第22話 『ドキドキのロケテスト』
「マスターアップ(完成)だ!」
ファルコン社長の大声が仕事場にひびきわたりました。ついに『ザ・クマさんプロレス』が完成したのです。
「みんな、おつかれさん!」
社長はみんなをねぎらうように、社員の肩をポンポンとたたいてまわりました。ぼくは社長の『ねぎらいの肩たたき』を受けながら、ゲームを無事完成させたことを実感し、ホ〜ッと長い息をはいてひと安心しました。
「さあ、次はロケテストだ。いくらいくか楽しみだな」
「ぜったいうまくゆきますよ、社長!」
モグリンさんが胸をはって社長に言いました。
(ロケテスト!)――
そうです! まだ安心なんかしていられません。大切なロケテストがまっています。いくらがんばってゲームを作っても、ロケテストでインカム(収入)が良くなければ意味がありません。インカムが悪いと、このゲームをほしがるゲームセンターが少なくなります。そうするとこのゲームの販売元のデーターポンポコ社がこのゲームをたくさん出荷してくれなくなります。——つまり、『森のげえむ屋さん』はぜんぜんもうからないということになってしまうのです。もうからないと借金だらけのこの会社は……。ああ、想像しただけでも恐ろしくなります。ぼくは現実から逃げたくなりました。
「ロケテストは明日の午前10時から、となり町のゲームセンター『キャロット』で開始する。モグリンくんとブブくんは現場に直行し様子を見てきてくれ」
ぼくは社長の指示を聞いて気がめいってきました。以前、モグリンさんが企画したゲームのロケテストが失敗して、モグリンさんがめちゃくちゃ落ち込んでしまったことを思い出したからです。
その日の夜――
ぼくは胸がドキドキしてなかなか寝つけませんでした。
そして、次の日の朝――
ぼくは眠い目をこすりながら、社長の指示にしたがってとなり町のゲームセンター『キャロット』へ直行しました。中にはいると客のふりをしたモグリンさんがすみの方でちょっとHな麻雀ゲームをやっていました。
「どうです? モグリンさん」
「平日だからね。まだ客の出足はよくないね。午後からが勝負というところかな? おっ、きたきた! ポン!」
(ポンじゃないでしょ! も〜、会社の運命がかかってるというのにノンキなんだから……)
時計の針が午後2時をまわりました。午前10時から始まったロケテストでしたが、ゲームをやってくれた客はまだ10匹しかいません。ぼくはしだいに不安になってきてお腹がいたくなってきました。そんなぼくの気持ちを察したモグリンさんが言いました。
「そんなにあせんなくてもいいよ。もともと、このゲームセンターは客が少ないんだ。そのかわり、いろんなタイプの客が来る。今まではプロレスにあまり関心のなさそうな年配の客ばかりだったけど、この時間からメインターゲットの若い客や学生が増えてくるからこれからが勝負だよ。 ん? やった、リーチ!」
(そうならいいけど……)
その言葉に一度は安心したぼくでしたが、ゲーム画面でHなポーズをとる女の子のドット絵をニヤニヤしながら見ているモグリンさんを見て、ぼくはまた不安になりました。
しばらくすると、1匹の学校帰りの中学生の小猿が入ってきました。小猿は『ザ・クマさんプロレス』に気づき、キャッ? と言いながらゲームテーブルにつき、100円硬貨を入れて遊び始めました。そして1分ぐらいでゲームオーバーになった小猿は腕組をして小首をかしげたあと、再びポケットから100円硬貨を取り出してゲームを再開しました。こんどは2分ぐらいでゲームオーバーになりました。小猿はスクッと立ち上がるとスタスタとゲームセンターから早足で出て行きました。
(ああ〜、帰らないでえ〜!)
ぼくはできるものなら小猿にしがみついて引き止めたくなりました。
「ブブくん、気づいた? 今の小猿、ニヤニヤしてたぞ。こりゃあ、もしかして……」
モグリンさんはどうも何かを予感したようです。そして、その予感は10分後に証明されることになりました。なんと、先ほどの小猿が5匹の友だちらしき小猿を連れてもどって来たのです。
「キャッキャッ! ほんとだ、プロレスじゃん! はやく、やろうぜ!」
小猿たちのリーダーらしき1匹が、まるで号令でもかけるかのように大声をだすと、全員がいっせいにゲームテーブルを取り囲み『ザ・クマさんプロレス』を始めました。
「やべえ! タッチ、タッチ!」
「キキッ、すげえ! ちゃんとプレイヤーも交代できるんだ!」
「ウキャキャ♪ おまえヘタだなぁ。 敵からブレーンバスターくらってやんの!」
ワイワイ言いながら『ザ・クマさんプロレス』を楽しんでいる小猿たちを見ながら、モグリンさんがぼくのそばに来て耳元でささやきました。
「やったな、ブブくん! どうやら『森のげえむ屋さん』は倒産せずにすみそうだぜ。モグッ!」




