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53話:王弟の出陣3

 王都を逃げ出し、領地に向かうイェーデシュタン侯爵を追う中。

 俺は学生なのに、何故か先行部隊を指揮することになった。


「いや、戦時の貴族の子弟で学生って、確かに指揮権付与できたはずだけど…………」


 学んでから知ったその条項が、きっとゲームの始まりで主人公の勇者が学生服のまま戦上にいた理由だろう。

 王族の後ろ盾がある状態だから、何か理由つければ貴族の養子にでもなんにでもできる。

 王都が攻められるような状況の中で、平民だからと勇者を遊ばせておく余裕もない。


 現実的に考えると、ゲームの状況はあり得ると言える。

 その上で、どれだけ悲惨な状況に陥ってしまっているかも想像できてしまう。

 ゲームとはたぶん違う方向に進んでるこの現状が、少しでも国の滅びを回避する可能性に繋がってればいいんだが。


「はずではなく、できます。というか、これだけの速度を出しているのに余裕ですね」


 俺に教示するレルナー先生。

 そんなこと言いつつ、自分も全速力に近い馬の上で喋ってる。

 さらには俺が名目上率いる全員が、騎馬に乗る姿から練度も高いことは見て取れた。


 これ、俺なんていらないんじゃないか?

 なんて考えて馬走らせてたら、先頭から報告がある。


「進行方向に魔物を視認! 象型二体、虎型二体です!」


 悲鳴染みた報告に急いで停止を命令すると、誰も顔が引き攣らせていた。

 数は少ないが大型と中型が二体ずつ。


 しかもゲームではこの国のエリアには出ないはずの魔物だ。

 そんなことができるのはつまり…………。


「魔人だ。何処かに魔人が潜伏している。警戒を!」


 しかも数が少なくても少数では決して勝てない種類を配置してる。

 魔物としても気性が荒く、象だろうが虎だろうが一体でも手を焼く相手だ。


「やっぱり、また王弟殿下を魔人が狙って来てる?」

「今は、目の前のことを考えなさい。自らの役目を全うしてこそです」


 冷静な先生から周りに目を向けると、驚きや対処の難しさに緊張しているのがわかる。

 けど魔人がいる可能性に狼狽える者はいない。

 つまり、この事態を予見していたことになる。


「本当に王弟は自らを囮になるつもりなんですか?」


 先生は否定せず、肯定もしなかった。

 つまり、俺以外はそういうことも含めて命じられてるわけか。

 それはそれでひどい。

 事前に言ってて欲しい話だ。


 そして先生は先行部隊として進むことを促してる。

 王弟の命令に従うなら、戻ることは許されない。

 その上で、ここで止まることも許されてないことだ。


「今の兵装では、このまま走っても抜ける間に脱落者が出ます」


 俺が言うと、先生はなんでもないように応じた。


「落ちる者は置いて行くので、あなたは自分が落ちないように気をつけなさい」

「…………いえ、場合によってはこっちに王弟殿下が逃れる可能性もあるでしょう。魔人もそれを考慮して足止めのために魔物を配置している。であれば、この魔物たちはできるだけ力を削がなければ、後顧の憂いを残すだけです」

「では、どうやって?」


 先生は俺に答えを迫る。

 周囲の経験豊富なはずの人たちも、俺を試すように何も言わない。


 待ち構える魔物は、ゲームで戦ったことがある中盤の敵だ。

 象型は防御が高く、虎型は攻撃力が高いが、前提として初期のこの国のレベルより格段に上だから、一撃でも食らえばアウトだろう。

 そして素早さに関しては大きく差があるから、魔物同士連携しないことは想像できる。

 したとしても、攻守にわかれる程度になるんじゃないか?


