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ELIZABETH Magical Kingdom  作者: せっきー
第一章

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第一話 月と太陽の物語

第一話 月と太陽の物語


※本作は1話=アニメ1話(約20分)相当のボリュームで構成されています。


※本作は、史実・実在の人物・出来事をモチーフとしていますが、内容はすべてフィクションであり、

実在の人物・団体・宗教・思想とは一切関係ありません。



むかしむかし、たいようがいました。

たいようはかけっこがだいすきで、そらをぐるぐるまわっていました。


あるとき、たいようはまぶしいせなかをみつけました。

「ねえ、きみはだれ?」とたいようがきくと、

「わたしはつきよ!」とこたえました。


もっとかおがみたくて、たいようはいきおいよくはしり、

するといきおいあまってつきをおしてしまいました。


「ああっ!」

つきはなみだをながしながらころび、したではじならしがおこりました。じめんのありやみみず、かえるたちは

おこったり、わめいたりしながら、つきとたいようをみあげてました。


たいようはみずからやったあやまちとことのおおきさにきづき、すぐにごめんなさいといい、なんどもなんどもあたまをさげました。


つきはありやみみず、かえるたちをみおろし、おこりつづけてもよいことがないなとかんじて、たいようをゆるすことにしました。それをみたありやみみずかえるたちはおおきくよろこびました。


ふたりはけんかもしたけれど、

いまでもそらでともだちとして

くらしているのでした。



ページが閉じられる音が、馬車の中に静かに響いた。


「……終わりよ、ベス」


アシュリーはそう言って、満足そうに微笑んだ。

物語を最後まで聞き届けた相手の反応が、何よりの褒美だった。


そのとき、外から御者の声がかかる。


「あと十分ほどで宮殿に到着いたします」


「えー、もう?」


「ふふ、続きはまた後でね。ほら、ベス。街を見てみましょう」


アシュリーが窓を開けると、城下町の景色が一気に広がった。


宙に浮かぶ野菜を並べる商人、

魔法具を試す客でにぎわう店、

道芸師が小さな呪文を披露し、子どもたちが歓声を上げている。


走っていた子どもが転びかけた瞬間、

透明な魔法のクッションが現れ、やさしく受け止めた。


建設途中の建物では、魔法で持ち上げられたレンガが

正確に積み上げられていく。


「街には、いっぱい面白いことがあるね!」


「ええ。魔法はね、皆の生活を豊かにするためにあるの」


「私も使えるようになりたい!」


その言葉に、アシュリーは一瞬だけ考え、穏やかに答えた。


「そうね……近いうちに、教えてあげましょうか」


「うん! 約束!」


アシュリーとエリザベスを乗せた馬車は刻々と、悠々と鎮座する石細工の門に近づいていくのだった...



