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51話:王弟の出陣1

 イェーデシュタン侯爵が、王都から逃げ出した。

 その知らせに、すぐさま人と馬が走らされ、各所で通行止めや人相の検めが始まる。


 そうしてる数日の間に、王弟は軍用を整えた。

 すごくスムーズ。

 これ絶対、逃げること前提にした動きだ。


「ダーリエフェルトでも軍が招集されている動きもある。急な動きも、国威のためという良い言い訳になった」


 そう軽く話す王弟に、俺に教える武官教師のレルナー先生が応じる。


「それで閣下ご本人が追い駆けるとは。しかも行く先にはダーリエフェルト軍。帰れば陛下よりありがたいお言葉をいただけるでしょうね」


 それ知ってる、ありがたいお説教のお言葉だよな?


 イェーデシュタン侯爵の捕縛に対して、主導的な立場だった王弟が直接指揮することになったのは、国境にダーリエフェルト軍の動きがあるから。

 狙いはたぶん、財産権を持ってるイェーデシュタン侯爵の身柄。

 それさえ押さえれば、ダーリエフェルトの大臣は金を取り返せる目算が立つ。

 ただし、反応が早すぎる王弟に誘い出された可能性が無きにしも非ず。


「えっと、どういう状況?」


 近くにいたユリウスが、俺に現状を確認してきた。


 俺たちは今、王都外の街道沿いに軍と一緒に待機中。

 近くには王弟、さらには王女のルイーゼまでいる。

 そのルイーゼの護衛名目で、ユリウスは勇者として同行してた。


「元からイェーデシュタン侯爵は狩猟大会で王弟殿下のご命令を無視して逃亡してる。それに関しては、表向き、命令の行き違いを主張してた。俺たちが間にいるせいで、その辺り詰め切れずにいたんだ」


 実際俺が騙りしたせいではある。

 ただ王弟も同じ命令出そうとしてたから、結果的には事後承認されてる状況だ。

 けどイェーデシュタン侯爵は、王弟からの命令は受け取ってないと言い逃れできてる。

 実際伝えたのは学生だし、一部には事後承諾ってばれてるからグレーだ。


「何よ、それ。上の言うこと聞かないなんて、そんなの叛意ありってもんでしょ。もっと早くとっつ構えてれば、逃げられることもなかったのに」


 そう言ったのはウルリカで、こっちもルイーゼの護衛名目。

 もちろんモンペのゾイフもいる。


 ちなみにただの学生で、戦闘能力もないドミニクはいない。

 まぁ、ユリウスはもちろんウルリカたちにも移動のための馬や食料の世話をして、裏方やってたけど。

 それで言えば俺だって一介の学生。

 なのに何故か、イェーデシュタン侯爵が逃げた日に報告に行って、そのまま出陣の準備しておけって言われたんだよ。

 王弟本人からの命令じゃ、何も言えないって。


「もちろん、信頼をなくしたことで調べが入り、ダーリエフェルトの汚職に関わってることが明るみに出た。そして相手は狩猟大会に参加する程度には武力を持ってる。その上で準備していた兵力があったから、今、この状況だ」


 つまり、王弟は最初から兵出す気満々で用意してた。

 まぁ、相手が狩猟大会でそれなりの兵力誇示したんだから、最悪武力衝突が伴う抵抗があると見据えるのは間違ってない。

 一応、そうならないように調査を入れて、証拠を掴んで、言い逃れできなくしてからイェーデシュタン侯爵本人捕まえようとしたら、逃げられたんだよな。


 たぶん、誰かがイェーデシュタン侯爵に王弟の動きをリークした。

 王弟もそれは予想してるみたいだが、今はイェーデシュタン侯爵がダーリエフェルトに捕まるほうが面倒だ。

 だから軍を使って派手に追い込む。

 っていうか、一定数の武力持ってるイェーデシュタン侯爵を、王都から追い出すのが逃がした理由の一端ではありそうだな。


「こちらの動きを派手にすれば、もしかしたらダーリエフェルトの軍が本気で当たる気もなく逃げる可能性もある」


 その辺りが国威って言ってた王弟の言葉にも含まれてると思う。

 向こうも西の隣国ナイトシュタインと休戦状態で、東の隣国であるこっちと兵乱起こすなんて馬鹿げてる。

 だから王弟も威嚇だろうと見て、強気の姿勢を見せるために自ら出た。


「何? 普通に喧嘩売られたんだからぶっ潰せばいいでしょ」


 好戦的過ぎるウルリカに、俺は釘をさす。


「これは、我が国の判断による自衛と、罪人を裁くための行動だ。で、ウルリカは王女殿下の護衛を仰せつかったんだろう? だったら、引き受けた役割に専念してくれ」


 追い払うように言うと、一応働く気はあるみたいでルイーゼのほうへ向かった。

 もちろんゾイフもウルリカについて行く。


「なんか、護衛の護衛みたいな動きだな、ゾイフ」

「ルルもけっこう動けるらしいから、護衛いらないって言ってたけど。あ、それでもやっぱりウルリカ強いから、護衛としては心配ないよ」


 ユリウスが慌ててウルリカのフォローをする。

 なんか俺のほうが先に会ってたのに、すごい勢いでルイーゼともウルリカとも仲良くなってるな。

 これが勇者の力か?


