60話:ダーリエフェルトの王5
ダーリエフェルトの陣営で魔物被害が起きた。
俺はルイーゼと共にその対処に手を貸し、今は一人王弟の下へ報告に向かう。
差し出すのは、ダーリエフェルトの四男王から託された短い書簡。
「協力への感謝と、陣内はダーリエフェルトの問題であること。そして、自らに怪我はなく済んだという言伝、か」
書簡の内容を要約する王弟は、俺を見て聞く。
「何があった?」
もちろん、そう凄まれれば秘密になんてできない。
ここで手回しもせずに黙秘したら、露見した時に俺と一緒にいたユリウスはもちろん、ウルリカたちなんて完全に罪人扱いになるから。
けど四男王は何もなかったと、書簡にした事実がある。
「なるほど? ウルリカという者が復讐に走った。しかし、それをダーリエフェルト国王は国内問題として、こちらに責任を負わせることはないと決めたか」
王弟は俺の説明と現状を合わせて考える。
状況としては、ルイーゼが連れてたウルリカとゾイフの凶行だ。
本来なら責任を取らないといけないし、身内ってことで王弟も他人ごとじゃない。
また、俺たちは無理矢理他国の陣営の奥に入り込んだ。
たとえ侵攻してきた側でも、軍の内部なんて治外法権で不法侵入の同然で、そこも責められてしかるべき状況。
ただそれも、魔物討伐の協力へ感謝するって形で、不問にされてる。
「問題点を挙げろ、アーレント」
「…………私が駆けつけた時には、ダーリエフェルトの陛下は防御のために左腕を負傷。侍従の方が陛下を守り重傷。イェーデシュタン侯爵のためと預けられておりました回復薬を、ダーリエフェルトの陛下の求めに応じ、侍従の方に使いました」
俺の報告を聞いて、また王弟は考える。
そりゃそうだ。
そもそも用途外で高価な回復薬を勝手に使った。
しかも一番に怪我をなかったことにすべき四男王じゃなくて、侍従に。
けど本当に四男王からの強い要望でのことだ。
どうやらその侍従、四男王が即位してからずっと付き従ってた人らしく、ウルリカの襲撃も命を投げ出して庇ったという。
だから四男王としては死なない傷の自分より、死にかけの侍従を助けたかった。
「つまり、この怪我もなくというのは、アーレントのためか」
俺は何も言えない。
実際そうだからだ。
俺は勝手に預けられた薬を、許されないかもしれない範囲で使ってるから。
それを庇って擁護するために、怪我はなかったと四男王は文章にした。
「すぐに魔物被害への救援として、医師と薬の派遣を。アーレントはダーリエフェルトの二人の見張りをせよ。魔法に関しての封縛の枷をルイーゼに渡せ」
王弟に命じられて、魔法使い専用の枷まで預けられる。
ルイーゼに渡せっていうのも、お前が責任持てという姪への圧だろう。
気分が重くなりながら、俺はルイーゼの下へ向かう。
正直、どう振る舞うべきかわからない。
何せこんな和解、ありえなかったはずの成り行きだ。
「完全に、外れてるよな?」
ゲームでは、ウルリカは復讐を遂げて四男王を殺している。
いや、そもそもその後になって勇者と聖女に出会うんだ。
それがすでに出会って、しかもユリウスの説得を受けて剣を放した。
それにゲームでは死ぬはずのゾイフも生き残ってる。
ウルリカは仲間になる前提があったが、ゾイフはどうなんだ?
ちょっと足止めして、少しでも滅亡する国のゲーム開始を遅らせようとしたはずが、こんなことになるなんて考えてもいなかった。
「…………失礼いたします」
「あ、ローレン。お帰り」
「何辛気臭い顔してんのよ」
「あら、何を持っているのかしら?」
ルイーゼにあてがわれたイェーデシュタン侯爵の領館の部屋に入ると、当たり前にユリウスがいた。
さらには悪びれないウルリカもいる。
そして俺が持つ枷の入った箱に目を止めるルイーゼ。
ゾイフは何かしらを書くウルリカを見守るように控えてた。
本当になんだこの状況?
