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異核爆弾

「お帰りなさいませ。ご飯にいたしますか? それともお風呂の方にいたしますか? ああ、ベッドメイキンングは済んでおります」


「トキさん、いちいちからかうのはやめてくれよ……」


「ほっほっほっ、お茶を入れてきましょうかね」


 期待した目で見てくるエリザを無視して言えば、口に手を当てて去っていくトキを見送る。

 とても良い人なんだが、少し人を食ったようなところがどうも苦手だ。


 溜め息一つ吐いて、背負っていたバックパックを工房の床に置いて書類のファイルを取り出す。


「アレクに仕事を頼まれた。その関係で準備を始めてるんだ」


「アレクって……アレクセイね。組合のトップから直々なんて、どんな仕事なの?」


 エリザが椅子を運んできてくれたので、礼を言ってそれに座れば膝の上へと飛び乗ってくる。細身に見えても筋肉質で意外と重量感はある。

 命に危険を感じるために決して口には出さないが。


「ほら、さっさと捲ってちょうだい」


 目の前の焦げ茶色の髪から漂ってくる甘い香りに仕方ないと、鼻を膨らませて書類を捲る。


「簡単に言えば、これからの未来を切り開くための仕事ってところだな」


 紙を捲る度に気が重くなる。


基地内部の見取り図や、どの辺りに怪物が集まっていることが多い等を書いているが、全てが不確かなのだ。


基地内部の見取り図もそこで働いていた人間からの聞き取りで書いているだけであり、そもそもハイヴの規模によっては壁を作り、通路を塞いでしまうこともよくある。


「へえ、でもジンなら大丈夫でじゃない? チャージャーを拳銃なんかで倒したんだから」


昨日倒したチャージャーは確かに大戦果と言ってもいい。9mmごときの銃弾では、あの分厚い筋肉を貫くことは出来ない。あれは高い場所から自滅してくれたお陰で倒せたのだ。 


「あんなのはツいてただけだ。もう一回やれと言われたら出来る気がしないしな。それに今回の仕事は今までで一番やばくなりそうだ。考えてたら気が重くなる。そう言えば、お前が見せたかったって物を見せてくれよ」


 俺が書類に目を通しながら言うと、待ってましたと椅子から降りて作業台から何かを持ってくる。


「俺が渡した異核じゃねえか。それがどうした?」


赤く濁った鉱石のような角ばっていたはずの異核は綺麗に研磨されていて、丁寧な仕事だと素人目でも分かる。


「ただの異核じゃないのよね。ほらちゃんと見て見なさい!」


「顔に押し付けても見えねえよ。人間は前に目が付いてるんだ。頬にはついてない。ったく因みにこれはどんな代物なんだ?」


「爆弾」


「あぶねえなおいっ! そんな物を人の顔面に押し付けるなよ!」


 エリザから奪い取って慎重にそれを眺める。ソフトボール台の異核の周りにはチャクラムのような五ミリ程の厚さの鉄の円盤が取り付けられ、土星のような形をしている。


「最初は炉の火の代わりにしようと思ったんだけど、前々からちっちゃい異核で試作品を作っててね。その大きさでそれを作るとどんな威力が出るのかなぁと」


「因みにちっさい奴で作った時の威力は?」


「的代わりにした車が溶けた。跡形もなくドロッドロッにね! 私が思うにその大きさなら戦車も一撃で溶けるはず」


 グレネードも目ではない威力だ。あの怪物共から出る異核は基本的に火の代わりに使われる事が多いが、兵器に転用出来たのはエリザの才能と技術の賜物だろう。


「エリザ、これを売ってくれ。これは使える」


 この爆弾があればハイヴ等一瞬で消し飛ばすことが出来る。それにこの大きさでそれだけの威力を発揮できる物は滅多にない。


「タダであげてもいいよ。元々ジンがくれたものだし。ただ、私もその仕事に噛ませて欲しい。それがどれぐらいの力を出すのが、製作者として見たいのよ」


 意気込んでいるが、俺としては連れて行きたくない。成功する確率が低い決死隊に近い作戦だ。それにエリザはこの地下街ではトップに位置する職人でもある。


「これは買うから、それだけはダメだ。それにまた取ってきてやるから、その時実験でもすればいい。このカードに名前を書けば、組合から払ってくれるから――」


「―――絶対嫌よ。ジンはいつもいつも私を置いていくじゃない。それに今回は今までより、危険な仕事なんでしょ? 私の力が必要に決まってる」


 職人として名を馳せているが、エリザは職人になる前はランナーをしていたし、現在も小さな異核を手に入れる為にたまに外へと出ているとトキから聞いている。


 ここまで考ていると、是非にもこの作戦に欲しいと思う。だが、体を交わし、情の湧いたエリザにもしもの事があれば見捨てられるのかと思う。


 外での世界では、負傷者や、足手まといは自分の命を危機にさらすものだ。パーティ―を組んで外に出ているランナーも多いが、生きて帰ってくる人間は、何かあれば即座に見捨てる事が出来る奴だけだ。


「外に出たら全部ジンの指示に従う。死ねと言われたら死ぬし、ジンが言うなら他の男にだって体を許してもいい。だからっ―――」


「ああ、もう分かったから。ちっ、アレクには俺から連絡しておく。その書類の中身全部頭に入れておけよ。ったく、ツいてねえったらありゃしねえ」


 ボサボサの黒い髪を乱暴に掻きながら扉を開けて出ていく。



「よかったですね。お嬢様」


「あっ、トキばあ! やったわ。今回の仕事連れて行ってもらえることになったのよ」


 小さな体を加減した力で抱きしめ、トキはエリザのふわふわとした頭を撫でる。


「昔助けてもらった恩返しがやっと出来る。色んな物を作って渡してたけど、そうじゃないの。私が。この私がジンの横に立って役に立つことが出来るっ!」


 エリザの過去を知るのはトキのみ。キラキラとした瞳で、ジンの広げた物を幾つか持ち出し、作業台へと走る。


「トキばあ手伝ってちょうだい! もっと凄いのを作るわよ!」


「はいはい、慌てなくても大丈夫ですよ。ほっほっほっ」


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