天使とカレ 2
「なに、泣いてるんだ」
『かなしいんだ』
「何で悲しいんだ?」
『キミが、かのじょをかなしませるからだよ』
マサキは内心、首をかしげた。
よくはわからないが、サヤカの先祖の霊だか守護霊だかをうっかり怒らせたせいで、金縛りにあっているらしい。
「そうは言うけど。喜ばせようにも、どうしてほしいのか、さっぱりわかんねーし」
第一、べつにかなしませているつもりはなかった。
かなしいなら、かなしいと言ってもらわなければ、わかりっこない。
せめて、かなしい顔くらいはしてもらわないと。
超能力者でもない自分に、どうしろと言うのか。
『わかっているはずだよ』
「わかんねーよ」
『わかるよ。誰にだってわかる。自分を好きな相手を喜ばせる方法なんて、いくらでもあるし、ひとつきりしかないんだから』
「……意味不明すぎる」
目をつむればこの白い影は消えるだろうか、ともおもうが、視線を外すとなにかされそうで怖かった。
『キミはいくらでも、かのじょを喜ばせることができる。だって、キミには肉体があるのだから』
「……肉体、ってな」
『道を歩くとき、かのじょは、キミと手をつなぎたいとおもってたよ』
「は? 手? だったら、つなげばいいだろ」
『キミの手は、べーすを弾くためにある、んだろう?』
「ハア? そりゃ、ベースも弾くけど──」
『かのじょは、べーすじゃないから、自分は指いっぽん触れてもらえないとおもってる』
「指いっぽん、って……」
手が動けば、頭を抱えたい。
指のいっぽんくらいが触れたからといって、どうだというのか。
そのくらいのことで、いちいち喜びがわくというのか。
「だったら、手くらい、つないでやるっつーんだ。そんなことでいいならな」
『……キミはずるい』
「なにがだ」
『そうして肉体を持っていて、かのじょに接触し、こころを揺り動かすことができる。かのじょを、あいしてもいないくせに』
「そんなこと言ったって──」
『ぼくがどんなにどんなにあいしても、かのじょはつゆほども気づかない。この愛を、ないものとして扱い、すこしも受け入れてはくれない』
ぽた、ぽた、とまた頬にしずくが降ってきた。
かなしいのだと、声は言った。
けれど、ぼんやりとわかってくる。
「おまえが悲しいのは、それ、俺のせいじゃねーだろ」
『キミのせいだ』
「どう考えてもちがう。自分じゃ触れることができず、気づいてもらえず、要は自分に肉体がねーからってだけだ」
『……ぼくに肉体があれば、かのじょの耳元ではっきりと、かなしませ、悩ませてばかりのキミとはすぐに別れるようすすめるのに』
「………………」
悲しませている自覚も、悩ませている自覚も、マサキにはまるでなかった。
が、声は自分の知らないサヤカを知っているようだ。




