68話:外交準備3
王女のルイーゼに呼ばれた後、頭を悩ませる俺に、馬車に同乗したイジドラ嬢は慰めの言葉を一つだけで、そっとしておいてくれた。
正直こういうところでこっちが気を遣うべきなんだが、俺が気づいたのは学院で授業受けてる時。
班長をしたラルス先輩に試験対策また頼まなきゃいけないし、ユリウスになんて切り出すか、なんて思い悩んでいきついた。
なのに、イジドラ嬢へのフォローよりも、俺の頭を占めるのはゲームの展開だ。
「えー、今日は少々予定を変更し、隣国ダーリエフェルトとナイトシュタインの昨今の情勢についてとする」
教師が突然、今までの授業内容から変えてきた。
ちょっとざわつくけど、ダーリエフェルトに攻められたのは皆知るところ。
注意喚起か、ダーリエフェルトから来てる要人に無礼がないよう事前学習か。
生徒たちはそう考えた様子で話を聞く姿勢になった。
教師が語るナイトシュタインの情勢は、現状安定してるというもの。
紋章持ちの王が立ったことで周囲の国々も畏怖したと。
だが、ゲームでは違う。
ゲームで主人公の勇者と聖女、そして新たに仲間になった聖騎士と魔法使いが辿り着いた国は、内乱が起きていた。
「停戦というのは、一部地域や短期間に限定された戦争の停止を意味する。しかし今、ナイトシュタインの先王の逝去により、二年以上戦地での睨み合いのみとなっており停戦の範囲を超えている」
たぶんこれ、ユリウスに事前知識入れる目的もあるんだろう。
学院の授業にも、王族って介入できるもんなんだな。
「年単位での戦場の空白は、本来休戦として扱われるべきだが交渉はなされていない」
ゲームでは、ダーリエフェルトはウルリカによる反乱がおき、ナイトシュタインは若王の身内がその王位を奪おうと争っていた。
ただ、ここで前世の俺の残念な記憶力を悔やむことになる。
ゲームで魔人は二人一組だから、二人いたのは確定だ。
巨大ボスが熊で、全体攻撃が面倒だったことは覚えてる。
ただ、なんでそんなことになってたのか、まるで覚えてない。
ストーリー部分は、せめて覚えておけよと自分に言いたい。
けど印象的なシーンがあった教皇さえ、言われて存在を思い出す程度なんだ。
主要キャラと言えるウルリカならまだしも、大まかな流れ以上に思い出すのは、その時になってからになるかもしれない。
「ナイトシュタインは、先々代の王が今なお存命で…………」
教師に言われて、魔人の一人はその先々代、つまり若王の祖父だと閃く。
そう思いだせば、髭の老人のグラフィックが思い浮かんだ。
その先々代がそもそもダーリエフェルトと国境争いをしていたと教師も言う。
それで病気になった後、息子の先代が引き継いで、ウルリカの祖父が殺された事件をきっかけにダーリエフェルトに宣戦布告。
建前は、ダーリエフェルトの有力貴族に自国の不正を糾してほしいという要請から。
つまりは、ウルリカの親戚の一部が、ナイトシュタインの侵攻の正統性に利用された形。
「停戦期間は過ぎている以上、これ以上の期間は休戦協定を結ばねばならない。しかし戦う意志がなくとも、先代の清算もまた勤め。終戦の発行をもって、両国手を取り合い…………」
教師はこれ、城での話し合い知ってる感じか?
それとも戦争反対って言いたいだけ?