 なんて適当に考えてたら、ユリウスが声を潜めた。


「そう言えば、帰ってローレンツと合流した時に聞こうと思ってたんだけど」

「うん?」

「なんか、ルルが光って見えたんだよ。胸元の辺りから」


 何処見てんだ、なんてことは言わない。

 何せゲームでは、聖女の光の紋章はそこにある。

 必殺技出すような演出では胸元が光る仕様もあったから、俺はその意味に気づいた。


「ユリウス、もしかして紋章の力を使ってなくても、見えるのか?」

「あ、やっぱりあれ紋章なんだ。服に隠れてても、見えるんだね。バンダナもそうだったし」

「おい、それはロイエの紋章も見えてたのか?」


 思わず聞き返すと、ユリウスのほうが驚く。


「え、秘密にしてるって言ってたのに」

「あ、あぁ、実は、そういう噂があったんだよ。強いしな」


 適当に言っても、素直なユリウスはそれで納得してくれた。


 だが俺は気になることがさらに湧く。


「なぁ、ウルリカは? 光って見えたり?」

「うぅん、ないよ。あ、そうだね。強いからって紋章持ちとは限らないのか」


 ゲームでは、闇の紋章を持つ魔人は、その力を使わない限り黒い霧のようなエフェクトは表示されなかった。

 その仕様で、魔人は行く先々で人間の中に身を隠していたし、光の紋章持ちだって、演出として光るだけ。

 まさか光は使ってなくてもわかって、魔人の闇の紋章はゲームどおりなんて違いがあるとは考えてなかったな。


 問題は、ゲームで闇の紋章を失うと同時に光の紋章が現れたウルリカに、現状光の紋章がないこと。

 闇の紋章があるせいで感じ取れない可能性もある。

 だが、細腕の女の子が、同じ年齢の男を縊り上げるなんて異常事態だ。

 それこそ紋章の力を疑うんだが、違うらしい。


「…………つまりウルリカは自前の馬鹿力なのか」

「そうそう、力試しで剣をさ、上から押さえ込んだんだけど、力任せに弾かれたんだ」


 勇者のユリウス相手にも、ウルリカは腕力で勝るらしい。

 そんなのモブの俺が対抗できる力じゃないわけだ。


 なんて話してると、王弟といたはずの先生がやってきた。


「イェーデシュタン侯爵の目撃情報から、やはり自領を目指している様子。これより追跡を始めます。遅れないよう気を引き締めなさい」

「はい」

「は、はい」


 注意されると、ユリウスも一緒になって返事をする。

 先生は気にせず続けた。


「すでに国境には砦から兵士を集めているとの報告が上がっています。しかしイェーデシュタン侯爵領は、砦の改修も怠り、駐屯する国軍に対しても非協力的。長くはもたないでしょう。イェーデシュタン侯爵が領地に入る前に捕えるため強行します。くれぐれも王女殿下の迷惑にならぬよう努めなさい」


 金の出し渋りで、イェーデシュタン侯爵領近くの砦は脆いようだ。

 つまり、本当にダーリエフェルトの軍が来ると時間稼ぎすることも難しい。

 何よりイェーデシュタン侯爵の領地には、イェーデシュタン侯爵が動かせる兵力がある。

 下手にイェーデシュタン侯爵寮に入れば、内外から挟み撃ちにされる可能性もあった。

 それを阻止するためにも、領地に逃げ込む前にイェーデシュタン侯爵を捕まえて武装解除させる必要があるわけだ。


「失礼、少々お耳に入れたいことが」


 俺は一応考えてから先生に近づく。

 ユリウスにも聞こえないよう声を落とした。


「王女殿下が私的に雇った護衛のウルリカとゾイフは、発言からしてダーリエフェルトの、かつての公爵家ゆかりの者である可能性があります」


 それだけで、先生はことの重さを理解して、判断してくれる。


「クラレンツ公にお伝えしましょう。縁としてどの程度であるかは?」

「確証は得られておりません。ただ、ダーリエフェルトに遺恨はあるようです」


 先生は頷いて、ウルリカとゾイフのことを王弟に伝えに行ってくれた。

 聖女っていう身分のあるルイーゼが雇ったことで言い逃れはできるけど、罪人追ってきた俺たちがダーリエフェルト側の罪人の生き残り連れてたら、面倒なことになるんだよな。


 そもそもゲームではこの時点で出会ってないせいで、なんか妙なことになってる。

 だからって、このままウルリカに隣国で反乱を起こされるわけにもいかないんだ。


定期更新

次回:王弟の出陣2

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― 新着の感想 ―
これ系の作品あるあるだけど、このゲームの話碌に覚えてないって言ってたのに、ストーリーどころか詳細設定まで細かく記憶してないと出てこない情報をポンポン出し続けるのがモヤモヤする
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