第九陣:"壁"は分厚く"溝"は深いのである
場面は前回から引き続き、西暦2017年3月7日。
東海地方某所の都心部に建つファミレス店内。
「改めて自己紹介をさせて貰うわ。
時空管理機構DORAARSオヴァラー第二大隊所属、
ヴァルトルーデ・ハルトマン准将よ」
「同じくDORAARS准将、ナンヴァー第六大隊所属のモロハシ・マガイよぉ〜。
宜しくね、"遺恨リーパームジョウ"くん♪」
(や~っぱりかァ~……)
込み合う店内で相席になった"軍服女"と"オネエ獣人"
――聊か変化球気味だが宛らスラングとしての『美女と野獣』めいた二人組――
その正体は、まさにユウトらが恐れてやまねえ存在に他ならず……
(しかも揃って准将って、結構な上級職じゃねえか……!
よく知らねぇけど将官って要するに指揮官クラスだから、
現場に出張ってくることは稀なんだろっ!?
それとも何か、俺のタイムスリップはそこまでヤバい案件だってか!?)
内心ツッコミを繰り返さずにいられねえユウト。
警戒する余り対面の二人にどう言葉を返したもんか分からず、
思わず箸も止まっちまう。
[Mujo, there's no point in worrying.
Shouldn't we also behave politely?
...I probably think the same way you do.]
(和訳:ムジョウ、悩んでいても仕方ありません。
我々も礼儀正しく振る舞うべきでは?
……恐らく私もあなたと同じように思っていますが)
挙句見かねたテリテスターターに小声でこんな風に言われちまう始末。
実際、相手は未知の領域に片足突っ込んでるどころか、
飛び込んで泳ぎ回るのがデフォルトの圧倒的格上。
逃げも隠れも逆らいもできねえとなったら、
敬意を払うぐれえしか選択肢は残ってねえ。
『……此方こそ、お初にお目に掛かります。
ハルトマン准将閣下、並びモロハシ准将閣下……
防衛組織"セキガハラ"特務実戦二課所属改造型ヒーロー
"遺恨リーパームジョウ"こと、ホンゴウ・ユウトと申します』
[I am Theristestarter, assistant to Mujo.
Please remember me from now on.]
(和訳:ムジョウの助手をしております、テリテスターターと申します。
以後お見知りおきを……)
張り詰めた中、
半ば追い詰められた精神状態で、どうにか言葉を紡ぐ。
果たして対応に不備はないだろうかと、
揃って気が気でなかったワケだが……
「准将閣下、って……」
「……なんか、堅苦しくない?」
二者の返答はどうにも予想外……
怒りも苛立ちも敵意もねぇ、純粋な"困惑"だったんだ。
あたかも『もっと親しげに話しかけて欲しい』と訴え掛けるかのような……
例えるなら連れ子に警戒されてる再婚相手(?)みてーな……
当然、ユウトらとしちゃ予想外ったらねぇワケで……
「というか、あなた達……」
「アタシらのこと、どう思ってんの?」
『……えっ』
[What?]
(和訳:何と?)
思わず気の抜けた声が出ちまうものの、即座に取り繕う。
『あッッッ! えッッ……! そのー、ですねェ~……
お二方ッ、何ぞ非礼でもありましたら大変申し訳ございませんッ。
然し乍らその、口答えするようで恐縮なんですけどもっ、
自分めらとしましてはですね~、
やはり天下のDORAARSが構成員様、
それも将官閣下相手となったら流石に敬語使わなきゃ無礼だろうなと、
まァそんなように愚考しました次第でしてハイッ』
[In addition, we are dealing with illegal time travelers
who disrupt the harmony of space-time...
To put it another way, it’s like pests encountering an exterminator,
or weeds facing a brush cutter.]
