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犬歯はない
「 だから、みんなで話し合ったすえに、あんたに、使用人を一人、差し出すことにした。 こいつは、おれたちクアット種族の中で、一番の働き者で、おとなしい雄だ。体は小さいが、なによりすごく丈夫だ。 好きなようにつかってくれ」
間髪入れず、『いらねえ』、とホーリーが答えた。
『 ―― てめえらクアット種族は弱いくせに興奮すんと食いつくだろ。 うぜえ 』
昔、《クアット種族》をからかって、かみつかれた馬鹿が《キラ種族》にいるという。
食いついて血を吸うでも精気を吸うでもないらしいが、その細くとがった犬歯は、かなり深く刺さる。
フードの男が両手を大きく打つ。
「 その心配はいらない。なにしろこいつは、犬歯がないんだ。 ―― ほら、見てくれ。だから外見は、あんたら《キラ種族》みたいなもんだろ?」
男は小さな影を引っ張り出すと、そのフードを手荒にはいだ。
「ハウアー、ほら、顔を上にむけるんだ」
出てきた茶色い小さな頭をつかみ、男が上へとむける。
うわむいた、白く整った顔の口に、指をかけてひらかせると、犬歯がないことを強調した。