馬車がゆっくりと止まり、御者が外から声をかけた。


「到着ですぞ。エリザベス様、アシュリーさん」


重厚な城門の影が馬車を覆う。

しかし、エリザベスは座席に残ったまま、窓の外を見つめていた。


「さあ、ベス。降りましょうか」


アシュリーが優しく声をかけるが、エリザベスは小さく首を振るだけで、動こうとしない。


「……」


その様子に、アシュリーは小さくため息をついた。


「まったく……」


そう言うと、彼女は半ば強引にエリザベスの手を取って馬車から降ろした。

足が地面についた瞬間、城付きの案内役が一礼する。


「エリザベス様。これより宮殿へご案内いたします」


宮殿へ続く石畳を歩きながら、案内役がふと思い出したように言った。


「そういえば……ロバート様が本日宮殿にいらしております」

「いつものようにお一人で歩き回られていて、只今見失っておりまして……」


アシュリーは苦笑する。


「まあ、元気なこと」


エリザベスは少し肩をすくめた。


「……いつものことだよ」


そのときだった。


「...エアフロー」


ふわり、と風が吹いた。

アシュリーのロングスカートが揺れ、並木の葉が一斉に舞い落ちる。


エリザベスは、なぜか一本の樹に目を留めた。


——次の瞬間。


背後を風のように何かが駆け抜け、肩を軽く叩かれる。


「……?」


驚いて振り向くが、そこには誰もいない。


すると右側から、聞き慣れた声が飛んできた。


「よっ、ベス! 遊びに来たぜ!」


エリザベスはびくっとして、勢いよく右を向く。


そこには、にやりと笑うロバートが立っていた。


「……もう、びっくりするじゃない」


ロバートは肩をすくめる。


「なに浮かない顔してるんだよ」

「ここはベスの家だろ?」


エリザベスは視線を左に逸らし、言葉を濁す。


「……別に」


その小さな変化を、ロバートは見逃さなかった。


少しだけ真剣な顔になり、すぐにいつもの調子に戻る。


「なあベス」


槍を軽く肩に担ぎ、笑う。


「楽しいことやろうぜ!」

「いつものバトル!」


風がまた、ひときわ強く吹いた。



中庭は、昼下がりの光に包まれていた。

白い石畳の中央には噴水があり、周囲には手入れの行き届いた樹木が並んでいる。


ロバートはずんずんと歩き、近くの木の下でしゃがみ込むと、折れた枝をいくつか漁り始めた。


「えーっと……」


そう言ってから、一本を手に取る。

エリザベスの腕の長さほどの、ほどよく真っ直ぐな木の棒だった。


「お前は剣が使えるから……これでいいか!」


ぽん、と軽く投げ渡され、エリザベスは反射的にそれを受け取る。


「……雑すぎ」


気だるそうに呟きながらも、棒を握る手には自然と力が入っていた。


ロバートは自分用に少し長めの枝を選び、くるりと回して感触を確かめる。


「ルールはいつも通りだぞ。

先に木の棒で頭に当てたほうが勝ち。準備いい?」


「……はいはい」


エリザベスは肩を落とし、やる気なさそうに答えた。


その瞬間だった。


「――開始!」


「エアフローッ!!」


ロバートの声と同時に、風が爆ぜる。


一瞬で距離が詰まり、ロバートの姿がぶれたかと思うと、次の瞬間には――

エリザベスの頭上から、木の棒が鋭く振り下ろされていた。


「っ!」


間一髪、エリザベスは横に跳ぶ。

棒が空を切り、風圧が頬をなでた。


(速い……!)


胸の奥がひやりとする。


(ロバート……魔法を使ってる!

このままじゃ……やられる!)


エリザベスは歯を食いしばり、棒を構え直した。


ロバートは楽しそうに笑いながら、軽やかに距離を取る。


「へえ、避けたじゃん!」

「行くぜっ、ゲイルッ!!」


次の瞬間、また風が走る。

ロバートは左右に揺れるように動き、どこから来るのかわからない。


エリザベスは必死に目で追い、地面を蹴った。

木の棒同士がぶつかり、乾いた音が中庭に響く。


「ちょこまか動くないでよ!」


エリザベスが口答えすると、ロバートが言う


「それはこっちの台詞だよ!」


息が上がる。

風が巻き起こり、スカートの裾と髪が大きく揺れた。


ロバートは一度距離を取ると、にやりと笑った。


「じゃあ……これならどうかな!」


次の瞬間、槍を一振りすると、突風がエリザベスに正面からぶつかる。


「わっ――!」


エリザベスは腕で顔を覆い、必死に踏ん張る。

視界が奪われ、足元がふらついた。


その隙を、ロバートは逃さなかった。


「――隙あり!」


背後から声が聞こえた、次の瞬間。


とん。


軽い感触が、エリザベスの頭に伝わる。


「……っ!」


ロバートの木の棒が、確かにそこにあった。


「はーい、勝ちー!」


ロバートは満面の笑みで拳を突き上げる。


「やった!やっぱり魔法使うと楽勝だな!」


「ずるい!ずるいずるい!!」


エリザベスは悔しそうに地団駄を踏む。


「魔法使うの反則でしょ!ずるいってば!」


「へへーん」


ロバートは得意げに胸を張った。


「七歳になったからさ。教えてもらったんだ、魔法!

いいだろー?」


「ずるい〜……」


目に涙を溜めながら、エリザベスはふと少し離れた場所に立つアシュリーを見る。


「アシュリー!約束!

