疑問2つめ★
「早月が…自殺した?」僕は目を丸くした。
同時に、頭の中が粉々に砕け散ったように真っ白になった。
え…、え…?なんで…?なん で…?
気を失いそうになった。吐き気がおそった。
何度も同じ言葉を繰り返して、僕は地べたに足をつかまれそうな現象を見た。
早月が自殺?なんで?
なんで早月が自殺する必要がある?
ある日の放課後、先生に僕は呼ばれ、その日休みといわれた早月の本当の事実を知った。
僕はもう、先生の顔さえまともに見ることができなかった。
ただもう、早月のことで頭がいっぱいだった。
あれから少し先生は話していたのだろうけど、覚えてなんかいるものか。
僕は上の空だった。
だって、それほどショックが大きかったのだから。
僕は屋上にいった。
満がいると思って…。
満は、あの幽霊の少女の名前。
僕の良き相談相手。少女なら、きっと僕の話を聞いてくれるはずだ…。
そう思った。
「はぁっ…。はぁっ…!」
僕は思いっきり屋上の扉を開けた。
少女は、やはりいた。フェンスに寄りかかって空を見上げていた。
僕があまりにも酷い表情をしていたのか、少女は一瞬驚いた表情をして、そしてにやりと笑った。
「どうした?そんな怖い顔して走ってくるなんて。お前らしくない。」
少女は、きっと僕をからかったのだろうけど、僕はそれどころではなかった。
僕は息を整えてから少女に言った。
「早月が…!!」
まだ息が整っていなかったのか、声が途中で途切れた。
しかし、付け足しを少女はした。
「自殺した、か?」
少女は僕からの驚いた目線をよけると、また空を見上げた。
なんで知っているんだ?僕はキッと少女を見つめた。
少女は僕をみようともしないでそのまま話した。
「あたしだって、この世にはいないはずの人間よ?
それぐらい、分からないといけないじゃない。」
少女は笑っていた。
なんとなくそう思った。
僕は、強く少女に言った。
「何でそんなに楽しそうなんだよ。早月が死んだって言うのに…!!」
でも、少女は僕の心をどんどん削っていくように言い放ってきた。
「じゃあ、どうして自殺したか、分かる?
分かるはずもないよね。
早月はあんたに隠していたんだから。」
少女は空を見上げたまま、一人で話していった。
僕は、つばを飲み込みながら、ただ聞いているしかなかった…。
「知りたいなら教えてあげる。早月はね、いじめられていたんだよ。」
その言葉に、僕はしばらく目を見開いて固まっていた。
そんなの、知らなかった…。
だって、だって早月はそんなこと一度も…!!
戸惑いを隠せない僕を分かったのか、少女は不敵に笑った。
でも、すぐ止めた。
なんだろうと、僕はまっすぐ少女を見つめた。
少女は僕に向き直して言った。
「早月があんたに隠してたのは、あんたを巻き込まないためにだよ。」
その言葉が、僕の心にずっしりと置かれた。
もしかして、早月は僕のために?
僕のためにずっと隠していたの?
早月…そうなの?
いつのまにか、瞳いっぱいの涙が溢れてきていた。
声には出なかったけど、頭の中では思いっきり泣き叫んでいた。
そんな僕を、少女は初めて、悲しい顔をして見つめていた。
僕は、ただただ、少女を見つめ返すことしかできなかった。
少女は、僕のほうに静かに寄ってきて、僕の頭を優しく撫でた。
そして、同時に言った。
「早月はね、あんたを巻き込みたくないがために、ず…っと!
黙ってたんだよ。」
柔らかく微笑んで、少女はキッと真剣な表情を浮かべた。
それには一瞬ピクリとしたが、少女の話を聞いていたかった。
「あたしは、早月がいじめられていたことを知っていた。
でも、あんたには言わなかった。
だってお前、早月の親友なんだろ?」
その問いかけに、静かに首を縦に動かした。
首を動かしたとたん、少女は僕の髪を引っ張って、無理矢理少女の顔のほうに向けた。
その少女の瞳にこもる何かが、僕には泣きそうになるほど悲しいものだった。
「ならっ!その親友のイマを、何故分かってやらないっ?!
早月が一人寂しい思いをして、お前を守っていたって言うのに、
お前は何をしたんだ?!
親友なら……!」
少女は、本当に怒っていた。
その勢いを、声として僕に向けてきた。
そして、間を空けて今度は悲しく言った。
「…親友なら…
なんで…
なんで、少しの変化で分かってくれないんだ…。
早月は本当に苦しくて…、
その中を…一人で耐えていたんだぞ…?」
少女は泣いていた。
僕は胸が痛かった。
これ以上、何も言ってほしくなかった。
僕の愚かさが、あまりにも酷くて…
自分で自分を殴りたいほどに情けなかった。
ほんとだ、ほんとだ。
僕は何もしてあげれなかったよ。
早月が苦しんでいたのに、ぼくは、
僕は何もしてやれなかった…。
いつの間にか、僕も泣いていた。
でも、僕の涙は、少女よりも大きく、涙が多く流れていった。
そんな僕を、少女は苦笑して見ていた。
そして、僕の瞳から流れる涙を片手で拭いながら言った。
「ほんとっ、鈍い鈍感男。」
その言葉は今の僕には温かく聞こえた。
僕は泣きながら、言葉にならない声を出していた。
「僕は…早月が、苛められている、ことを、
自殺した、ことを…
認めたくなか…ったから…!!
僕…僕っ、早月に謝りたい…
謝りたいよ……。」
必死に言葉を考えていっていた僕を、少女はなだめていた。
僕が言い終わると、少女は悲しく笑って見せた。
「あたしは、20年ぐらい前のここの生徒でね、
あたしもね、
自殺したんだ。」
悲しく笑って言う少女のほうを僕は口をパクパクさせて驚いた。
そんな僕を気にせず、
少女はそのまま話を進めはじめた。