↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/28

プロローグ

「勇者ガイウス・ブライト 、剣聖レオンハルト・ハルデン、大神官エリスティア・アッシュ、そして大賢者ユリウス・ルクレールよ! そなたらが人類の宿敵たる魔王の討伐を果たしたこと、この国を代表して感謝し、その業績を称える!」

王宮の大謁見場に、国王陛下の厳かな言葉が響き渡った。


もっとも、注意深く観察していれば、その声に一番多く含まれているのは「ようやく肩の荷が下りたぁ…」という安堵の成分であることに気づくだろう。


それもそのはず、一年前の国境付近から突如発生した魔王軍の襲来。国家の危機に瀕して、王国軍は連戦連敗。王都の陥落すら時間の問題かと思われていたのだから。


当時、王国はたまらず近隣国に救援を求めた。だが、どこの国も自国の守りを優先して救援を渋り、中には魔王軍の籠絡にかかって密かに不可侵条約を結ぶ国も出てくる始末。

本当に愚かなことだ。

人類が結集すれば多大な犠牲こそ避けられなくても、最後は数と豊かさに勝る人間の勝利は確実なはずなのに。

人と相容れない、知能が高いだけの獣の群れと対等な交渉ができるといううぬぼれは、一体どこから出てくるのだろうか? 王国が奪われれば、その豊かな資源と生産力、そして労働力はそっくりそのまま魔族の手に落ちる。

そうなれば、王国より力の弱い周辺国などひとたまりもない。そうやって一つずつ各個撃破していけば、いずれ精強な帝国や、豊かな共和国とて同じ運命を辿ることになるのが、なぜ分からないのだろうか。


ともあれ、魔王軍の攻勢に完全に追い詰められた王国は、一つの大きな賭けに出た。

魔族は人間のような複雑な『組織』というものを作らない。その運営は徹底した上位下達。能力主義とも言えるが、要は弱肉強食の社会であり、魔王自身の圧倒的な武力とカリスマに依存している独裁的な恐怖政治だ。

そうした集団構造は、トップの意向で素早い決断ができるメリットもあるが、肝心のトップがいなくなればどうなるか?

人間の組織なら、たいてい臨時代行者が定められており、血縁であったり選挙であったり、あらかじめ定められたルールに則って後継者がその責務を速やかに継承する。

しかし、そんなルールがない魔族どもは、人間界征服の野望を抱く魔王がいなくなれば、即座に秩序だった軍事行動を取れなくなるはずだ。

そこに気づいた王国宰相の進言により、一か八かの『魔王斬首作戦』が決行されることになった。

具体的には、世界中の冒険者ギルドや教会を通じて各地のチート持ちを集め、王国のバックアップのもとで魔王領に潜入させ、

『魔王の首級を挙げた者には、望みのままの恩賞を与える』

と、世界に向けて大々的にぶちかましたわけだ。

これだけならリスクが大きすぎて、それこそ本当の「勇者」など現れないだろう。

この作戦において宰相が切れ者――というか、国家の危機に際して完全にキレていたのは、魔王軍との戦いで戦死した「自称・勇者」たちには、高額な死亡一時金と、残された遺族への終身年金まで約束したことだ。

これによって、一攫千金を夢見た腕利きの命知らずどもが「世界を救え!」と立ち上がり、数千単位のパーティーが魔王領へと突撃した。

ぼくらの勇者パーティーもその中の一つで――そして運と実力に恵まれ、見事に魔王をぶち殺してきたってわけだ。


……おっと、ついつい愚痴で話が長くなってしまったね。

申し遅れたけれど、ぼくは勇者パーティーの一員である大賢者ユリウス。


なんの変哲もない、大して豊かでもない役人の家庭に突如として産まれ、十代前半にして魔術、召喚術、加えて法術までも究めた、自他共に認める正真正銘の神童さ。


齢十四にして、カンの鋭さだけは一級品の暑苦しい勇者にスカウトされ、後衛の固定砲台として大火力をぶち込むだけでなく、戦闘支援や回復術を大神官と一緒にバフるぼくらの戦術はまさに鉄壁。いくらダメージを与えても即座に回復され、パーティーの精神力が尽きるまで最強クラスの必殺技や攻撃魔法を叩き込まれると悟った魔王の野郎が最後に浮かべた、絶望に歪んだツラは今も忘れられない。


