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【えぴろーぐ】

「まだ気付かないのか、愚か者共め!」

言うなり娘は自らドレスの胸元をグイッと開けて晒しました。

慌てて皆、目を逸らします。


「特に目を隠す必要はない」


まず違和感を覚えたのは義母でした。


――あの娘の声は、こんなに低かったかしら……


「えっ……男……?」


好奇心に逆らえず、見てしまった義姉は驚きを隠せないようで、声が震えています。その声につられる様に、皆がシンデレラに目を向けて。




――そして……




言葉を失ってしまいました。


「あっ……あなたは……まさか僕の兄上!?」

「何とっ……まさか、10年前崩御なさった王太子殿下であらせられるか!」

「弟に愚かな大臣よ、漸く気付いたか……衛兵!手錠を外せ!無礼であろう!」


何と粗暴な娘 シンデレラこそが、この国の至宝とまで謳われた今は亡き王子だったのです。


「しかし……何故兄上が女装を……?」

「仕方なかったんだ……」


聡明で優しく

弱きを助け強きをくじく

誰もが彼が次期王であると信じて疑いませんでした。


「しかし、兄上は僕のマザーに命を狙われて……」

「そうじゃ。身を寄せた貴族の屋敷で病に倒れたと……」


次々に言い募る彼らを、シンデレラ改めて兄王子は鼻でせせら笑いました。


「そう簡単に死んでたまるか」


身を寄せた先の貴族は、王妃の魔の手がここまで及ぶ事を恐れ、兄王子に女装を強要したのです。


「私は……てっきり妹だとばかり……」

「当たり前だ。義父である卿しか、私の事情は知らなかったからな」


その卿も、数年前病に倒れて今はもう帰らぬ人です。

義母が卿に嫁いで来たのは、卿の奥方が亡くなられて3年ほど経ってからでした。


今からおよそ、2年前の事です。

程なくして卿が倒れ、真実は語られる事はなかったのでした。


「おっ……おいたわしや、王子……こんなに荒まれてしまって……」

「どさくさに紛れて何失礼な事ぬかしてやがる、このちょび髭ハゲブタじじい」


余りの言葉に、大臣は二の句が告げません。

構わず、兄王子は続けます。


「悪いが俺は元来こんな感じだ」

「えっ……噂では、聡明でお優しい方だと」


義姉が控えめな口調で、そう尋ねました。

すると、兄王子は人の悪い笑みを浮かべます。


「人の噂ほど、当てにならないものはないって言うだろ?」


――或いは……


「“逃がした魚は大きい”とか」


そう、過ぎ去る日々により、段々と美談へと形を変えたのでした。


「まあ、心配するな。俺は王位を継ぐ気はさらさらない」


「兄上?」


不思議そうに尋ねる弟に憮然と息を吐くと、口を開きました。


「せっかく自由になったんだ。あんな狭い箱庭に戻る気など毛頭ない。俺は旅に出る」


突然の宣言に、一様に言葉を失いました。


「世界は広い。まだ見たこともないものが沢山ある」



――お菓子の家

――魚の尾を持つ娘

――マッチ一本で夢を見せてくれる少女



「裸で過ごす事を常とする王国。まだまだ他にもある。俺はそれらを見て回るつもりだ」

「そんな……兄上、せっかくまた会えたというのに」


縋るように言う弟王子に兄王子はフッと笑みました。


「案ずるな。色々見て来て、今度会った時は話を聞かせてやる」



「綺麗に話がまとまったところ失礼します」


いきなり割って入って来たのは王室騎兵師団団長でした。


「貴方が犯した罪は消えませんからね?」


淡々と罪状を突き付ける団長。

観念したように兄王子は薄く笑います。



「こんなところで捕まる私ではない!」


何と、言うなり自らの長い髪を切り捨て、ドレスを脱ぎ捨てて高く跳躍したのです。


「捕まえたいのならば、私をどこまでも追って来るがいい!」


そして高らかな笑い声を残して、兄王子は消えたのでした。

決意を露に、団長は硬く拳を握り締めました。


「必ず……捕まえてみせますよ、王子」


こうして、長い長い鬼ごっこが始まったのです。

一方、シンデレラの姉は、その後間もなく弟王子と結婚し、末永く幸せに暮らしましたとさ。




めでたし めでたし(?)

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