市場
辿り着いたのは、換金場の近くに位置する露店街。
あちこちで木の板と襤褸切れで作った屋台が並び、店先にはランタンが吊るされ、何度も来ているのにどこか祭りめいた物を感じてワクワクと心が躍ってしまうのは何故だろうか。
最初に向かったのは、廃材屋と呼ばれる店。地上の物でネジやバネといった物から、鉄板からタイヤなどいった多種多様の部品が集められた店。
「おお、ジンじゃねえか。何が入り用だ?」
黄ばんだ歯を見せ、手を叩く廃材屋。主に職人連中がよく来る店だが、ランナーも来ない訳ではない。廃材と言ってもたまに掘り出し物が出る場合があり、最近聞いた話では銃のパーツで新品同様の物が出ていたとか。
「今日のおすすめはこの電池で動く人形だな。電池をいれりゃあ、奇声を上げながら暴れまわる。まあ、電池はついてねぇけどな!」
「ゴミじゃねえか。そんなものは要らねぇよ。そこのワイヤーの束を三メートルくれ。あ、お代はこれで頼む」
カードを見せると、裏に店主の名前が書き込まれ、商品と一緒に手渡してくる。簡易的なクレジットカードの代わりと言うべきか、表に刻まれている人物の名前や組織の信用度が高ければ高い程、買い物ができる。
勿論、偽造すればただでは済まない。噂によれば、ミンチにされて飯屋に気付かないように並べられるか、地下で飼っているネズミの餌になるとかならないとか。
次に向かったのは、銃火器を並べる店が集まる場所。手製と分かる銃火器から、有名なブランド物まで並べられている。
一通り目を通していると、ある店で店員の後ろの壁に飾られているショットガンの数々に目を惹かれる。
「なあ、そのダブルバレルのって短く出来るか?」
それは、二つの銃口が並び、装填できるのはたった二発というロマン溢れるショットガン。
だが、ロマンだけで選んでいる訳ではない。メンテナンスもしやすく、銃身を短くしても問題はさほどなく、リロードも難しくないところが魅力だ。
「おう、本体と改造費込みでこれぐらいだな」
半年以上はゲロ以下の飯を食べなければいけないような値段だが、俺には最強の味方がいる。
さっきの店と同様にカードで支払って、銃身を切り詰めて調整してもらう。
「ひとまずこんなもので十分か、掘り出し物とまでいかないが良い物も手に入ったしな」
俺は腰のベルトに刺した銃身を切り詰めたダブルバレルのショットガンを一撫でして笑みを浮かべる。
世が世ならば通報待ったなしだが、それを咎める警察も軍も機能はしていない。
それからはショットガンの弾を買いに弾丸を売ることも兼ねている換金場へと向かい、私的の分も会わせて三箱購入。露店で買ったネズミの串焼きを齧りながら、必要なものを買っていく。
「ふふっ、市場に出るなら私も誘いなさいよ」
重くなったバックパックが突然更に重くなる。フラつきながら視線を後ろに向けると、ニコニコと笑顔でバックパックを握っているエリザ。
「あら、もう仕事なの? 私とあんなに凄い夜を過ごしたのに、もう私を捨てて仕事にいくのね」
俺の新調した武器や、露店で買った道具の数々を見てエリザは勘づいたようだ。目を潤ませて、泣き始める声に釣られて周りにいる人間の視線が集まる。
「分かった。分かったから離してくれ。そのことについても話すから」
「言ったわね。しっかり、全部吐いてもらうから覚悟しなさいよ」
スッと引いた涙に唖然としている俺をエリザはがっしりと腕を組んで工房まで連行していった。