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110話:参戦5

 ラッパで無闇に動くことを禁止する陣形維持を指示した。

 途端に文句のための使いが走って来る。

 つけてる家紋からリベルトのところだが、反応が早すぎやしないか?


「流れに乗って前進あるのみと、具申いたします」

「却下する」

「優勢を逸しては勢いを失い全体の士気にも関わると憂慮する次第です」

「我々は圧迫のための部隊だ。優勢は関係ない」

「他より先に手柄を上げる気概はございませんのか!?」

「正面から砦を落とす以上の手柄があると思うのか?」


 つい面倒で雑に返すんだが、中々食い下がってくる。

 ちなみに、リベルトのところの伝令を相手にしてる間に、やる気のリービヒクローンとバイザイトのところからも文句の伝令がやってきてた。


 回りが攻勢に出てる中、行かない理由がないと思ってるようだ。

 けどうちの若手騎士メイベルトが言ったとおり、現在押してるように見えて次々に死傷者が増えてるだけ。

 それより今は、次の動きのために備えなければいけない。

 人間いきなり命令代えられても動けない。

 だから次の動きをさせるために一度止まれと言ってるんだ。


「逸るな」


 俺の命令に伝令たちは不満ありありのまま、それぞれの持ち場に戻って行った。


「実戦を知らない学生が指揮官なんて無理だったんだ」

「それでもこんなに弱腰だなんて、期待外れにもほどがある」


 なんか文句聞こえるけど、無視だ無視。

 というか、イェーデシュタン侯爵を追う時に用意された隊は、本当に教育の行き届いたいい兵たちだったんだな。

 あれと比べるには、連れてる騎士にだって経験や実績のばらつきがあるし、これをまとめろとか本当、学生に指揮官は無理と言われてもしょうがない。


 だが、俺はやるしかないし、やるしかないなら、やり遂げるだけだ。


「送り、後退」


 陣形が整ったのを確認して、俺は新たな命令を発した。

 うちの騎士たちは何も言わず従ってくれる。

 俺の成長見てきた相手だし、何したいかは想像がつくんだろう。


 けど出会って日の浅い部下は違う。

 動きに反発が現れてたり、察しがいい騎士団があるとさっさと動いて逆に陣形乱れたり、ままならないもんだ。

 しかも上が俺の意図を疑ってるから、さらに下にも影響して動きが悪い。

 これは命令に対しての姿勢を一度見直したほうが良さそうだ。

 最初の内にこうして若手は実戦を経験していくために、圧迫っていう役に回されたのかもしれない。


「ローレンさま、突出した隊が崩れました」


 ゾンケンに言われてみれば、最初に突出して攻勢に出た隊が、死傷者多数で崩れてしまってる。

 引っ張られて前に出た隊も、攻撃の勢いを失ってしまい、その場で足踏みするしかない。

 そうなれば、もはや砦の上からの殲滅あるのみ。

 高さの優位があるし、守るにしても勢いが違って押されるばかり。

 前に出た隊はもう、自力での脱出は無理だ。


 俺は安全圏まで退いてから、また陣形を整えると命令を出した。


「これより仲間の救出へ向かう! 攻撃ではなく防御を固くし前進せよ!」


 今度はこっちから伝令を発して、しっかり俺の意図を伝えるようにする。

 防御に優れた陣形だけど、前進できる盾を構えた形で、仲間に向かって進むよう命じた。

 攻撃態勢なのに攻撃もできず、後退するには足並みが揃わない仲間の隊は、俺たちが防御を固めて近づくと、途端に助けを求めて後退を始める。


 まともに命令系統が機能してなくても、本能的な恐怖や自己防衛は誰でも持ってるんだ。

 全員が今だと思える状況があれば、集団心理で同じ行動を起こしてくれた。

 そうして一斉に動いてくれれば、乱れていた足並みもそろうというものだ。


「ローレンさま! 脇門から追撃が出ました!」


 メイベルトに言われてみれば、脇門というには小さい通用口のような所から、敵兵が現れているのが見える。

 どうやら俺たちが救援に向かう前に、突出した隊を殲滅しようと動き出していたらしい。


「仲間の後退が優先だ! 追い駆けてくるならそのまま引き付けて砦から引きはがせ!」


 慌ただしく動きつつ、味方の動きをフォローしながら敵への警戒も怠れない。

 そんな状況で後退すると、敵も逸ったようで上手く追い駆けてきてくれた。

 そうなれば後は孤立した敵を、健在の仲間で囲めばいい。


「逃がすな! 囲め!」


 俺が馬の上で命じると、俺の下についてないはずの避難した兵も、周りに流されて敵を囲み始める。

 これは後で責任問題? いや、さっきこの隊の隊長、たぶん流れ矢に当たって馬から落ちてたな。

 指揮系統なくなってる兵なら、一時的に取り込んでもいいんだったか?


