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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
19/31

GAME.5「X word card kill」その3

『自』『山』『札』『全』『*(ワイルドカード)』のカードが場に晒される。

「これはこれは。すばらしいです、霧崎灰次さん。いいでしょう、このコンボを認めて、霧崎灰次さんの山札全てをワイルドカードとしましょう。ですが、ワイルドカードの内容までは選べませんよ?」

それで充分だ。新たなカード分解のルールを併用すれば、ほぼ思い通りにカードが作れる。

「それで、霧崎灰次さんはターンエンドでよろしいですか?」

「いいや。もうひとつ、こいつは油のお返しだ」

俺はさっきの交換で手に入った『牢』のカードを場に叩きつけた。

一人用の鉄製の檻がまつりを囲い、小さな牢を作り出した。

「アタシみたいな美少女をこんな場所に閉じ込めようだなんて、いい趣味してんな、霧崎?」

自分で自分を美少女っていうなや。

「いい男を油まみれにした奴の台詞じゃねぇな? ――俺はこれでターンエンドだ」

俺の手にはもうカードは残っていないからな。

「じゃあ、アタシの番だな?」

まつりの場には伏せカードが二枚。まつりは新たに三枚のカードを引く。

「来たぜ、霧崎。三枚目の有効札につながるカードだ」

まつりは二枚のカードを場に晒す。

『限』『遂』

「この二枚を分解するぜ」

カード枚数は増えない。つまり、まつりが作ったのは、あの二つで分解して再構築できる漢字。……『退』と『隊』か。

「霧崎。いいことを教えてやろう。アタシの手に、あと『土』がこればお前を負かすコンボの完成だ。来るのは『土』を含んだ漢字でもいいんだぜ?」

『土』? ――! まつりの狙いは『墜』かっ。

まずいな。まつりは俺の頭上に何かを『墜落』させるつもりか。

だが、手の内を晒すのはまずかったな。まつりの狙いが墜落コンボとわかったなら、俺は対抗策を打って出ればいいだけだ。『防空壕』でも作ってみるか?

「こいつを伏せて、こいつは破棄。攻撃カードはなしだ。ターンエンド」

これでまつりの伏せカードは三枚、手札が一枚。……まつりの言うことを信じるなら、次で『土』混じりのカードを引かれれば俺の負けってか?

俺に向かって五枚の手札が降り注ぐ。

『*日本の省庁に使われている漢字から一文字』『*同じ漢字を二つ並べて作ることができる漢字一文字』『*哺乳類の名前に使われている漢字一文字』『*自然にまつわる漢字一文字』『*曜日に使われている漢字一文字』。

なんだよ、これは。ワイルドカード全て、まつりが欲しがる『土』、もしくは『土』が作れる漢字に変換できるじゃねぇか。

まつりの手に『奪』ってカードが来たら、かなりまずいな。

さて。『防空壕』は――無理だな。なら、苦痛を与えて降りてもらおう。

「まずはこいつだ。こいつを『雷』に変換して攻撃だ」

『*自然にまつわる漢字一文字』が『雷』に変わり、まつりの頭上から雷が落ちる。

まつりの顔が苦痛に歪む。だが、一過性のダメージではまつりを降参に追い込むのは難しいだろう。

「次は火あぶりだ」

まつりに息をつく間も与えないように、さらなる追撃。

使ったカードは『*曜日に使われている漢字一文字』。吉法師とのゲームでも使ったこのカード。今回は『水』ではなく『火』に姿を変える。

火がまつりの身体を包み込む。

「霧崎ぃ。アタシがこんな攻撃で音をあげるとでも思っているのか?」

思っちゃいねぇよ。

「じゃあ、火力アップだな」

そういって俺はさらに場にカードを出す。『*同じ漢字を二つ並べて作ることのできる漢字一文字』。作り出したカードは『炎』。

まつりを包み込んでいる火は炎となり、さらに『火炎』となってまつりを襲う。

小さな牢の中、まつりは膝を地につけ、崩れ落ちるように倒れ込んだ。

だが、まつりは降参をしない。炎に包まれながらも立ち上がり、俺を睨みつけてくる。

火炎が消える。……攻撃のカードでは一過性のダメージが限界か。なら、フィールドを変えるまでだな。

俺は無言で場にカードを叩きつけた。カードは『*日本の省庁に使われている漢字一文字』。『海上保安庁』という文字に変わり、そこから『海』という文字を残して他の文字は消えていく。

