アメリアの姿
滝の茶屋のさらに奥――
薄い暖簾の向こうに、小さな座敷がある。
そこは客の立ち入らぬ場所。
ただ、ひとりの女性が、いつもそこにいた。
白衣のような衣をまとい、
窓の向こうの滝を静かに見つめている。
アメリア。
その名を口にする者はもういない。
だが、誰もが知っていた。
滝庁の時代、沈黙の断罪を導いた女。
そして、滝とともに消えたはずの人。
彼女は何も語らない。
日ごとに茶屋を満たす湯気と霧のあいだから、
ただその横顔が、淡い光のように浮かび上がるだけだった。
滝の光が差し込み、
細やかな水の粒が、彼女の頬を濡らす。
それが涙なのか、滝のしぶきなのか、誰にもわからない。
けれど、その表情には確かな微笑があった。
静けさの奥で、何かを赦すような、
あるいはすべてを見届けた者だけが持つ微笑。
やがて、クレアが湯を注ぎながら言う。
声は柔らかく、滝音と区別がつかないほどだった。
「お嬢様、今日も……滝がよく笑っております。」
アメリアはその言葉に顔を上げ、
かすかに唇を動かした。
「流れゆくものに、名前は要りません。
ただ、笑っていればよいのですわ。」
その声音は、水面を渡る風のように軽く、
どこか遠いところへ消えていった。
滝が光を帯び、
アメリアの姿もまた、その光のなかで溶けていく。
茶屋の外では、子どもたちが川辺で石を跳ねさせていた。
その音が、滝の音と重なり、
春の午後の静けさを、いっそう深くしていった。
――彼女の微笑は、滝そのもののように穏やかで、
そして、どこまでも永遠めいていた。




