第20話 軽量化地獄
旧準備室。
昨日倒れたロボットが、胸と肩の外装をつけたまま横たわっている。
蒼
「……昨日の倒れ方、ちょっとショックだったなあ」
理人
「いや、あれは倒れるだろ。
胸と肩を盛りすぎたんだよ」
真
「……でも、かっこよかった」
蒼
「毒島くん、それはわかる」
理人
「いや、わかるのかよ!」
蒼は胸パーツを手に取り、
光に透かしてみる。
蒼
「でもさ、これ……
“軽いつもり”だったんだけどなあ」
理人
「軽いつもり、が一番危険なんだよ。
軽量化は“感覚”じゃなくて“数字”でやる」
真
「……数字、大事」
蒼
「毒島くん、数字好きなの?」
真
「……嫌い。でも大事」
蒼
「毒島くんの価値観、深いなあ」
理人はノートを開き、
外装の重量を計算し始める。
理人
「胸パーツが80g、肩パーツが左右で120g。
合計200g。
これが全部“上半身”に乗るんだから、
そりゃ倒れるよ」
蒼
「200gってそんなに重い?」
真
「……重い。ロボットには」
蒼
「毒島くんの“ロボット基準”は信用できる」
理人
「じゃあ、軽量化の基本を教える。
“削る・抜く・薄くする”。
この三つだ」
蒼
「なんか料理みたいだね」
真
「……料理、焦がした」
蒼
「毒島くん、家庭科の卵焼きの話まだ引きずってるの?」
理人
「いや、あれは焦げすぎだっただろ」
真
「……黒かった」
蒼
「黒かったんだ……」
理人は胸パーツを手に取り、
指で軽く叩く。
理人
「この厚み、半分でいい。
強度はギリギリ保てる」
真
「……削る」
蒼
「毒島くん、嬉しそうだね」
真
「……削るの、好き」
理人
「知ってる」
蒼は肩パーツを見ながら言う。
蒼
「肩の丸みも、もう少し薄くできるかな?」
理人
「できる。
丸みを保ったまま、内側をくり抜けばいい」
真
「……くり抜く」
蒼
「毒島くん、語彙が職人」
理人
「じゃあ、軽量化作業開始だな」
真は工具を手に取り、
胸パーツを削り始める。
キィィィィィン……!
蒼
「おお……音がもう“工房”だよね」
理人
「毒島の削りは精度が高いからな。
プラモで鍛えられてる」
真
「……プラモ、好き」
蒼
「毒島くんの“好き”は今日も安定してる」
理人は削られたパーツを持ち上げる。
理人
「お、30g軽くなった。
これなら重心もそこまで上がらない」
蒼
「30gってそんなに違うの?」
真
「……違う。全然違う」
蒼
「毒島くんの“全然違う”は信じる」
理人
「じゃあ、肩パーツも削るぞ」
真
「……任せて」
蒼
「毒島くん、頼もしすぎる」
三人は黙々と作業を続ける。
削る音、計算する音、スケッチを描く音が重なり、
準備室が“工房”のような空気になる。
しばらくして――
理人
「よし、軽量化完了。
胸パーツは80g→45g、
肩パーツは120g→60g。
合計で95g軽くなった」
蒼
「半分以下じゃん!」
真
「……軽い」
蒼
「毒島くんの“軽い”は最高の褒め言葉」
理人
「じゃあ、取り付けて立たせてみるか」
三人はロボットに外装を取り付け、
そっと立たせる。
ロボットは――
ぐらりと揺れたが、
倒れなかった。
蒼
「立ったぁぁぁぁ!!」
理人
「立った……!
軽量化、成功だ……!」
真
「……かわいい」
蒼
「毒島くん!?」
理人
「いや、でも気持ちはわかる」
蒼はロボットを見つめながら言う。
蒼
「なんかさ……
“生きてる”って感じするよね」
理人
「まあ……形がついてくると、
そう見えるよな」
真
「……もっと、作りたい」
蒼
「毒島くん、それはわかる」
理人
「じゃあ次は――
“顔”だな」
蒼
「ついに来た!」
真
「……顔、好き」
蒼
「毒島くんの“好き”は世界を救う」
理人
「救わないだろ!」
三人の声が、
軽くなったロボットの横で響いた。
その音は、
“次の議題”の始まりだった。




