時の様々なおぞましいスチルを思い出して、私は身体をブルッと震わせてしまう。
鳥肌が浮かぶと同時に、妙な喉の渇きまで感じながら、私は震える足をとにかく必死で動かす。
一歩の歩幅が狭いだけに、進みは遅い。
無音の空間に自分の足音と息遣いだけが響くのを感知しながら、私は魔物との遭遇が無いことを祈りつつひたすら震える足で歩みを進める。
空間に漂う濃厚な魔素の帯の存在に気付き、安全部屋までの距離が近付いたことを感じた。
僅かな安堵感が訪れると同時に、私は空腹感と喉の渇きをしだいに覚える。
が、今は非常に危険な状態の中にいることを自覚しているので、ゲームの中の記憶を頼りにひたすら歩き続けるしかなかった。
とにかく、今は安全地帯へとレッツゴーよ……頑張るのよ、私。
ああ、もう…ドレスが重くて…歩きにくいし…はぁぁ~…困ったわ。
今履いている履物は、ピンヒールなので歩きにくいことこの上ないし。
そう、パーティー会場に敷き詰められたジュータン用に仕立て上げられているピンヒールだけあって、とても歩きにくいのよねぇ。
あのお花畑のルドルフ皇太子と、ろくにダンスなんてモノしたことないのに………。
それでも、ダンスをするためのピンヒールを履かないといけないのは苦痛でしょうがなかったわ。
こういう、硬質な石造り?を長時間歩くようには作られていない履物なのよねぇ………ピンヒールって。
まして、今の私はドラム缶のように太っているし………。
足首やつま先に自重がのしかかってキツイわ。
それもこれも、未来の皇太子妃教育など色々とストレスが溜まる生活だったセイよ。
ストレスを緩和するために、自重なく食べ物を常に口にしていたから、こうなってしまったのは………まぁ…自業自得かもしれないけど。
前世の言葉でいうところの………過食症というモノになっていたのね。
そんな生産性も何も無い思考をグルグルさせながらも、私は必死で重い足を動かす。
前世の不確かな記憶と漂う魔素の帯に導かれ、私はひとつの門の前まで到達した。
はぁ~……何とか魔物と遭遇せずに、目的の場所目前まで到着したようね。
そこに存在する精緻な細工が施された強大で豪奢な門を見上げ、私は盛大な溜め息を吐いてしまう。
「うふふふふ……終わったわ…私の人生………コレって、間違いなく創造主の最初の神子が封印されている間だわ。この精緻で豪奢な門扉の向こうには、狂った異形の姿の神子が縛鎖で封印石に縫い止められいるはずだもの………はぁ~………」
下手に封印の間の門扉に触れると、勝手に開封されてしまうおそれがあるから、気をつけないと………。
たしか、この封印の間の門扉の左右に、控えの間があるのよね。
左右どちらか片方しか開かないから、ここで私は随分と迷ったのよねぇ………。
ネットでは、どちらも部屋の中身の内容は変わらなかったから、封印の間を正面にして、右側の部屋に入ってたのよねぇ………。
そんなことを考えつつも、どうせここでこの命も終わりという思いもあって、入ったことの無い左側の部屋の扉を開けて入る。
私は、きっと馬鹿なのだろう。
入室した左側の部屋は広さにして、20畳ぐらいあるった。
私はゆっくりと室内を見回す。
相変わらず、通ってきた廊下同様に、壁や天井がうっすらぼんやりと内側から仄かに光っているだけである。
「えぇ~とぉ~…確かに、何時もゲームで入っていた右側の部屋の中と変わらないわね。物の配置も左右対称になっている感じね」
思わず独りである寂しさから、声に出して呟いてしまう。
通常は、ネット仲間と集って、チームで挑んでいただけに………。
何度、あの正面の封印の間の奥に封じられた狂いし神子に挑んで果てたか………。
「はぁ~…独りって堪えるわぁ………まして、武器すら無いし………」
ゲームの中では、魔術師や魔法使いが光の魔法で部屋をもっと明るくしてくれていたのよねぇ………。
と、そんなこと考えても仕方が無いわね。
とにかく、もう足が疲れちゃったし………限界だわ。
そう思い、改めて薄暗い室内を見回し、大きなソファーを見付けて歩き出した。




