第32話 男湯のボーダーライン
「ちょっと待っててね」
「ああ。何処に持っていけばいいんだ?」
「へ? いいよ。私の仕事なんだから、ジッとしてて」
仕事を手伝うって概念が無いのかな。
周りの人たちも同じかも。
食事当番らしい人だけが片付けている。
他の人は……外? に出ていったな。
俺らも外に?
でもジッとしていろって言っていたし……うーん。
フブキのところに行ったらダメかな。
ナユダさんが戻ってきて残りの皿を拾い集めている。
「皆さんは何処に行っているんですか?」
「ん? お風呂の仕度だよ」
「お風呂……ふーん」
「じゃ、もうちょっとだけ待っててね。洗ってくるから」
そういえばこの後はお風呂だったっけ。
デイビーと2人で大浴場に……か。
気が重いな。
「パパ、一緒に入ろうね」
「え?!」
「むぅー、お約束したの忘れたの?」
「あ、ああ、そんなことないぞ。ちゃんと覚えているぞ。身体、洗ってやるからな」
「ぅわーい!」
そうだった。
前回約束していたんだった。
ある意味鈴ちゃんが居るってだけでホッとする。
デイビーを放っておいて鈴ちゃんの相手をすればいいんだからな。
『その子を男湯に入らせるのですか』
『当たり前だろ。俺が女湯に入れるわけないだろ』
『そ、それはそうですが……男湯に入っていい年齢には見えません』
『確か5歳だったかな。まずいのか?』
『当たり前ですっ。大体トキコ様がいらっしゃるのですから、お任せしたらよろしいではありませんか』
『約束したのは俺だし、俺たちしか入らないんだから堅いこと言うなよ。どうしてもっていうならお前が鈴ちゃんを説得しろよ。俺は嫌だからな』
『くっ。あんな嬉しそうにしている子供の顔を歪ませたくありません』
『なら最初から言うな』
『……はぁ』
あんな感情的になるなんて珍しいな。
ため息まで吐いて……
そこまで気になることなのか。
「はあー終わったー」
お、皿洗いが終わったらしい。
「はは。お疲れさま」
「ん? 別に疲れてないよ」
「いや、そういう意味じゃ……」
「?」
「なんでもない」
「はは、変なの。今お風呂用意してるから、終わったら入ろ」
「はい」
「おっ風呂。おっ風呂。パパとお風呂ー。きゃはははは」
すっげー嬉しそう。
そんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しくなるな。
「パパ?」
そういえばここの人たちは自分の親が誰だか分からないんだっけ。
そりゃ疑問にもなるよな。
「さっきも言ってたような気がするけど、パパって……」
「俺が鈴の父親です。で、時子が母親です」
「へ? どういうこと? なんで分かるの?」
「こっちではそれが当たり前なんです。俺は記憶が無いので分かりませんが、そういうのは稀です」
「??」
「っはは」
どうやらワンさんが言っていたことは本当みたいだ。
全く理解できていないらしい。
どういうことなんだろう。
「ナユダ、風呂の仕度が済んだぞ」
あれは……ここに来る途中で話しかけてきた人かな。
「あっ、ダイス! あのさ……」
ダイスさんっていうのか。
「……なんだと?! 本当か」
「あっちだと当たり前なんだって」
「ううむ、どうすればそんなことが分かるんだ」
「私に聞いたって分かるわけないでしょ」
「それもそうか。詳しく聞きたいところだが、風呂の時間は限られてる。早く行け」
「分かってる! さ、行こう」
「はい」
どんなお風呂かな。
岩風呂かな。
それともドラマで見たようなタイル張りかな。
次回、脱衣所で一波乱




