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フラグがおかしいこの世界《ギャルゲー》で、俺はどんな恋をすればいいんだろう?  作者: しょぼん(´・ω・`)
第三章:ヒロイン達も色々おかしい

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第二十四話:そんなに安いんすか?

 あの後、俺は詩音をベンチに残し、近くの自動販売機に向かった。


 残念ながら見慣れたメーカーの物はないけど、どこか名前をもじった飲み物達が見られるのはちょっと面白い。

 日も随分傾いて少し肌寒くなってきたし、ラインナップにまだホットが残っているのは助かった。

 とりあえず俺のはこれで。詩音のは……これでいいか。


 立て続けに二本の飲み物を購入した俺は、自動販売機からそれらを取り出すと、足早に彼女のいるベンチに戻った。

 

「ほら、これ。熱いから気をつけてな」


 立ったまま俺が差し出したのは、ホット烏龍茶のペットボトル。

 この間のカラオケで冷たいやつを飲んでいたし、間違いはないだろうと思ってのチョイスだ。


「ありがとうございます。お金は──」

「奢り。膝枕代ってことで」


 有無を言わせないよう間髪入れずそう返すと、詩音は少し驚いた顔をした後にくすっと笑う。


「僕の膝枕って、そんなに安いんすか?」

「え?」


 あ。しまった!

 

「あ、いや。ごめん。安いなんて思ってないから。この後も色々奢るつもりだし」

「……まったく。先輩。冗談っすよ。冗談。ほんと真面目なんすね」

「そ、そんなことないって」


 バツの悪い顔で頭を掻いた俺に、彼女はまたくすくすっと笑う。

 そういうお前も気遣いができすぎだろ……なんて言ってやりたかったけど、それをいうのも野暮かと思い、俺はそのままベンチに座った。


「いただきます」

「ああ」


 ペットボトルの蓋を開けた詩音が、ペットボトルの口からゆっくりと烏龍茶を口にする。

 俺も自分用に買ったミルクティを開けると、ごくりと一口飲んだ。

 じんわりと体の中に感じる温かさ。こういうのを感じる度に、ここがゲームの世界だなんて信じられなくなる。


 そういえば、あの話を聞いてみるか。

 俺は彼女が烏龍茶を飲み、ほっと一息()いたのを確認し声を掛けた。


「なあ、詩音」

「なんっすか?」

「いや。俺って、いつの間に膝枕されてたんだ?」


 さっき聞きそびれたことを尋ねてみると、詩音は少し苦笑する。


「えっと、僕がここに着いてすぐですね」

「すぐって、何時頃だ?」

「確か二時くらいっす」

「え? じゃあ俺、お前に二時間以上膝枕してもらってたのか!?」

「そうなりますね」


 そりゃ、彼女も足が痺れるわけだ。

 それはそれで悪いことをしたな。


「ほんとごめん。寝てたとはいえ、全然気づかなくって」

「いいっすよ。別に嫌じゃなかったですし、僕もうとうとしてましたから」

「そうか。ちなみに俺、どんな感じでお前の膝を借りる事になったんだ?」

「え? あ、その……」


 続けた質問に、急に歯切れが悪くなる詩音。

 焦りにも似た何かを感じるけど、どういう事だ?


「もしかして、俺が勝手に倒れたのか?」

「え、ええっと。そう! そうっす!」


 彼女はうんうんと頷いてるけど、ぎこちなさが隠せていない。

 何かを必死にごまかしているようにも見える彼女の反応に、俺の疑念が強くなる。


 俺が詩音の膝に勝手に倒れた。それは普通にありえる……いや、待てよ。

 寝落ちする前の最後の記憶。

 それは俺がベンチの背もたれに寄りかかり、空を見上げていた姿だ。

 もし詩音が隣にいたとして、いきなり太腿に寝転がるなんてこと、流石に起こらないんじゃないか?

