45話:園遊会5
正直園遊会は役目こそ果たせたが、表向き繕えたかがわからない。
けどやったら終わりなんてこともなく、俺は園遊会の日から改めて王弟に呼ばれて城へ向かった。
また案内に先導されて、見た目だけは豪華な執務室に入る。
いつ来てもここ、仕事で行き交う人が絶えないな。
「それでは失礼いたします」
俺と入れ違いの人がいて、見れば、アイフェルト卿とイジドラ嬢が言った相手だ。
そしてレルナー先生から妙な情報をもらったせいで、女の趣味が残念な人というイメージが頭をよぎる。
いや、真面目に仕事してるんだし、前世的にも恋愛は自由だ。
色眼鏡で見るのは良くない。
そんなことを思いながら、俺は王弟の前へ進み出た。
相変わらず挨拶なんてさせてもらえずさっさと本題に入る。
俺としては変に探りを入れられたり、監視つけてるぞ、なんて匂わせられたりするよりは精神衛生上いい。
「報告にあった、イェーデシュタン侯爵が関わる者の名前を悪用している可能性というものの、説明を聞かせろ」
呼ばれたのは、すでに提出した園遊会の報告に関して。
というか、俺は王弟が途中退場した理由知らないんだが。
そこから攻めて来るってことは、もしかして調査入れたところでそれらしいもん見つけたか?
「報告にも書きましたが、マハトヴァーサ公爵令嬢のご助力により、イェーデシュタン侯爵から『行方不明にでもなれば、名も使えたものを』との言葉を引き出しました」
報告内容に沿ってることを確認して、そこからなんで名前の悪用に思考が飛んだかって話だ。
まぁ、前世でそういう犯罪あったよなってところで思いついたことなんだよ。
「名義貸し、という世俗で行われる、知人同士融通する行いをご存じでしょうか?」
王侯貴族という、名前に重きを置く側からすると言語道断なことだ。
けど、名前に重さなんてない平民たちは、けっこう気軽に名前貸してって感じでやってる。
そもそも貴族くらいしか戸籍管理してない世界だ。
平民の識字率なんてたかが知れてるし、自分の名前をどう書くかもしれない者もいるくらいのもの。
もちろん王弟殿下なんて身分の方は知らないという反応。
「名を借りて何をするのだ? そんなもの混乱の元だろう」
「平民であれば、大した悪事はできません。ルールをすり抜けるための狡い手管となります」
たとえば市場、定期市などはギルドの所属名や場所代などで名前が使われる。
「以前、喧嘩沙汰を起こしてしまった店主は一定期間市場への出店停止になったとします。そうなった時、食い扶持を稼ぐためにも市場には参加したい。そのために他人の名前を借りて登録することで、定期市に参加して稼ぐことができるのです。たいていの場合、友人知人同士で一時的に融通する程度の小悪となります」
「確かに秩序を乱すことではあるが、大した悪事とは言えないな」
「しかし、これが貴族の庶子であったらどうでしょう?」
「続けろ」
俺の言葉に、王弟は自分でも考えながら促した。
「名前だけがあり、実際の中身が誰であってもわからない状況。この場合、中身がなくても名前があればいい。イェーデシュタン侯爵の言葉から、そう取れました。ですので、名義貸しを疑っています。ただこの場合、侯爵ともあろう方が何故他人の名前を使うのか。しかも自身に連なる者を。そう考えると、利益の供与関係にあっても疑われず、必要となれば借りた名を捨てることで、利益が自身に返る位置関係を求めているのではないかと考えます」
最終的には見捨てる前提のことを、血の繋がった実の子でやろうなんて鬼畜だ。
ただ、そうしたまさかとか、やるわけないなんていう感情を無視すれば、なしじゃない。
それこそ税金逃れだとか、調べられても痛くない場所となれば、庶子というのは使える。
養育費や教育費の名目で、ある程度まとまった金を送っても言い訳の立つ相手なんだ。
そこに実体がなければ、丸まま隠し財産にできるだろう。
庶子が未婚で死んだとなれば、その財産も自分が安全に取り戻せる。
もしあの園遊会での言葉が、それを見越して惜しさのあまり出た本音だったら?