「鈍重な象型は無視で。虎型に攻撃されないようにしつつ、あえて釣って、象型と分断。槍や剣を投げて手負いにできれば良し。最悪振り切るための足止めを目的とします」

「欲を出し過ぎている気もしますが、いいでしょう」


 先生が言うと、他も応じて武器を手にした。


 馬上で使える武器は長さがいる。

 だから予備を用意することはできないし、長さが重さにもなるから、急行する先行部隊の俺たちはそこまでの武装はない。


「まずは槍が先行してください。そこで足の止まった虎に剣を刺せるなら刺して、無茶はしないように。もちろんこの中に、馬を止めるようなへまをする者もいないでしょう」


 先行部隊の内情知らない俺は、先生に任せて今度は黙る。

 そうして槍を構えた半数が突撃し始めた。

 俺や先生の後続は、象の気を引くためにベルトをスリングにして適当に物を投げる。


 降りて石を拾うわけにもいかなかったから、馬具の装飾をちぎった。

 俺の馬じゃないから申し訳ないけど、いい感じに尖った装飾は嫌がらせにはぴったりだ。

 お蔭で槍を持つ半数は象を抜け、虎を煽って走り抜ける。


「行きますよ」


 先生に言われて、俺も後続と走り出す。

 象が警戒して鼻を振り回すが、馬のほうが早く、回り込む形ですり抜けられた。


 そして先を行く虎に、引きつけ役と回り込む役に別れて槍が投げられる。

 いくつか刺さり、それを後から俺たちが剣を投げつけ、走り抜けた。


「お、誰か目を潰したみたいだ」

「では、その者のことはきちんと報告をするように」

「あ、はい」


 先生は教師のまま、俺に課題を出すように言った。

 そうして走り抜けて、一度は前後に別れた先行部隊も合流する。


 その後は快調に進むかと思ったら、また前方からの報告が上がった。


「進行方向に七名の騎士! イェーデシュタン侯爵に仕えるものと思われます!」


 また行く手を阻む存在が現れたらしい。

 人間相手となればそう簡単には抜けさせてくれないだろう。

 その上こちらは半数以上が武器なしで、予備にあるのはナイフ程度。


 進んでみれば、相手は横並びで道を塞ぎ、通さない意志を明示していた。

 そしてこちらは坂の上から下る形だ。


「勢いつけられるし、正面から当たるだけ両者に損害がでる。だったら、まずは警告を!」


 俺が言うと、応じた先行部隊から、王弟の命令で走ってる自分たちを妨害するなら逆賊だという警告が発された。

 それを聞いてイェーデシュタン侯爵の騎士たちは武器を握り直す。

 完全に戦闘態勢だ。

 そもそもイェーデシュタン侯爵の紋章付けてて隠しもしない。

 正面から足止めのために命を捨てる気なんだろう。


 だからこそ、倍以上いる騎馬を前に逃げもしない。


「相手にするだけ、イェーデシュタン侯爵の時間稼ぎになります。押さえ込む人員を残して走り抜けるべきでしょう」


 先生の提案には一理ある。

 けどそれじゃ、武器が心許ないこっちにも被害が出るのは明白だ。

 なんだったら、残して行く人員はこっちにとっての時間稼ぎの捨て駒になる。


「いえ、魔物相手と同じで行きます。気を引く間に後から追撃。そして全員で走り抜ける」


 この地形ならいける。

 そう判断して、俺は先行部隊に速度を緩めるように命じた。

 同時に自分は馬の速度を上げる。


 仲間内からも驚き慌てる声が上がった。

 それにイェーデシュタン侯爵の騎士たちも即座の攻撃を一瞬迷う。


「今だ!」


 俺は最高速に向かって走る馬と息を合わせ、坂から飛んだ。

 勢いに乗った跳躍と、坂という高い位置。


 俺は馬と共に騎士たちの頭の上すれすれを飛び越えて行く。

 その勢いに、騎士たちも慌てて体を倒した。

 馬の蹄が頭にでも当たれば、命の危険があることは馬を兵装の一部にする騎士なら知っていて当たり前。

 繊細な生き物でもあるから、慌てる馬もいて、勢い落馬する騎士も出た。


「走れ!」


 俺は着地した勢いのまま走って背後に命じる。

 一拍遅れて先行部隊が全速力を出した。


 数で劣る騎士たちは、構えを解いてしまっていたせいで止める暇はない。

 中には落ちた者を助けようと動き、また、暴れる馬を宥めようと手一杯になっている。

 そうなれば、行く手を阻んでいたはずの列は歪み、、走り抜ける隙間ができた。


「全く、無茶を」


 追いついた先生は、俺を叱るようにそういう。

 けど俺は見たんだ。

 通りすぎざま、武器を持った騎士の腕にナイフ滑らせてた姿を。


 自分の持ってた剣は虎型の魔物に投げてたから、それしか武器がない。

 だからって他人に欲張りって言っておいて、自分はやれると思ったら相手の腕を潰しにかかるとか。

 口で教わるばかりだったけど、実戦があったりしたら手が早いのかもしれない、この先生。


「慌てて逃げて、守りをあの数割いて足止めをした。そうとなれば、イェーデシュタン侯爵の周囲の抵抗は少ないことでしょう」


 先生が言うとおり、騎士たちは馬に乗っていた。

 それは機動力でもある。

 ただ立って道塞いでるだけに使うなら、イェーデシュタン侯爵に馬は必要ない状況なのか。

 すでに領地からの迎えに合流してる可能性があるかもしれない。


 まだ領地には距離があるから、逃げ続けるなら必要なはずだが。


「馬、だいぶ疲れてましたよね?」


 口泡を吹いてた馬もいたから、騎士の馬は長く走れないために置いて行かれた可能性もある。

 その上で走らない前提で馬を放棄したなら、逃亡者のやることは一つだろうと思えた。


定期更新

次回:王弟の出陣4

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 この抜擢で優秀な所を見せれば、狩猟大会の被害は仕方なかったと王弟も援護できますね。 大きなミスすれば見捨てるでしょうけど…。
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