俺とまつりが戦っているフィールドが海水に沈んでいく。

俺たちの身体は完全に海へと沈み、呼吸ができない状態になる。

俺は身体の力を抜き、海上に浮上する。――が、牢に閉じ込められているまつりにはそれはできない。

海水は俺にまとわりついていた油を流し落としてくれた。スマホは完全にイカれちまったが、このゲームで使うことはないだろう。

俺は最後の手持ちカードを場に晒した。残るカードは『*哺乳類の名前に使われている漢字一文字』。

カードは『鯨』に変わる。

海上に鯨が現れる。俺は鯨の上に乗り、座り込んだ。

鯨を出したのは、海上で俺が待機する場所を確保するためだ。

あとはこの場でまつりが音を上げるのを待てば俺の勝ちなのだが……まぁ、それは奴が認めないだろうな。

「霧崎灰次さん。手札が全てなくなっているのですから、ターンエンドを宣言してください。時間稼ぎは遅延行為としてペナルティを課しますよ?」

まぁ、そうだろうな。だが、もう少しだけ時間は稼がせてもらうぜ。

「……ペナルティって言葉で思い出したが、そういえば負けた場合のペナルティについては聞かされていなかったな?」

今思い出したていで奴に負けた場合のペナルティ内容を問う。あきらかな時間稼ぎだが、無視はできまい。

「やり方がセコいですねぇ、霧崎灰次さん。これはまつりさんのためにも即答で返す必要がありますね。……ペナルティはさっきまつりさんに台無しにされた『足の痺れ』です。――霧崎灰次さん、ターンエンドを宣言してください」

これ以上の引き延ばしはゲームの遅延行為としてペナルティの対象にするって意味の勧告か?

「……ターンエンドだ」

まつりが引けるカードは一枚のみ。そう都合よく『土』にまつわるカードがくるか?

海中のまつりの手に新たなカードが手に渡る。

海中でしゃべれないまつりが、手にしたカードを表示する。

まつりのカードは――『鍵』。

この場面で『鍵』を引いただと!?

まつりが牢の鍵を開け、牢から脱出する。泳いでに浮上すると、いままで閉じ込められていた牢の上部を足場にし、海上に顔だけを出して立っている。

「やってくれたな、霧崎。――まあいいさ。ここで『鍵』だなんてピンポイントなカードが引けたんだ。次がお前のラストターンだな? きっとアタシは次で引くぜぇ? これでターンエンドだ」

……まずいな。この流れはきっと、まつりは次のターンでキーカードである『土』を引くだろうな。

このターンでまつりをギブアップさせなければ、俺は負ける。――いや、下手をすれば殺されるな。

五枚のカードが降り注ぐ。

『*カタカナ一文字で表記できるカタカナに酷似した漢字一文字』『*読みがひらがな一文字な漢字』『*自分の名前に使われている漢字一文字』『*カタカナ二文字を組み合わせて作ることができる漢字一文字』『*このゲーム中に一度でも使われた漢字一文字』

だめだ。これでまつりを降参に追い込むようなコンボは思い付かない。

……考えろ、Loopholeを。この手札でなにができる。強力な攻撃は無理だ。なにも思い付かない。――『*このゲーム中に一度でも使われた漢字一文字』、こいつで『雷』や『炎』を作り出して再攻撃したところで、まつりは音を上げないだろうな。

攻撃は無理か。なら、どうにかして次のターンをやり過ごすしかない。……まつりがキーカードを引けない可能性だってある。だが、祈るような展開は望んでなんかいない。引かれても攻撃を『無効化』できるなにかを――

