軍事基地到着
明朝午前四時。地下街から三つ程離れた駅から地上へと上がれば、僅かに空が白み始める。
「早く乗ってくれ。荷物は後部座席の奥に詰め込んでくれ」
アレクセイが顎で指示する先には、五台の軍用車とトラック。俺が背負っているのは、大した重さも幅も取らないが、エリザの背負っている物はそうはいかない。後部座席の後ろに積み込めば、僅かに車体が上下する。
「ここら一帯の確認は終わっている。出発だ」
最後にアレクセイが俺と同じ車両の助手席に乗り込み、指笛を一吹きして出発する。
――――――――――〇▽◆――――――――――――――
木の根っこが道を砕いて伸び、その悪路をガタガタと揺れながら五台の軍用車とトラック一台が連なって走っていく。
「ヒュー、中々エロイ恰好した姉ちゃんまで用意されてるなんて、この作戦に乗って正解だな。地下街の娼婦共なんて使いまわされ過ぎて、誰と穴兄弟になるかわかったもんじゃねえからな」
左隣に座る軽薄そうな若い男のランナーが、舌なめずりをしながら、情欲に満ちた視線で俺の右隣りに座るエリザを舐めまわすように視姦する。
ツいてない。まさか同じ車にここまで緊張感のない馬鹿が乗っているとは思っていなかった。どうにかしてくれとバックミラーに写るアレクセイを睨み付ければ、溜め息を一つ吐いてこちらへと顔を向ける。
「いい加減にしろ。その女は隣りの男の連れだ。余計なことをして協調を乱すな」
助手席に座るアレクセイが低い声で窘めるが、男はそれを聞き流し、ラバー素材に包まれてぴっちりと露わにするエリザの下半身を見て舌なめずりをする。
「なあなあ、こんなダサい男のどこが良い訳よ? 俺なら毎晩足腰が立たなくなるぐらいひいひい言わしてやるぜ?」
ダサい? いや、こんな状況にダサいも糞もないだろう。いや、もしかして俺自身が冴えない感じがあるせいかと悩んで、エリザに目を向ければ、凛としている顔の眉間には皺が寄り、怒気が滲み始めている
男はそんな状態にも気付かずに下品な言葉で口説き続ける。これから一緒に戦う仲間とは不和を抱きたくなかったのだが、仕方ない。エリザが、何かを言おうと口を開いたのに被せるように俺は鼻を鳴らした。
「穴兄弟だのなんだのと気にする前にお前の小枝じゃ娼婦達も可哀想だな。あそこと男の皮を剥いて、一回り大きくしてから出直して来いよ小僧」
「な、なんだとこの野郎! ぶっ殺して――」
狭い車内で腰を上げた男だが、石でも踏んだのか、大きく縦に揺れて車内で、頭を強く天井に打つ。クスクスと小さな笑い声が響き、顔を真っ赤にして肩を震わせる。
敵を見るような目で見て来るが、俺は悪くない。こんなとこで余計な事をしようとしたお前が悪いのだ。
「遊びはそこまでだ。十分後に最後のブリーフィングを行う。それまで各自装備の点検、作戦の確認などを終わらせておけ」
アレクセイがそう言うと、ぞろぞろと車から全員が降りて行き、若い男は俺の背中に刺し殺せそうなほどの視線をぶつけてきているが、相手にするほど俺は暇じゃない。
「しばらく見ないうちにこりゃすげえことになってるな……」
少し小高い山になっているところから見下ろせば、道や滑走路は草に覆われ、木々は伸び放題。基地のフェンスには蔦が絡まってカーテンのようになっている。
「写真で写っていたより酷いな」
フェンスの向こう。
基地の敷地内は爆発で抉れた跡や、壁には銃跡。鴉が突く地面には肉片や、体の一部が散らばり赤黒い染みが出来ている。
車両から降りたランナーと隊員達は、各々作戦の確認や、双眼鏡を使って実際にどうなっているかを確かめ始める。
「お待ちしていましたアレクセイ中佐」
繁みからギリースーツを着た男の隊員が出てきて、アレクセイへと敬礼する。




