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森のげえむ屋さん  作者: 平野文鳥
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第21話 『どたんばのお願い』

 夏に開発をスタートしてから3ヶ月たち、季節はすっかり秋になっていました。

 『ザ・クマさんプロレス』もいよいよ完成です。


 ゲーム企画に初挑戦したぼくが、どうにかゲームの完成にこぎつけられたのも、みんなの協力やデーターポンポコ社のヌラリンさんのアドバイスがあったからです。この仕事につく前はずっとひとりでイラストをかく作業をしていたぼくにとって、みんなで力を合わせてひとつのものを作り上げる体験はとても新鮮で感動的でした。


「いよいよ完成ですねワン!」


 デバッグ(プログラムミスの修正)をしていたゼロワンさんが、にこやかな顔で言いました。たしかに完成と言えば完成ですが、実を言うとぼくは少し悩んでいました。それは、昨夜思いついた『あること』をどうしてもゲームに取り入れたくなり、それをゲームが完成した今になってゼロワンさんにお願いしてよいものか、ということでした。


「どうしましたワン?」


 ぼくのいつもとは違う表情に気づいたのでしょう。ゼロワンさんがぼくに話しかけました。


「あのう、完成しているのに言いづらいんですが……。システムを1個追加することってできますか?」


 ぼくはダメもとでゼロワンさんにきいてみました。最初はちょっと驚いた表情をしていたゼロワンさんでしたが、しだいにその表情はきびしいものへと変わってゆきました。


(しまった! やっぱり言わなきゃよかった……)


 ぼくは後悔しました。なぜなら、ぼくら企画屋は簡単に仕様の変更や追加をプログラマーに言えますが、それはプログラマーにとって大変な作業になるということを知っていたからです。ましてやデバッグもほとんど終了した今になってシステムの追加をお願いするということは、ゲーム作りの現場において非常識この上ないことだったからです。


「……いいですよワン。どういうシステムですかワン?」


 ところが、ゼロワンさんは意外にもOKしてくれました。ぼくはビックリしました。だって彼に怒られるかと思っていたからです。


「ただし、もう時間がないので、できなかったらできませんとハッキリ言わせてもらいますワン」


(やった!)ぼくは最後のチャンスにかけてみました。


「2人で遊べるようにしたいんです」

「2人で? どういうことですかワン?」

「タッグチームプロレスのようにプレイヤーも交代できるようにしたいんです」

「……。つまり、プレイヤーAが操作しているレスラーを、タッグを組んでいるレスラーにタッチさせたら、今度はプレイヤーBが操作できるようになるということでしょうか?」

「そうです!」


 ゼロワンさんは腕を組んでちょっと考えたあと「特に問題はありませんね。できますよ。かんたんですワン」と答えました。


 「ほんとですか!」

 「しばらくまってくださいワン」


 そう言ってゼロワンさんはパソコン画面に向きなおりキーボードをたたき始めました。


 そして30分後――


「できました。さあ、ぼくと遊んでみましょうワン!」


 ぼくがゲームテーブルにつくと、ゼロワンさんはテーブルをはさんで反対側にすわりました。ぼくはワクワクしながら自分のレスラーを操作しました。そして、コーナーポストで待機していたゼロワンさんのレスラーにタッチしました。するとどうでしょう! 突然ゲーム画面が180度回転して、今度はゼロワンさんがレスラーを操作できるようになったのです。ぼくがやりたかった遊び方どおりです。


「すごい! ゼロワンさんありがとう」

「いやぁ、ブブくん。グッドアイデアですワン! ますますおもしろくなりましたね」


 ぼくはついにゲームが完成したことを実感し、うれしさのあまりその場でクルクルと回って小おどりしてしまいました。すると、それを見ていたゼロワンさんが苦笑いをしながらぼくに言いました。


「でも、これからはできるだけ早くシステムの変更や追加は言ってくださいワン。今回はゲーム基盤のモードチェンジだけの追加ですんだのでラッキーでしたけど……。できるならパッチはあてたくないんですワン」

「パッチ?」


 すると横で見ていたモグリンさんが説明してくれました。


「『つぎはぎ』のことだよ。つまり、完成しているプログラムに後で新しいプログラムを強引に付け加えることだよ」

「それのどこが問題なんですか?」

「本来、想定していないプログラムだから、それが別のプログラムに悪さをして新たなバグを発生させる危険性があるんだよ。もしそれでバグがでたら、その原因を探すのがとてもタイヘンなんだ」

「そうだったんですか……」


 ぼくはゼロワンさんの気持ちも考えず、いい気になってよろこんでしまった自分の無神経さに、ちょっと恥ずかしさを感じてしまいました。


「では、ブブくん。念のためにデバックをお願いしますねワン!」

「はい!」


(ゼロワンさん、ありがとう。感謝しています。次回からはもっと早く言いますね……)


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