無効化? 待て待て待て待て。

俺はもう一度手札を確認する。

『*読みがひらがな一文字な漢字』、こいつで『無(読み「む」)』か『化(読み「か」)』を作ることができる。

いや、『化』を作るなら『*カタカナ二文字を組み合わせて作ることができる漢字一文字』を使ってカタカナの『イ』と『ヒ』を組み合わせて作った方がいい。

問題は『効』だが、これは二枚を組み合わせれば作れる。

『*カタカナ一文字で表記できるカタカナに酷似した漢字一文字』を使って『ちから』を作り、『*このゲーム中に一度でも使われた漢字一文字』で前に使った『校』を作る。『校』を分解して『木』と『交』にして、『交』と『力』を組み合わせれば――よし。

「俺はまずカードを三枚伏せる。さらにこいつを分解だ」

『*このゲーム中に一度でも使われた漢字一文字』のカードをまつりに見せる。カードは『校』の文字に変わり、漢字は部首二つに分解される。

「さらに一枚、こいつを伏せる」

分解して出来た『交』のカードを追加で伏せる。これで伏せカードは四枚。

『無』『交』『力』『化』。オープン時に組み合わせて『無効化』のコンボが使える。

「残りは破棄して……ターンエンドだ」

次のターン、まつりがキーカードを手にした地点で伏せカードをオープンしてまつりの攻撃を無効化させれば、それで仕切り直しだ。そうなれば、引くカード全てがワイルドカードになっている俺が圧倒的に有利なはずだ。

まつりのターン。まつりが一枚カードを引く。

どうだ? 引いたのか?

まつりが引いたカードを手に俺に話しかけてくる。

「霧崎。お前、カエルは好きか?」

その言葉ですぐに理解する。引きやがった、分解したら『土』となるキーカードを。

「嫌いだよ。特に今はな」

「そうかい。アタシも嫌いだねぇ。けど、今は感謝さっ」

まつりが引いたばかりの手札を手札を晒す。

かえる』――分解すれば『虫』『土』『土』だ。

「アタシは今きたこいつと手持ちのこいつを分解だ」

まつりはもう一枚カードを晒す。――させる訳にはいかないな。

「このタイミングで俺は伏せカードをオープンする」

『無』『交』『力』『化』のカードオープン。

「これでお前の攻撃を無効にする。……せっかくの即死コンボ、残念だったな」

「……霧崎。無効にするのはアタシの『攻撃』でいいんだな?」

? なんだ? どういう意図の確認だ?

まつりの意図の読めない確認に俺が戸惑っていると、奴が声を上げた。

「なるほど。これはゲームの勝敗に関わることなのではっきりとしておいてほしいですねぇ。霧崎灰次さん、その『無効化』は何に対しての無効化ですか?」

……しくじったか? カードをオープンするのが早かった。もし、まつりのあのコンボが攻撃じゃなかったら、俺は負ける。

だが、あのコンボが攻撃なら、俺は――死ぬ。

「……攻撃を、無効化する」

頭に死がよぎった以上、この無効化コンボを他に向けることはできなかった。あれが俺が予想した『墜落』を交えたコンボだったら、即死はまぬがれない。

まつりの二枚目のカードの文字が明らかとなる。俺の予想通りなら、まつりのカードは『隊』のはずだ。

晒されたカードは――『公』、だと!?

「アタシは『蛙』と『公』を分解して新たにカードを作り出す。アタシが欲しかったカードはこいつだよっ」

出来たカードは『去』。そして、まつりの三枚のカードがオープンされる。

『*色の種類に使われている漢字一文字』『次』『退』

ワイルドカードは『灰色』という文字に変わり、そこから『色』の部分が消えて『灰』という漢字のカードに変わる。

まつりの手にある『去』を合わせて、完成した文字は――

『灰次退去』

攻撃のカードではない。俺をこの空間から追放するためのカードだった。


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