 俺は戦闘後のことを考えつつ、敵を殲滅。

 まず自分の隊の状況確認をする。

 指揮官っていう責任者だから、指示に従った別の隊の人員についても上に報告するため人数確認や被害状況の報告なんかに手間取った。


「ふぅ…………。まずは初戦通過、だな」


 俺は上への報告を終えて、暗くなり始めた空を見上げる。

 砦は正面から門扉を破壊して、後は順に制圧することで落ちた。

 ここでの戦いは、砦の指揮官を倒して終わりだ。


 脇で俺たちがごたごた戦ってることなんて大したことじゃない。

 ないんだが、けっこう上役には評価された。

 どうも、小隊の若手の中に親戚がいたそうで、俺がフォローに入ったことで無事離脱。

 また、敵を引きはがして囲んだことで、親戚の隊も敵を倒したっていう功を上げた。

 それを俺が素直に話したのも高評価だったらしい。


「まだ通過なんだが、いいのか、こんなんで?」


 俺のぼやきにゾンケンは疲れた様子もなく笑う。


「若手が最初から惨敗では今後の士気にも関わりますからな」


 つまり、上役の親戚がこの負けで、今後の本隊との合流で士気が下がってさらなる失態なんて事態は回避できたってことだろう。

 そんなつもりじゃないだが、なんだか上役に恩を売った形になってる。


 俺が自分の小隊に戻ると、すぐにモーラーとリービヒクローンが寄って来た。


「素晴らしい采配でした。さすが勇者のご友人となられるお方だ」

「機を見るその明晰さ、わたくし感服いたしました」


 うーん、これは本音と思ってもいいのか?

 けどそれ以前に散々阿られたせいでいまいち素直に賞賛を受け取れない。


 それよりも睨んでいながら何も言わないリベルトのほうが、本気で今回の俺の動きを評価してる気がする。

 そんなことを思ってたら、不必要に話しかけなかったバイザイトが笑顔を向けてきた。


「被害を最小限に恩を売る。これに関しては見事な手腕と言うほかありません」

「いや、仲間を助けるのは同じ軍に所属する上では当たり前のことだ」


 なんか裏があるみたいに言われたから、俺は流して、寄ってこないバイザイトも含めて見渡した。


「今日の戦いはよく命令に対応してくれた。防御陣形から味方の救出までの迅速さは、目を瞠るものがあった」


 俺は指揮官として従った部下に働きへの評価を伝える。

 けど、喜ぶかと思ったのに、何やら反応が薄い。

 モーラーやリービヒクローン辺りは、俺の指揮のお蔭とかおべっか使ってくると思ったんだが…………。


「えー…………、だがこれはまだ戦いの入り口だ。勝利に驕ることなく、今後の戦いも国への献身を怠るな。これは反乱の愚を犯した者を除き、故国に平和をもたらすためのものだということを刻んでおけ」


 俺は用意しておいた訓戒を半端に伝えた。

 堅苦しい言葉だが、言いたいのは一勝しただけで慢心しないこと。

 俺に文句あるからって、これは軍事行動で国の命令なんだから、作戦中に文句言う伝令走らせるなと言うのを遠回しに。

 小王倒すのが先決だって話だ。


「ともかく、今日はよくやった。各自明日のために休むように」


 俺は切り上げて、明日の準備に向かう。

 何せここは領境だ。

 今日は砦を落として大急ぎで壊した門扉の再建。

 そして新たな兵を籠めて、俺たちはさらに小王の領に進軍する。


 他の部隊も砦を攻略していて、その中には王弟もいるんだ。

 他にも王族が参加する鎮圧戦で、相手が小王という由来が王室に発してる相手だからこその重要性がある。


「遅刻は駄目だよなぁ」


 俺のぼやきを聞いたメイベルトが笑って軽口で応じる。


「そうですね、やる気十分なんで、この部隊の大将は王弟より先に合流地点目指すでしょう」

「だよな。で、こうして戦って休憩もなしで進軍と」


 もちろんこの先は小王領で、安全に休憩できる場所なんてない。

 だからここからはずっと走りっぱなしのような形だろう。

 正直、今から考えても精神的に辛いことになる気しかしない。


「…………やるしかないか」


 自分で言ったとおり、まだ初戦を通過しただけ。

 ここで負けることは最初からない、なんて前提の戦いが終わったって話でしかない。

 なのに、俺はどう勝てるかって部分を考える余裕もなかった。

 ただ本隊に任せて、フォローを入れただけで、これは功績とは言えない。

 本当の参戦はこれからだ。

 遅刻も駄目だが、先に着いてなんの展望もなしもあの王弟は許してくれない。

 前線に立つと言ったからには、働きを見せる必要があった。


来月更新頻度変更

次回:懐疑1

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