魔法教えてよぉ……勝ちたいよぉ……」


泣きべそで訴えるその姿に、アシュリーは小さく息をつき、苦笑した。


「はいはい……約束ですよねえ」


付き添い人が少し困ったように声を潜める。


「……あの子に、魔法を教えるのですか?」


アシュリーは迷いなく頷いた。


「はい。あの子は……そろそろだと思いますので」


そしてアシュリーは声を張る。


「ベス!そろそろ宮殿に行きましょう!」


「えぇ〜……」


泣き顔のまま抵抗するエリザベスだったが、結局は半ば引きずられるように歩き出す。


去り際、振り返ってロバートに向かって叫んだ。


「次は絶対勝つから!べーっ!」


舌を出して挑発すると、ロバートは大笑いした。


「待ってるぜぇ、泣き虫!」


その声を背に、付き添い人とアシュリー、エリザベスの三人は宮殿へと向かっていった。


中庭には、まだ風の余韻だけが残っていた。


 宮殿の正門は、音もなく開いた。

 重厚な扉が人の手に触れられることなく左右に分かれ、内部の光が差し込む。


「さあ、こちらです」


 付き添いの男に促され、アシュリーとエリザベスは足を踏み入れた。

 高い天井、磨かれた床、壁に掛けられた数々のタペストリー。どれもがこの国の歴史を誇るように静かに存在している。


 長い回廊を抜け、大広間へ向かうと、すでに中は慌ただしかった。

 召使いたちが行き交い、銀の食器を並べ、湯気の立つティーポットを運んでいる。


 その中に、メアリーの姿があった。


 窓際に立ち、外を眺めていた彼女は、エリザベスに気づくと視線だけを向ける。


「……戻ったのね。」


「うん。ただいま、お姉様」


「そう」


 それだけ言って、視線を外す。


 少し間を置いて、メアリーは静かに続けた。


「今日は、みんな吠え散らかしそうよ」


「?」


「馬鹿のあんたは舌でも出してとぼけてなさい」


 召使いが「まもなく王がお越しになります」と告げると、メアリーは表情を整え、席へ向かった。


「お座り。ここは、あんたの犬小屋でもあるんだから」


「うん」


 やがて、扉が再び動いた。

 今度は重く、堂々と。


 乳母に抱かれた幼い赤子が先に姿を現し、その後ろからヘンリーが入室する。

 空気が一瞬で引き締まり、全員が頭を下げた。


「ほっほっ。楽にしていいぞ」


 ヘンリーはそう言って席につくと、赤子に視線を落とす。


「皆に紹介しようと思う。こちらが、我が息子エドワードだ」


 エドワードはきょとんとした顔で周囲を見回し、小さく手を動かした。


「母を失ったことは、誠に悲しい出来事だった」


 ヘンリーは淡々と、だが重みのある声で続ける。


「しかし、国には未来が必要だ。

 私は……新たな妻を迎えることも、実は考えていて」


 一瞬の沈黙。


 メアリーは表情を変えず、アシュリーは言葉を選ぶように視線を伏せ、召使いたちはただ立ち尽くす。


 エリザベスが、無邪気に首をかしげた。


「ねえ、お父さま。次のお妃さまって、だれなの?」


 ヘンリーは一拍置いてから、口角をわずかに上げた。


「ほっほっほっ!ベス面白いことを聞くなあ」

「それは神のみぞ知るってとこかな」


 誰も返せる言葉を持たず、苦笑いだけが大広間に広がった。


 やがて午後の茶会が始まる。

 紅茶が注がれ、菓子が運ばれ、ヘンリーが中心となって穏やかに場を進めていく。


 エリザベスは黙って紅茶を口にし、メアリーもまた静かだった。


 食事が終わり、人が少しずつ席を立ち始める。


 メアリーは一足先に立ち上がり、扉へ向かいかけてから、ふと振り返った。


「あんた」


「なによ?」


 メアリーは微笑む。

 だがその奥に、何か測りかねるものが揺れていた。


「人はね、生まれた場所や、与えられたものだけで決まるわけじゃないの」


「?」


「……阿呆なわんちゃんに言っても論語か」


 そう言って、メアリーは大広間を後にした。


 残されたエリザベスは首をかしげる。


 高い天井の下、宮殿はいつもと変わらず静かだった。

 だが、その静けさの奥で、何かが確かに動き始めていた。


大広間を出たメアリーは、振り返ることなく長い廊下を歩き出した。

高い天井に連なるアーチ、その間を縫うように続く回廊は、夕刻の光を受けて淡く沈んでいる。昼の賑わいが嘘のように、人影は少なく、靴音だけが静かに反響した。


いくつかの角を曲がり、壁際の小部屋に入ると、そこには整然と並べられた経本があった。メアリーはその中から一冊を取り、胸に抱く。指先は慣れた動きで、ためらいがない。


再び廊下へ出ると、さらに奥へと進み、重厚な扉の前で足を止めた。

祈祷室——あるいは小さな教会部屋と呼ばれるその場所は、宮殿の中でもひときわ静かな空間だった。


扉を開くと、ひんやりとした空気が肌をなでる。

メアリーは壁際の燭台に近づき、一本、また一本と灯りをともした。橙色の炎が揺れ、石造りの室内に柔らかな陰影を落とす。ステンドグラス越しの夕暮れの光と重なり、部屋は昼でも夜でもない、曖昧な色に包まれていた。


