第六話
夕食はジェームズさんとアマルさんと一緒だった。
二人は三歳の私に対して真摯に謝罪してくれた。評判が良いからと安易な考えでアロンソ子爵夫人を選んでしまったと反省していた。
そのことは仕方ない事だと思う。前世でも噂を鵜呑みにすることはあったし、選択の際に根拠の一つとして、其々の評価☆を見て判断することは日常茶飯事だったから。
私は二人に、気にしなくてもいい、早く気が付いてくれて嬉しい、ありがとうね。と伝えた。
二人とも私が自分の考えを言葉で表したことに驚いていた。そして、聡明な可愛らしい子供ができて嬉しいと笑顔で返してくれた。
この家の中は、ジェームズさんとアマルさんが私を1人の人間として接してくれるので、使用人の人達も同じ様に接してくれる。三歳児の目線で話をしてくれるし、分かりやすい言葉を選んで話しかけてくれる。教育が行き届いていることがわかる。
前の家がおかしかったのか?あの配膳ロボット(メイド達のこと)を思い出して、ここに連れて来てくれたジェームズさんに感謝した。
翌日は朝から邸内が騒がしかった。アルマさんが私の部屋を訪ねてきて、ジェームズさんが暫くの間、王宮で仕事をすることになったらしい。お見送りを一緒にしてくれないだろうかという提案だった。
私は勿論ですと返事をした。
ジェームズさんは玄関ホールにいた。いつもよりも畏まった風の装いで、綺麗な姿勢で立ち、ジョセフさんにアレコレと指示を出していた。
私を見て、今日から暫くお城で仕事をしてくる。病気や怪我に気をつけるように。健やかに過ごせるようにと言って抱きしめてくれた。
私もお仕事を頑張って下さい。でも無理してはいけません。病気になったら悲しいです。お帰りをお待ちしています。と伝えた。
何故か周囲がほっこりした雰囲気になり、そこにいる人達が微笑ましげに私を見つめていた。
3週間くらいしてジェームズさんが帰ってきた。
アマルさんとお迎えをしたのだが、送り出した時とは違って酷く疲れた様子で顔色も悪かった。
3週間の間に何があった?お城はブラック企業なのか?ジェームズさんの身体は大丈夫なのか?心の中で思案する。
アマルさんが、お疲れの様ですね。直ぐにお休みになりますか?ジョセフ、準備をして頂戴。と声を掛けている。
ジェームズさんは、あぁと返事をした直後に「うっ…」と小さく呻いて膝から崩れ落ち倒れた。
アマルさんが慌てて、ジェームズ、ジェームズと呼びかけている。
ジョセフさんが、誰かエディス先生を呼んでくるんだ。と焦った声で指示を出す。
私は前世で『誰が意識をなくした時の処置』というものを知っている。
「みんな、落ち着いて。」と大きな声を出した。
「慌てては駄目よ。ジョセフ、足の速い人にエディス先生に連絡させて、そして馭者をお迎えに行かせて。いいこと、指示を出す時は相手の名前を言うか、貴方にと明確に相手に伝えること。」
「力のある信頼できる人を四人、側にこさせて。
あとの人は持ち場に戻る。この事は口外しないように。」三歳児らしからぬ態度と言葉遣いに、誰も異議を唱えることもなく従った。
四人の青年らしき男性が側に来たので、彼らに
上向きに寝かせて衣服を緩めて。最小限の体動で素早く行って。ここからは、時間との戦いよ。躊躇しないで私の指示に従って。
彼らは、三歳児が出す命令に忠実に従った。
上着を脱がせ前胸部が見えるようにした。私は胸骨の下半分を両手を組み合わせて力一杯押してみる。が、何せ三歳児の力では深く押すことができない。
側にいる男性に、あなた、この位置を胸が約4cmくらい沈むように圧迫して頂戴。リズムは私が数を数えるからそれに合わせて。1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.....リズム良く数える。いいこと、一回押したら、完全に胸が元の位置に戻ることも確認して。押す、戻る、圧迫と解除を繰り返して。
次に「貴方」と対面にいる男性に「圧迫にかなりの力がいるから、300回くらい押したら交代して。お互いにイチニノサンと声を掛け合って交代するようにして。中断しないで休みなく行なって。交代しながら意識が戻るまで継続よ。」
そして私は1番に頭の中をスキャンした。
これも前世の知識と魔法の力のおかげでできることである。
脳がダメージを負うと意識が戻らなくなるし、戻ったとしても後遺症が残る可能性が高い。先ずは頭から異常がないかを調べる。
私は頭を下から上へ前から後ろへ右から左へとスキャンを行う。あぁ、良かった。頭に異常はなさそうだ。
次に胸部のスキャンを行う。両肩辺りから下に向かってスキャンを行う。
おそらく心臓の血管が怪しいのではないか?と考えていたので、心臓部を入念に見ていく。
あった!心臓の栄養血管である太い血管、冠動脈の前下行枝の近位部に血液の塊があり、その血液の塊がある先の周辺組織が一部変色してきている。
アレを取り除くことができるだろうか?どうしたらいい?摘んでみる?そういえば、前世で病変部を摘み出すことができる魔術師なる者がいると何かで見聞きしたことがあったかも。
時間がない。やるしかない。私は画像を見ながら血液の塊を摘んでみた。
摘めた。やったー\( ˆoˆ )/。スゴイぞ、私。
いやいや、まてまて私。ここからこの塊を体外へ持ち出せるのか?そう考えながら、ゆっくりと引っ張り出して見る。
胸部圧迫を行なっている横の左胸辺りから血液の塊を掴み出すようにしると、ナント!出てきた。
はぁ、ヤレヤレ。出て来たよ。てか、出てくるんだ。
いや、まだまだだ!ここからだよ。
肝心要の心臓を動かさないと。
私は右心房の上部にある洞結節だろうと思われる部位に弱い電気刺激を与えた。
心臓が一瞬ドックンと跳ね震えたように見えた。そして、ドックンドックンとリズムよく動きだした。
やった!!o(≧▽≦)o 私は心の中でガッツポーズと拍手を繰り返した。
蒼白から紫色になっていた皮膚色が徐々に赤みを帯びてきて血色が戻り始める。
私は心臓マッサージに協力してくれた男性陣に中止とお疲れ様を伝えた。そして、ジェームズさんをベッドに運んでもらう。
私は疲れてしまい、ジョセフさんに少しだけ休ませてね、と言って抱っこしてもらい、そのまま眠ってしまった。
私が眠ってしまって直ぐくらいに、お医者様のエディスさんが到着した。
診察途中でジェームズさんの意識が戻ってきたらしく、朦朧としているが短い会話もできたようだ。
ジェームズさんの治療については、今のところは休養と規則正しい生活と食事療法とリハビリとなったようだ。
あとは、私が起きてから詳しく話を聞いて、ジェームズさんの今後の治療方針を決定するらしい。
そんなことが起きているとは考えもせずに、私は混々と眠っていて、疲れた身体を休めたのだった。