まぁ、少なくともダーリエフェルトの四男王はもう戦争にかまけてる暇はない。
そもそも当人からすれば、不本意な開戦だったんだしな。
そして若王はゲームでの印象は陽キャ。
モンクってゲームのジョブは、イメージとしてお堅いのに、若王は明朗快活、お祭り好き、いたずらっけもあれば、かっこいい王でありたいという虚栄心もある。
「ナイトシュタイン王ユーゲル陛下は…………」
また教師に言われてキャラクターの名前を思い出せた。
こっちに生まれ変わって慣れた今なら苦じゃないけど、前世の日本人だと横文字の名前覚えきれないんだよ。
正直今も、キャラクターデザインは出て来るけど、名前の出てこないキャラクターはいくらでもいる。
ダーリエフェルトからナイトシュタインまで行くとなれば、もしかしたら他にも仲間になるキャラクターがいるかもしれない。
ただ、ストーリー部分での活躍が少ない、もしくはプレイアブルとして性能が微妙だと、俺は覚えている自信がなかった。
しっかりキャラの掘り下げがストーリー中で行われた初期メンバーと違って、途中参加のキャラクターはどうしても印象が薄いんだ。
「それでは今日はここまでとする。国々の情勢にはよく耳を傾けるように」
ダーリエフェルトとナイトシュタインの辺りで出てくるキャラクターについて考えてたら授業が終わった。
この国の未来がかかってる悩みではあるんだが、ゲームに気を取られて授業を聞いてなかったっていうのはちょっと情けない。
「うーん」
「どうした、アーレント」
「あ、ラルス先輩。いい所に声をかけてくれましたね」
俺は休み時間に学生に捕まらないよう、ユリウスと二手に別れて撒いた。
ちょっと校舎裏で休んで次の授業に出ようとして、人気のない方向へ向かう俺を、狩猟大会の班長ラルス先輩が呼び止める。
「また学院を休まなければいけない状況になったので、試験の山を教えてください」
「今度はなんだ?」
ラルス先輩の目が光るのは、情報を欲しがってるんだろうが、あまり言えない。
けど動けばわかるし、だったら外交に関しては匂わせていいかもな。
俺が卒業で男爵なるなんて話より、伯父という理由もある分深堀りされないだろう。
「実は、外交官の伯父からダーリエフェルトへの同行を求められました。社交が苦手な俺への矯正です」
「使節を送るのか。その上、もう人員の選定も終わっている?」
「そういう詳しいことはまだ何も」
ラルス先輩は考える様子で探りを入れる。
「伯父だという外交官の名前は?」
「カインフリーデ子爵です」
「カインフリーデ…………あ、クラレンツ公に近い方か」
「よく知ってますね」
「ふふん、狩猟大会で王弟殿下のお側にいるかもしれない方々はある程度な」
そういうところまで想定してるのか、すごいな。
社交ってのはこういう姿勢も大事なのかもしれない。
とは言え、王族側の動きを知られて困ることもたぶんある。
ダーリエフェルトの王が、今王都にいるのは周知の事実。
それに対応するのが王弟ということも、わかってる。
だったらエミール伯父さんがダーリエフェルトへ行くのは順当だろう。
「さすがにいつ頃とは言えませんよ?」
「だが、授業に出るのは難しく、次の試験には間に合うような行程なんだろう?」
しまった、口を滑らせてた。
俺が一度口を閉じると、ラルス先輩は頷いて笑う。
「ずいぶん早い動きだ。その上、次の試験までってことは腰を据えての交渉? いや、四男王が直接出ているなら、すでに交渉の段階は目途が立ってるのか」
あー、ずるずる推測で状況引っ張り出されてる。
俺は一度手を上げて止めた。
「それで、返事をいただきたいんですが?」
「もちろん、引き受けよう。いい情報だ」
「何に使うにしても、俺が情報源だとばらさないでくださいよ。さすがに伯父に叱られます」
「そもそも私が提供した情報は回らないさ。派閥が違う」
「…………伯父の耳は、けっこう長いんですよ」
うちで何かあるとすぐやって来るし、ヤディスゾーン大公とは対立のない別派閥所属なのに。
それにエミール伯父さんは屋敷にくる以外にも、出先に現れることもある。
それで驚く俺たち一家を見て楽しむところもあるから、妹の義母上にも情報網の使い方がおかしいと言われていた。
そんな身内である俺の忠告に、ラルス先輩も身構える。
「き、気をつけよう」
「そうしてください」
俺たちは試験対策のためにまた会う約束をして、その場は別れた。
遅れて俺が校舎裏に行くと、すでにユリウスがいる。
俺の姿にほっとした様子で声をかけてきた。
「ローレン、遅かったね。大丈夫?」
「あぁ、知り合いと立ち話してただけだ」
「そう、ちょっと話したいことあったけど、もう教室に戻るべきかな」
「なんだ? 聞くだけなら今でもいいぞ。対応が必要なら放課後にまた話そう」
促すと、ユリウスが迷う。
けれど抱えきれない様子で口を開いた。
「その、外交使節って言うのと一緒に、国の外に行くことになるかもしれないって言われて…………」
「え? 国外っていうのは、何処に?」
「ナイトシュタインだって。どういう国か、ローレンは知ってる?」
もうその話、ユリウス本人に届いてるのか。
勇者も聖女もいる外交使節は、紋章持ちの若王を完全に威圧する布陣だし、早めに話を通しておくのは悪くない。
ただ、どう見てもユリウスは初めての外国に委縮してる。
もしかして、ルイーゼにわざわざ呼ばれたのって、これか?
自信のないユリウスに、勇者らしく振る舞える自信をつけさせなきゃいけないのか?
勇者らしさって、なんだ?
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