祭壇の前に進み、メアリーは膝をつく。

経本を開き、静かに目を閉じると、唇がかすかに動いた。声はほとんど音にならず、祈りは部屋の奥へ溶けていく。


しばらくそうしてから、メアリーは胸元に手をやった。

指先に触れたのは、いつも身につけている十字架——だが、その手を止め、ゆっくりと外す。そして代わりに、小さなペンダントを取り出した。


中には、穏やかな眼差しの女性の肖像が収められている。


「……お母様……」


その一言は、祈りというよりも、吐息に近かった。

メアリーはペンダントを両手で包み込み、再び目を閉じる。灯りに照らされた横顔は静かで、しかしその奥には、消えない想いが確かに宿っていた。


祈祷室には、ただ炎の揺れる音だけが残り、夕暮れはゆっくりと夜へと移ろっていった。


大広間を出たメアリーの足音が、長い回廊の奥へと消えていったあと、宮殿はゆっくりと夜の静けさを取り戻していった。


その少し後。

エリザベスはアシュリーに連れられて、自分の部屋へ戻っていた。


高い天井、厚い石壁。昼間はきらびやかに見えた宮殿も、夜になるとどこかひんやりとしている。部屋に灯された柔らかな明かりが、カーテンや調度品の影を静かに揺らしていた。


「今日は、ずいぶん疲れた顔ね」


アシュリーがそう言いながら、エリザベスの外套を受け取る。


「……ロバートがずるいんだもん」


エリザベスはむくれたまま、椅子に腰掛けた。


「魔法使ってきたんだよ? あれは反則でしょ」


「ふふ、あの子らしいわ」


アシュリーは苦笑しながら、髪を整えてやる。


「でも、ロバート君も努力しているのよ。急に強くなったわけじゃない」


「わかってるけど……でも悔しい」


ぽつりとこぼしたその言葉に、アシュリーは少しだけ真剣な顔になった。


「悔しいって思えるのは、とても大事なことよ、ベス」


「そうなの?」


「ええ。負けても、泣いても、“勝ちたい”って思えるなら、それは前に進んでいる証拠だもの」


エリザベスはしばらく黙り込んでから、顔を上げた。


「……ねえアシュリー」


「なあに?」


「私も、魔法……ちゃんと使えるようになる?」


アシュリーは一瞬だけ考えるように目を伏せ、それから柔らかく微笑んだ。


「ええもちろんとも!」


「ほんと!?」


「ええ。ただし、遊び半分じゃだめよ。魔法はね、知恵と心がないと危ないものなの」


エリザベスは大きくうなずいた。


「うん! ちゃんとやる!」


その様子を見て、アシュリーはくすりと笑う。


「じゃあ今日はここまで。続きは、また明日ね」


「約束だからね!」


「ええ、約束だよベス」


そう言って、アシュリーは布団を整え、部屋の灯りを少し落とした。


やがて、エリザベスの寝息が静かに響き始める。



同じ頃。


宮殿の別棟、重厚な扉の向こうにある書斎では、ヘンリーが一人、グラスわずかに注がれたワインとロースト肉を口一杯に頬張っていた。夜の食事中だ。


ある程度切り込みの入った焦茶色の塊にナイフとフォークを差し込む。その動きは迷いがなく、堂々としている。


ふと、手が止まった。


窓の外から差し込む月明かりに、ヘンリーは目を細める。


「……」


何かを考えるように、しかしすぐにその思考を振り払うかのように、彼は小さく息を吐いた。


「すべては、神のみぞ知るね...」


誰に向けるでもない言葉を残し、再び書類へと視線を戻す。


月明かりの下、彼の影は長く伸びて、静かに揺れていた。


夜の宮殿は静まり返っていた。



エリザベスはベッドの中で、すでに深い眠りについている。

小さな寝息だけが、部屋の空気をわずかに揺らしていた。


アシュリーは扉のそばに立ち、ほんの一瞬だけその寝顔を見つめる。


「……おやすみなさい、ベス」


それだけ言って、そっと灯りを落とした。


扉が静かに閉まり、部屋は月明かりだけに包まれる。

眠るエリザベスは何も知らないまま、ただ穏やかに夢を見ていた。


やがて王国の運命を大きく動かすことになるとも知らずに。

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