第17話 避けて止まる
旧準備室。
机の上には、昨日“避ける”ことを覚えたロボットが置かれている。
蒼
「よし! 今日は“避けて止まるロボット”を作る日だね!」
理人
「いや、避けて止まるとは言ってない。
“避けて止まるかもしれないロボット”だよ」
真
「……止まる。たぶん」
蒼
「毒島くんの“たぶん”は希望」
理人
「いや、希望じゃなくてフラグだよ」
蒼はロボットの前に、昨日と同じペットボトルを置く。
蒼
「これが“障害物”。
昨日は避けたけど、止まらなかったんだよね」
理人
「まあ、避けたあとに“前進し続ける”仕様だったからな。
今日は“避けたら止まる”を追加する」
真
「……コンボ」
蒼
「毒島くん、コンボ好きだよね」
理人
「いや、ロボットにコンボって言うなよ」
蒼はArduinoを手に取り、プログラム画面を開く。
蒼
「じゃあ、距離が20cm以下になったら右に曲がって、
0.5秒後に止まる……って感じ?」
理人
「そう。
“避ける”と“止まる”を連続で実行する。
ただし、タイミングがズレると変な動きになる」
真
「……変な動き、好き」
蒼
「毒島くん、それはそれで困る!」
理人は配線を確認しながら言う。
理人
「そういえば今日の数学の先生、
“複合関数は人生だ”とか言ってたな」
蒼
「言ってた!
“f(g(x))が理解できないやつは人生も理解できない”って」
真
「……俺、理解できない」
蒼
「毒島くん、それは人生の話じゃないよ!」
理人
「まあ、ロボットの制御も複合関数みたいなもんだしな。
“避ける”のあとに“止まる”をつなげるだけ」
蒼
「なんか急に数学っぽいね」
真
「……数学、嫌い」
蒼
「毒島くん、今日の授業で寝てたよね」
真
「……寝てない。目を閉じてただけ」
理人
「それ寝てるんだよ!」
蒼は笑いながらプログラムを書き込み、
USBケーブルを抜く。
蒼
「よし、準備完了!」
理人
「待て! 配線確認!」
真
「……昨日、倒れた」
蒼
「毒島くんの“昨日倒れた”は重い」
理人は慎重に配線を確認し、
深呼吸して言う。
理人
「……よし。
久保田、スイッチ頼む」
蒼
「任せろ!」
カチッ。
ウィィィィィン……!
ロボットが前に進む。
蒼
「おおおお! 今日もまっすぐ!」
理人
「じゃあ、障害物に近づいたら――」
ロボットはペットボトルに近づき……
ピッ、ピッ。
くるり、と右に曲がり――
ピタッ。
蒼
「止まったぁぁぁぁぁ!!」
理人
「避けて……止まった……!
ちゃんと……止まった……!」
真
「……かわいい」
蒼
「毒島くん!?」
理人
「いや、でも気持ちはわかる。
なんか“危険察知して座る子犬”みたいだよな」
蒼
「ロボットの赤ちゃんだよ!」
真
「……赤ちゃん、賢くなった」
蒼
「うん、賢くなったね!」
ロボットは静かに止まったまま、
三人を見上げているように見えた。
理人
「……なんかさ。
ここまで来ると、
“次は何をさせよう?”って考えちゃうよな」
蒼
「わかる!」
真
「……もっと、できる」
蒼
「毒島くんの“もっとできる”は信じられる」
理人
「じゃあ次は……
“外装”だな」
蒼
「ついに来た!」
真
「……作れる」
蒼
「よし、ロボ研。
次のテーマは“見た目”だ!」
理人
「いや、見た目って言うなよ……
でもまあ、間違ってない」
三人の声が、
初めて“避けて止まったロボット”の横で響いた。
その音は、
“次の進化”の始まりだった。