暗殺に走ったはずの奴らと、それを阻止した奴らが和気あいあいとしてる。
「王弟殿下より、王女殿下へ」
まずはルイーゼにだけ箱の中身の枷を見せて告げる。
それで王弟の意図を察したらしく、頷かれた。
その上で、王弟とどういう話があったかという説明を行う。
聞いていたユリウスは、困惑ぎみに確認してきた。
「えっと、つまり? ダーリエフェルトの国王さまのこと、お咎めなし?」
「そんなわけないでしょ。ローレンツはあたしたちの見張りっていう、命はってでも今度は止めろって無茶を言いつけられたのよ」
わかっててウルリカは、俺に挑むように目をむける。
正直勝てる気がしないから、その時には遠慮なくユリウスを頼ろう。
とは思うが、ユリウスは聞いた話をメモしてるのか手元の紙に一生懸命。
それを横目にゾイフが冷静そのものの声で言う。
「我々としては、存在が明るみになったために、今までのような暗殺は無理でしょう。であれば、あちらに引き渡されなければ無闇な抵抗はいたしますまい」
ゾイフが言うとおり、ウルリカが抵抗をやめた後は大人しいものだった。
ただ二人をどうするかとなって、すぐさまゾイフが四男王に啖呵を切ってる。
貴様の下にはつかない、貴様の国に安住することもないと。
四男王としても今回汚職大臣を一人捕まえ、そこからうちの国と交渉に入る。
ナイトシュタインとの休戦を狙う中、戦いのきっかけになった事件の身内を抱え込むのは難しい。
どう考えても敵にも味方にも利用されるし、今の四男王では守り切れない。
だから向こうからしても、ウルリカとゾイフがこっちの国にいるのは歓迎だそうだ。
しかも王女であり聖女であるルイーゼの下。
一度そこから抜け出して襲われている手前、ルイーゼも本気で見張る状況で、ゾイフが言うとおり暗殺の機会は早々巡っては来ないだろう。
「現状、ダーリエフェルトの陛下がなかったことにしてくださったからこその経過観察措置だ。そもそも軍に魔物嗾けるとか、それだけでも死罪なんだぞ」
「おや、軍が魔物に襲われるのは、道中でもあったことではありませんか」
ゾイフがしらばっくれるが、俺もそれ以上は追及できない。
何せ途中魔人に襲われたからこそ起きた事件で、本来人間は魔物を操れない。
けどゾイフも魔人で、できると知るのは俺だけ。
確証もない状況では報告もできず、表向きは途中で王弟がそうして襲われたから、真似したというような匂わせ程度に留めている。
そんな話をしてる間も、ユリウスは一生懸命何かを書いてる。
さすがに放置もできず聞くことにした。
「おい、ユリウス。何書いてるんだ?」
「エドガーへの手紙。活躍があったら教えろって言われてて」
「へぇ…………って、ちょっと待て! 何処まで書いた!? 普通に部外秘なことも今話してたんだぞ!」
「え、そうなの?」
慌てて手紙を取り上げると、俺たちが話したことそのままに書かれている。
ウルリカたちの襲撃をなかったことにしたり、実は四男王が怪我してることまで。
手紙の内容を見ていたウルリカとゾイフは、軽く言い合う。
「なんだ、そういうこと教えていい相手かと思ってた」
「勇者どのはご自身の活躍よりも、ご友人の活躍に重点を置いている様子」
言われてみれば、俺が何したって話が多い。
エドガー相手だからかと思ったけど、これユリウスの興味関心の問題か?
ルイーゼが手を差し出すので、俺はユリウスの手紙を渡した。
「確かにそのままは差し障りますね。ですから書き直しは必要です。その上で、これと、これと、こちらも書いてはいけませんね」
「えぇ? ローレンツが薬使ったとかも?」
「アーレントの活躍を書きたいのでしたら、先行部隊で何をしていたかを書いては?」
何故か駄目出しだったはずが、俺の活躍をどう手紙にするかという話になってる。
「エドガー相手ならその内家同士の関係で詳細は伝わるぞ」
「そのエドガーがね、ローレンは地味に活躍するタイプだから、実際何してるかを教えろって。それで、何か書くらしいよ」
「書く? エドガーがか?」
「えっと、俺が勇者だから、その内戦記とか言うのにまとめられるって話で…………。で、そうしたら俺の初陣? ってローレンたちと一緒で、どうせ戦記に書かれる。だから、どういう指揮してたとかはローレンに聞いたほうがしっかりしてるし、戦記にローレンのことも書かれるなら、俺一人じゃないって、エドガーが」
「おい、やめろ!」
ペンを取り上げようとするけど、俺より反射神経のいいユリウスはすぐにかわす。
「勇者の戦記はわかる! エドガーがそれ書きたいなら好きしろ! だが、俺は関係ないだろ!」
「なんで? 俺、ローレンに色々教わってるし、腕磨くのだってローレンが世話してくれるんだし必要でしょ?」
「必要ない! 戦記ってのは勇者とその仲間がどんなふうに華々しく活躍したかを書く物語みたいなもんなんだよ」
まだ奪おうとすると、俺はいつの間にかウルリカに腕を取られていた。
非難の目を向けるが、完全に面白がってる上に、ルイーゼもゾイフも止めない。
さらには、またユリウスにエドガーへ俺の活躍を知らせるためのアドバイスを始める。
「ユリウスは紋章が出てしまったから。ルルはそう生まれてしまったから。けど、あんたは違うわよね、ローレンツ」
囁くように声を低められ、俺は身を固くした。
「見張るなら、まずあいつに殺されるような見苦しい真似させるんじゃないわよ。自分から首突っ込んだんなら、それくらいしなさい」
ウルリカが、かすかな殺気を交えて俺を威圧する。
こっちも巻き込まれただけだと言いたいが、王弟の命令もあって見張らないという選択肢もない。
黙った俺は言い逃れも許されないまま、ユリウスが俺の活躍を語る手紙を作るのを、見守るしかなかった。
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