「今回は庶子という明確な繋がりがありますが、これが全くの他人でも活用はできます」
たとえば仕事を発注したとか言って、実体のない仕事をから打ちする。
それで金を払った風に見せかけて、実は自分の手元にっていうゴーストカンパニーだ。
そんな説明をしていたら、いつの間にか王弟は笑っていた。
俺は一度説明を切り上げて、言葉を待つ。
「当たりだ、アーレント」
言って、王弟は控えていた文官に手を振る。
すると俺に何やら資料が回された。
中味は何かの契約と、それに関する費用。
そしてその仕事を振ったとされる契約者は、さすがにイェーデシュタン侯爵じゃない。
「その契約者はイェーデシュタン侯爵の妻の親類。しかし契約以後の動きを見ても、そこに書かれたような造園工事をした形跡はない。また、造営業とされている側にも、そうした仕事の実績はなかった」
本当に、イェーデシュタン侯爵はゴーストカンパニー作ってたのか。
その上で、姻戚関係者で実際に名前がある人物を利用した。
造営となればそれなりのまとまった金が動く。
以前見せられた細々としすぎた金額の動きは、あくまで一端だったんだろう。
注目すべきことは、実際に金は動いてないこと。
つまり造営を発注したはずの大金が、イェーデシュタン侯爵の手元残っている。
だが問題は、そんな表向き金が動いたように見せかける必要が何処にあったか。
「…………不正に入手した金銭の出所を誤魔化すため?」
「そうだ」
俺の呟きに、王弟がさらに手を振ると他にも契約書の類を見せられる。
名目は色々で、業者も複数。
契約者もそれぞれ違うが、その手広くやっているように見える様子は、やはり以前見せられた頻度の多すぎる金の動きが書かれた書類と似た雰囲気があった。
「契約者はともかく、業者のほうは確実にイェーデシュタン侯爵に繋がっていた。実体のない仕事を契約し、金を払ったように見せかけて、そもそも存在しない仕事と金を誤魔化している。その出所は、たぶんこれだ」
そう言って、王弟自身が書類を出す。
受け取って見れば、東の隣国ダーリエフェルトの名前。
そしてそこには公式なサインがあり、相手は、ダーリエフェルトの大臣だった。
内容は公共工事で、随分と大きな金額が動いている。
けれど先に文官から渡された内容と見比べれば、実体のない業者として契約してある者たちの名前が並んでいた。
「すでに調べを入れて、業務実態がないことは確認した。そしてこの他国から回された仕事に関しても実態がなかった」
契約の大本がこれで、実際はさらに下請けの下請け程度で受けている。
ダーリエフェルトからの公共事業は、こまごまと仲介して小銭がイェーデシュタン侯爵に入ってる様子はあった。
だがこれは、格段に金額が大きい。
だというのに実態はない。
そうなると、使われたはずの金はどこへ消えたのかという話になる。
「これで、ダーリエフェルト側から抗議などは?」
「そんな記録はない。そもそも、この公共事業自体、すでに長すぎる工期とかさむ費用を理由に頓挫している」
けど払われた金は実際あるわけで、それなのに仕事の成果も実績もない。
じゃあ、金は何処へ行ったかとなれば、最初から他国の絡む汚職を疑っていたんだ。
「隣国の大臣と組んで、イェーデシュタン侯爵は汚職による蓄財を行っている」
王弟が断定した。
なるほど、こんなことがわかれば園遊会も中座するか。
つまり調べた先で実態のない契約の証拠が出た。
そこからさらに業務を調べたら、ダーリエフェルトと絡む証拠も確保。
公共事業なのに頓挫したもので、金の行方もわからなくなっていることも判明したと。
それを他国の大臣が主導している様子。
もちろん融通したことでダーリエフェルトの大臣も中抜きしたり、ロンダリングした金を還元されてるはずだ。
細々した金の流れだけど、まとめれば一定量になる金銭は確かにイェーデシュタン侯爵とダーリエフェルトの間にあったんだから。
「あちらの情勢は悪く、ダーリエフェルトの国王も大臣たちの跳梁を許しながら、罪に対しては罰を下そうと足掻いている。我が国に金を移せれば、うるさく国王に非難されることもなかろう」
この国の王族なのに他人ごとだ。
いや、よく見たらけっこうご立腹らしい。
口元笑ってるけど眉間の皺が深い。
「アーレントの言うやり口なら、無駄に関係者を捕まえる必要もない。名前が出ている者を当たるだけ、時間の無駄でさえある。今回の調査で固めた証拠をもって、イェーデシュタン侯爵自身を捕らえる」
どうやら俺は、イェーデシュタン侯爵のやり口の確認で呼ばれたらしい。
すでにだいたいの検討はつけた後だったようだ。
しかもこうして捕まえるって明言するってことは、準備もすでにできてるんだろうな。
だから今日も人の出入りが激しいわけだ。
なんて他人ごとで思ってたら王弟が俺を見据える。
「アーレント、御前会議に参加せよ」
断ることもできない命令口調。
俺は何故か、国王陛下臨席の会議へ駆り出されることになったのだった。
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