閉門
~魔法国 南の農村 宿屋2階 客室~
翌朝、鳥の鳴き声で俺は覚醒する。
昨日は疲れたからよく眠れた。
でもこんなに疲れるようなこと、何したんだっけ……。
目を開けると女神が居た。
いや、セレナータだ。
「おはようございます」
その顔が少し和らいでいるように見えたのは見間違いじゃない。
もうこれは女神だと思っても仕方ないだろ。
ん?
起き上がろうとしたら、片手がホールドされていた。
違う。
俺の手がセレナータの手を握ったまま離さなかったのだ
「すまん!」
あわてて手を離す。
「私も今、起きたところですので」
気遣いがありがたい。
起き上がった俺は、朝の支度をする。
セレナータが身だしなみを確認してくれた。
「ご主人さま、今日からまた命令をお願いします」
そこに昨日までのやりづらさは無い。
「おう、よろしくな」
セレナータが無表情寄りの微笑みをした気がした。
~魔法国 南の街道 馬車~
街道を行き交う乗合馬車で俺は王都を目指す。
セレナータは霊体化し、誰にも見えない状態だ。
――ご主人さま、この馬車でどれほど時間がかかるのですか?
声だけが聞こえてくる。
残念なことに俺の声は心で念じてもセレナータに届かない。
「1日もあれば着くだろうな」
だから俺は独り言の多い男となるのだった。
ちなみにすでに王都の大樹が目視できるが、あれでだいぶ遠くにある。
乗合馬車の乗客は俺を含めて3人で、他2人も攻略者のようだ。
俺は独り身野郎だから話しかけられない。
代わりに二人の会話を盗み聞きした。
「聞いたか? あの魔王討伐を謳ってた攻略団が塔ダンジョンを踏破したそうだぜ」
「ああ、でも団長だけ生き延びて王都のギルドに転移したって話だぞ」
「じゃあ新しい攻略団を作るのかぁ。俺も入ってみたいぜ、最強攻略団」
「やめとけやめとけ。お前なんか相手にされないだろうよ」
言ったな、と二人はじゃれ合っている。
たぶん同じ攻略団なのだろう。
しかし、困ったな……。
――ご主人さまは他にどこかに所属しているのですか?
してないんだよなぁ。
つまり、俺は後ろ盾も何もない。
早いところギルドに行かないと厄介なことになるぞ。
~魔法国 南の街道 関所~
馬車が街道を走り、昼過ぎ頃に関所で停車した。
関所は尖った屋根が2つあり、間に門がある特徴的な建物である。
ちょうど三叉路にあり、王都が近づくのを実感させた。
この先は別の領地だ。
各地の貴族が通行税を徴収する。
魔法国は移動が比較的に自由で税も安い。
しかし、それはこの国の関所が特別だからだ。
――あれは何ですか?
セレナータが示したあれとは水晶だ。
若い兵士が水晶を持ち、後ろで年老いた兵士が机に足を乗せている。
先に下りた馬車の乗客が、その水晶にタグをかざす。
すると、水晶の中に煙が巻き起こった。
煙が充満して青色となる。
「青! よし。攻略者だな。なら、ここの通行税はギルド払いだ」
1人は一銭も払わずに馬車へ戻った。
もう1人は首にさげたタグを取り出し、水晶にかざし、同じく水晶は青くなる。
攻略者だから通行税はギルド払いとなった。
この国の関所は魔法の水晶と魔法のタグで人間を管理している。
さすが魔法国だ。
攻略者の税は魔法国のギルドが受け持ち、攻略者を徴収官の汚職から守っている。
次は俺の番。
タグを水晶にかざすと煙がもくもくと立ち込めて、
「黒! 貴様、死んだ扱いになっているな。何者だ、名乗れッ!」
真っ黒な煙となり、俺は若い兵士に咎められる。
「魔法国攻略ギルド所属のロンド。攻略団の生き残りだ」
「不法入国者はみな攻略団の生き残りという。両手を頭の上に置け!」
兵士は杖を取り出し、俺に向ける。
「ま、待て! 捜索クエストは出てないのか?」
「早く両手を頭の上に置け!!」
チッ、話を聞いてもくれないか。
しかしどうする。
あの杖は厄介だ。
魔法を使えない俺は対策がない。
もし魔法で石にでもされてみろ、コナゴナだぞ。
いや、待てよ。
ここが魔法国なら可能性はある。
俺は両手をゆっくりと上げていく。
しかし、左手には古い剣を握ったままで。
「貴様、それは、剣か!? 剣ごとき我が魔法の前に無意味だ!」
兵士が杖を振る。
空気の揺れのようなものが見えて、それに向かって左手を振り下ろした。
――キィィィン!
剣の鞘が魔法を打ち消す。
そうだ。
俺の剣、セレナータは魔法を秘めた剣なのである。
「何ぃ!? 剣で魔法を打ち消しただとぉ!」
驚いた兵士は次の手が遅れる。
そのスキに俺は馬車の下をくぐり、三叉路のもう片方へ逃げ出した。
走りながら、後ろを振り向く。
ゆっくりと門が閉じられていくのが見えた。