――っと、話を今に戻そう。

「王国として、約束の通り、できうる限りの褒賞を取らせたい。各々、望みを言うがよい!」 


ほーら来た。


王様は「望み通り」と言いつつ、政治を知らんで好き放題にワガママを言うと、後で静かに消される死亡フラグになるやつだ。大人の条件交渉はここからが本番である。


まずは勇者ガイウス。

「私には何の望みもありません。ただ、王家の美しき姫君を、どうか私の伴侶に!」

「う、うむ、むろん姫が受け入れるのであれば……」

マジかよコイツ! 最大級の地雷を笑顔で踏みやがった。

まあ、コイツの性格上、道中でドラゴンから救出していい感じになった姫様と、どこか遠くに旅してイチャイチャしたいだけだろうが、国家クラスのVIPとの婚姻がそんなに簡単にいくかねえ……。

まあ、こいつがその気になれば姫君を物理的に連れ去って海外に脱出するなど造作もないし、王国がそんな誘拐犯(勇者的にはロマンス)を阻止することなど不可能だろうが。


次に剣聖レオンハルト。

「私にも何の望みもありません。今後も王国の剣として、己を捧げる所存です」

「う、うむ、汝の王国への忠義、頼もしいぞ!」

つまり次期騎士団長の椅子を内定させたわけだ。もともとコイツは王国軍所属だったし妥当なところか。

旅の途中、『上司より俺の方が強えーし、あいつらマジ仕事できねえ』とか散々馬鹿にしてたし、まあこれからは自分の裁量で気分良く仕事してくれ。


三人目は大神官エリスティア。

「私も望むことは何もありませんわ。ただ、戦時中に私を前線へ出向させて使い潰そうとしたり、セクハラまがいの言動をしてきた司教どもを全員地獄に落としていただければ十分です! あと、次期大司教選挙に向けてご支援をよろしくお願いしますね、陛下?」

怖ええよBBA(※実年齢は二十代後半だが)。どんだけ怨念を溜め込んでたんだよ。

個人的な怨恨を忘れないとか、絶対に生殺与奪の権力を渡しちゃダメなタイプだと思うんだが、まあ、俺の法術の上達をサポートしてくれたり、教会の裏も表もみっちり教えてくれた頼れるお姉さんだから、ここはあえて突っ込まんとこ。


そして――。


「大賢者ユリウス、汝は何を望む?」

ついに、ぼくの番が来た!

「若くしてあらゆる知を究めた汝のことだ。官僚として宰相の後継を目指すか? それとも王立学院の教授となり末は学院長か? 王宮魔術士団の団長を目指すのも良いのではないか?」

いきなりトップの地位ではなく「将来の候補」を提示してくるあたりが、実に政治的でせこいなあ……。まあ、ぼくはまだ見た目が子供だから舐められてるんだろうし、そもそもそんな激務で責任重大で、人間関係で神経すり減らしそうな地位には一ミリも興味はないけれど。


「ありがとうございます、国王陛下。しかしぼく――いえ、私も地位や名誉といった望むものは何もありません。ただ、私のささやかな個人的な願いを見逃していただければ、望外の幸運です」

 

そう言って、ぼくは魔王討伐に参加した一年前から、旅の合間に密かに温め続けていた、完璧なる『不労所得・早期リタイア(FIRE)プラン』を王様にお願いしたのだった――。


−−−しかし、全員テンプレのように「望みはない」とか言っておきながら、欲しいものはしっかり要求するという、なんとも我欲に正直な連中だったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。