(和訳:加えて我々は時空の調和を乱す違法タイムトラベラー……
例えるなら駆除業者と対面した害虫か、
刈払機を前にした雑草のようなものですので)
『そそ! ホント草刈り機の前に生えてる雑草つーか、
カビキラーを向けられたタイルのカビみてーなね!』
「害虫はともかく、雑草にカビって……
いや害虫も大概だけど、あなた達……」
「幾ら何でも自分らを卑下し過ぎじゃなくって?」
……実際、仮にも"刈り取る者"名義でやってる奴が、
謙遜とは言え"刈り取られる物"を自称するなど、
果たして冗談にしても笑えねえし何ならサムいまであるだろう。
「アナタたち曲がりなりにもギネス級の現役ヒーローとそのガジェットなんでしょ?」
「謙遜も行き過ぎると自虐……一周回って無礼になりかねないのよ?」
『いやはや、全く重ね重ね申し訳ございませんホントもう……
然しですね~その~、圧倒的力量差と決定的格差の前には、
改造型ヒーローだろうがただのバイオノイドですんでハイ……』
[Moreover, gadgets are truly nothing more than mere tools.
To us, the two of you are so great, truly like legendary monsters or gods.]
(和訳:ましてガジェットなどいよいよ本当にただの道具に過ぎません。
我々にとってあなた方二人はそれほどまでにも偉大な、
まさに伝説の魔物や神々のような存在なのです)
((そこまで言うかぁ~……))
それで将官どもは思い知った。
自分達が外部からどんだけ怖がられ、
そしてまた嫌われてんのかを。
……そしてまた同時に、奴らは頭を抱えた。
〈どうするのマガイ。
思いの外溝が深いというか、私達物凄く怖がられてるみたいだけど……
こんな調子じゃいよいよ交渉以前の問題じゃないっ……!〉
〈ダイジョブよぉ~。誤解の原因は凡そ察しがつくし、
禍根ハンターはじめ過去の人間への対応も的確だった辺り結構賢いもの。
あなたとアタシで誠心誠意真心込めて事情説明すれば分かってくれるってばっ〉
〈……だといいいのだけど〉
〈てゆーか、ここで上手く纏めないとアタシらいよいよ詰みなんだからっ、
何としても誤解解かなきゃいけないしっ……まして交渉失敗なんて許されないわ〉
〈つまり……"ミス即ち死"ってコト……?
……辛いわね……ものすごく……〉
念話での意味深なやり取りを経て、
乳のデカい別嬪と図体のデカいオネエ獣人は"交渉"に向けて一歩を踏み出すんだ。
「あのね、ムジョウくん……いえ、ホンゴウくんと呼んだ方がいいかしら?」
『――へァいッ!? なんで御座ェましょうかッ、ハルトマン准将閣下ァ!
何なりとお申し付け下さいませ!
あと呼び方はお好きになさって構いませんでハイッ!』
「……それと、テリテスターターさん? でいいのかしらねェ~」
[How have you been, Vice Admiral Morohashi?
I have no particular preference for how you address me,
so you may shorten it as you like for ease.]
(和訳:如何為さいましたかモロハシ准将閣下。
私めの呼称も特に指定は致しませんので、
呼びやすいよう短縮して頂いて構いませんが)
「あらァ、そう? いいの?」
死神と腕輪の相変わらずな返答に、
時空管理機構の将官どもはやはり頭を抱えるが……
ともあれ根負けしちゃいけねえと、
順を追って必要事項を伝えにかかる。
「じゃあ"ユウちゃん"と"テリちゃん"て呼ばせて貰うケド……
まず最初に一つだけ理解して欲しいのはねぇ~」
『はいっ……!』
[What is it?]
(和訳:なんでございましょう)
「ホントこれだけは言っとくけども、
とりまアタシら、あなた達を捕まえようとか殺そうとか、
そんなよーなコトは一切考えちゃいないのよネ。
そもそもそーゆーつもりなら、とっくにそーしてるワケだし?」
『[……!?」』
オネエな獣人のモロハシ・マガイ准将。
その口から出た言葉に、思わずユウトらは絶句するが……
「つまりこうして態々接触したのは、あなた達を助けるため……
もっと言うなら私達は、あなた達の力を借りたいとすら思っているの。
だからお願い。警戒せず、落ち着いて話を聞いてはくれないかしら」
続け様に放たれたヴァルトルーデ・ハルトマン准将からの"提案"……
まさに追い打ちじみたその一言は、死神と腕輪を混乱させるに十分過ぎたんだ。
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