 あの姿勢からうとうとして寄り掛かったんだとすれば、肩を借りる事になるのが自然だろうし。


 だけど、結果として膝枕をされていた。

 つまり……。


「お前。まさか俺のために、わざわざ膝枕になるよう寝かせてくれたんじゃ……」

「えっ!?」


 導き出された答えを突きつけると、詩音がぎくっとする。

 そのリアクションこそ、間違いなく図星だって証拠。


「当たりか?」

「……先輩、鋭いっすね」


 俺の念押しに観念したのか。彼女はあっさり事実を認め苦笑いする。


「おいおい。そこまでしなくても、すぐに起こせばよかったろ」

「いいんすよ。先輩も気持ちよさそうに寝てましたし、待たせたのは僕の方なんで」


 苦笑いを崩さないものの、どこか気恥ずかしそうな詩音。

 何となく隠れた気持ちに気付いた俺は、顔が熱くなっていくのがわかった。


 確かに、彼女の気遣いはあるとは思う。

 だけどここまでの反応を見れば、詩音がそうしたかったからこそ率先して動いたのは明白。

 好感度がなかったら許されない行動だからこそ、そこにあったであろうあいつの好意を理解してしまう。


 しかも、俺は彼女に寝顔を見られてたってことだろ?

 どんな顔をしてたかわからないってのもあるし、何なら変な寝言とか言っていた可能性だってあるわけで。


 頭の中で、膝枕で気持ちよさそうに寝ている俺を見つめる詩音──ってこれ、めっちゃ恥ずかしい状況じゃないか!

 しかも、寝心地の良い膝枕の柔らかさもまた背徳感を……とか考えてるんじゃない!

 相手はリアルな俺と十才以上年下だぞ! 変な気は起こすな!


 内心悶えそうになる気持ちを必死に堪え、感情をごまかすべく手にしたミルクティをがぶ飲みすると、俺はベンチから立ち上がって大きく伸びをする。


「あ、足の痺れはどうだ? 少しはマシになったか?」


 敢えて振り返らずそう問いかけたのは、顔が赤いのを見られないようにしたから。

 俺の今の状況をを知ってか知らずか。後ろから靴で歩道をトントンと踏む音が何度かした後。


「そろそろ大丈夫そうっす」


 そんな詩音の声が耳に届いた。

 流石にずっと顔を見ないわけにもいかないよな。まずは深呼吸してっと……。


「そうか。じゃあ、時間も勿体ないし、遊びに行くとするか」

「はい。よっと!」


 振り返った俺に頷いた詩音は、ちょっと勢いをつけてベンチから立ち上がる。

 単純な動きなんだけど、そこにしなやかさを感じるのは、やっぱり陸上をしてるからなんだろう。

 っと。彼女に見惚れている場合じゃないな。


「さて。どこに行く?」


 俺がそう問いかけると、彼女は何故かきょとんとする。


「え? 先輩、兄貴にあそこまで言ったのに、何も考えてなかったんすか?」


 ……言われてみれば。

 予想外の指摘に、俺はまた頭を掻いた。

 あの時は残念そうな詩音を見てるのが嫌で行動を起こしたけど、計画性があったかといえば別。ただ、こんな顔をされたって、勿論答えはひとつだけ。


「悪い。全然考えてなかった」


 バツの悪そうな俺を見て、詩音が大げさに肩を竦めた。


「まったく。先輩、兄貴より頼りないじゃないっすか」

「ゔ……」


 正直否定はできない。

 考えてもみろ。俺は外見こそ若いけど、実際は颯斗より十は上。

 それなのに、結果として俺はただ感情の赴くままに行動しただけ。こっちの急な願いを受け入れ行動してくれた颯斗のほうが、よっぽどしっかりしてる。


「ほんと。先輩って真面目っすね。今のも冗談っすから、真に受けるの止めてください」


 こっちがあまりに素直な反応を見せたせいか。詩音が笑いながらそう言ってくれたけど、正直心当たりがありすぎて冗談に聞こえないのは、俺がネガティブ過ぎるせいなんだろうか。

 とはいえ、ずっと気落ちしているのもな。


「悪い」

「いいっすよ。その代わり、この後どこに行くか、僕が決めてもいいっすか?」

「正直何も考えてなかったのは事実だから、その方が助かるよ」

「わかりました。じゃ、行きましょっか」

「ああ」


 こっちよりよほど頼りがいのある詩音に素直に頷くと、俺達は並んで公園の外に歩き出した。

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