天使とカレ 3
「なにを、そんなに悩んでるんだ」
『キミにとって、自分はなんの意味も価値もない存在なんじゃないか、と』
「あっちが好きだから、俺とつき合ってんだろ?」
『どうしたら、キミに喜びを与えられるだろうか、と。せめて、わずらわせる真似はしたくない、と。──どうしてか、キミにはわからない?』
「俺のことが……好きだから?」
『あいしているから、喜んでほしい。しあわせでいてほしい。しあわせにしてあげたい。わらっていて、ほしいんだよ』
ぽと、としずくが降ってくる。
『ぼくはたくさん、たくさん、かのじょに愛をそそいでいる。でも、過去のキミのたったひと言のほうが、かのじょをずっと喜ばせるんだ』
「俺の、ひと言?」
『そうだ。それだけで、キミはいまだにかのじょにあいしつづけてもらえる。他にもっといい相手がいると、ぼくがおしえてあげているのに』
「……そうかよ」
もっといい相手がいる──
そう言われると、ムッとくる。
自分から選んだわけでもないのに。
『ぼくは、ありのままのかのじょをあいしている。その思考にも、肉体にも、ひとつも改善なんて望まないのに』
「改善……?」
『もっと、オンナノコらしい手をしていたら、とか。もっと、やわらかい体つきをしていたら、とか』
「そ、そんなこと、おもってねーよ!」
『かのじょの中のキミは、そうおもっている。毎日、毎日、かのじょをそう言って責めて、かなしいきもちにさせている』
「…………んな、こと」
断じて、言ったことはない。
言う気もない。
でも、その手にさえ触れない、という事実は、女の子をそれほどに傷つけるものなのだろうか。
手が動いたなら、頭をめいっぱい掻き回したいほど、心外だった。
デートで、手をつなぐくらいのことが、どうだというのだ。
したいなら、すればいいではないか。
いや──してやればよかった。
自分から、してやっていればよかったと、おもう。
好きなのは自分だけで、せめて相手をわずらわせてはいけない、などとおもっているのなら。
自分のことを好きな相手を喜ばせる方法なんて、いくらでもある──
たしかに、そのとおりだ。
喜ばせてあげたいと、おもうだけでいいのだ。
必要なのは、そのきもち、ひとつきりだった。
それさえなかったのだと、おもいしる。
サヤカの、『好き』だということばひとつきりに甘えて、カレシとしては怠慢をはたらいていた。
もっといい相手がいる──
そう言われても、仕方がないかもしれない。




