裏切り
「ガァァァァァァァァァアアア!」
腕の隙間から見える赤い複眼には、憎悪が満ち溢れており、間抜けな顔をした何人もの俺が映っている。
「離しなさい! アンタ何やろうとしてるか分かってるの?!」
ちらりと目だけでその声の方を見ると、額から血を流して膝を着いているエリザ。
犯人は、恐らくランナーの男。グレネードランチャーをこっちに向けてニヤニヤと笑っているからな。
失敗した。痛みに苦しんでいるチャージャーは少しすれば襲い掛かってくるだろうし、動かなければグレネードを撃ちこまれるだろう。
突然のことに冷えた頭で客観的にそう考えたものの、アイツはいったいなにをしようとしているんだ。馬鹿なのか、とんでもない馬鹿なのか。
「おいおい、こんなところで仲間割れしてる場合じゃねえだろ! この豚ゴリラは今にでも俺達を襲おうとしてるんだぞ?!」
「分かってるさ。俺もその豚ゴリラ殺す手伝いをしようとしてんだ。ただ、巻き込んじまったらすまねえな!」
引き金に指を掛け、下卑た笑みを浮かべて向けられる大きな銃口。
笑えない。実に笑えない状況だ。ここを乗り切ったらこのクソランナー覚えておけよと、心に秘めながら神経を鋭く研ぎ澄まし、何か一手を打つ為に周りの情報を少しでも集める。
――――ハッハッハッ
犬の息遣いのような音が背後から近づいてきている。
ランナーの男からは、俺とデカい図体をしているチャージャーの所為で見えていないのか、気付いた様子はない。
「エリザ、俺に向かって全力で異核を投げろ」
声をかけながら、袖から零れるように落としたスプレー缶を蹴り上げる。
返答を聞く暇もなく、上体を倒れこむように後ろへと倒す。視界を赤い小さな土星のような形をした異核爆弾が通過していく。
―――カッ!!
目を潰すような閃光が辺りを包む。俺の動きに反応しようとしていたチャージャーと、後ろから飛び掛かってきてたであろうドックの泣き叫ぶ声。
視界を失ったドックが、通り過ぎていく時にカシュンっと小さな駆動音が耳鳴りの隙間で聞こえる。
ああ、映画のワンシーンみたいだ。ドクドクと心臓が五月蠅いほど高鳴り、耳鳴りが脳に響く。コマ送りのように徐々に動く時間。
「ソイツから奪い取れ!」
サンドバックを殴ったような鈍い音、それに少し遅れて肌を焼くほどの熱風が押し寄せ、ゴムボールのように俺の体は宙を舞った。




