第6幕:盗賊天国
「――お待たせ、皆。お迎えに来たよ」
「「え」」
「……どういう事なのです?」
彼等は、皆ちゃんと無事で。
牢屋の中に入れられていた。
そこは座敷牢みたいで。
特に、コレといって何かされたという訳でもなさそうだ。
「どういう事って言ってもね。皆を迎えに来たんだけどな」
「……いや、分かりませんが」
「こちら、盗賊団【傍若武人】の団長レイド君」
「よろしくな」
「……もう、何でも良いのでは?」
「というより、何でもアリですね」
「色々あって、名誉団員という事で落ち着いてね。今回は見逃してくれるんだって」
「「……はぁ。……はぁ?」」
首を捻り。
状況が理解できないと。
息をつく彼等七…六人。
尋問を経て、何故か彼等のギルドへと勧誘された私。
名目上で加入は出来ないけど。
お友達になるだけなら簡単で。
皆とフレンドになったんだ。
それだけで十分なやり取りは出来るし、私は友達が沢山増えるし。
まさにウィンウィン。
「詳しく話したいんだけど、一応急ぎだし。また後でね」
納得はしてないだろうけど。
今は皆を出してあげなきゃ。
……でも、悪い場所じゃないよね。
ちゃんと、布団もあって。
セーフルームらしい部屋。
七人入っても大丈夫! ……な程度には広いし、私の下宿先より家具あるし。
あれ……? 私の下宿先、酷すぎ?
やっぱり、その内改装しようかな。
「でも、座敷牢。此処も凄く良いコンセプトデザインだね?」
「ムフッ。某の仕事ですぞ」
「やるね、サムライ君」
「お前も入るか?」
「良いの? じゃあ、また今度。今日はクエスト中だから、早く帰らないとね」
「「……………」」
「さぁ。歩きだけど、目的地へ行こうか?」
「「もう、なんでも良いです」」
おや、頼もしい。
……………。
……………。
色々と支度をして拠点を後に。
森の中へと降り立つと、夜で。
「そう言えば、時間とかは大丈夫? 依頼の目的地へはまだあるって聞いてるけど」
今更ながらに心配なんだ。
特に制限は無かったけど。
パーティーだからね。
12時までに着かないと魔法が解けちゃうとかあるかもしれない。
「はい、特に問題はありません。元々、余裕をもって数日前に着くようになっていましたので」
「あぁ、そういう物なんだ」
確かに、そうだよね。
「――じゃあ、もうちょっとゆっくり行ける……ね?」
「あぁ、らしいな」
「「……………ッ」」
「これは、一体……?」
ゆったりと森の中を歩くけど。
異変はすぐに訪れる事になり。
私達が現れるのを。
待っていたように。
次々と姿を現す影。
それは、レイド君たちと似て非なる、本物よりの盗賊さん達で……どうだろう?
ギルメンさんだったり?
「もしかして、レイド君のお友達かい?」
「いや、記憶にねェな。俺としちゃ、心当たりは星の数だ」
「「然り、然り」」
「……本当にこれらを信用して大丈夫なのです? 御嬢様」
タダでさえ友好的に見えない盗賊たち。
此処にレイド君達が加わると、困るね。
でも、多分大丈夫だよ。
レイド君たちだから。
同舟なんて恐らく出来ないだろうし、ギルドの方針的にも問題じゃないし。
何よりも、回りくどい。
その気なら、とっくに私達キルされちゃってるから。
……で、誰なんだろ。
本当に沢山いるけど。
「ざっと……五十以上? 百は居て欲しくないね。さっきの盗賊団…かなぁ」
「それが妥当かねェ」
「ですが、コレは余りに」
「数が多くありません?」
「――多分、私たちは本来あの時全滅していた予定で……クエストの進行が変わったか、なりふり構わず失敗にしたいのかも」
思えば、おかしかったんだ。
このクエストの達成条件は。
【生存している事】
そして、一度に一人しか受けられず。
パーティーに所属していても、強制解除で始まるクエスト。
待遇も、貰った装備の質も良くて。
見事、達成のあかつきには。
更に豪華な報酬があるって?
「――やっぱり、美味しすぎる…よね。こんなの、PL側に達成させる気が全くないじゃないか」
「上手い話には裏があるってか。もしかして、ルミエは疫病神だったりするか?」
或いはそうなのかもね。
無職だし、穀潰しだし。
「でも、レイド君たちには悪い事じゃないだろう?」
「……はははッ、無論!」
「「大好きでーす!!」」
なんせ、彼等の方針は。
彼等【傍若武人】のギルド方針は戦闘至上。
思う存分に戦えさえすれば。
他には何もいらないという戦闘大好きクラブの集まりなんだからね。
戦闘の興奮を感じたか。
いきり立っている彼等。
総数までは聞いていないけど。
今の【傍若武人】は15名構成。
明らかに数で劣っていて。
まともに戦える護衛さん達と合わせても。
その数は19なのに……全く緊張すら覚えていない様子のレイド君たちは、やっぱり壊れてるんだ。
「――ねぇねェ、護衛さん達」
「何だ、下郎」
「凄く不快ネ」
「我らに近づくな」
「話しかけないでくれます?」
「……メッチャ嫌われてるし。NPC好感度また下がるなぁ。――まぁ、良いや。アンタ等には申し訳ない事したと思ってるし、此処は名誉挽回のチャンスをあげんよ」
「「……………?」」
「勝負しようぜ!」
「某たちと、どっちが多く狩れるか――勝負ですぞ」
レイド君の次に……いや。
彼よりキャラが濃い二人。
副団長のチャラオさんと。
サムライ……タカモリ君。
二人はどうしても護衛さん達四人と戦ってみたかったらしくて、それが出来ないから、せめてこういう勝負にしたんだろう。
「我らは、その様な勝負になど乗らん」
でも、護衛さん達は。
真面目な仕事人だし。
「一緒にはしないで貰いたいね」
「我らの職務は、護る事のみ」
「切羽詰まってるならいざ知らず、敵を狩るために前へ出るなんて、言語道断ネ」
普通に却下されていて。
「――んじゃ、しょうがないにゃあ」
「大活躍は某達のみで」
「……いやァ、残念だなぁ。ルミちゃんが「キャー素敵! 抱いて!」とか言ってくれるかもしれないのに」
「「…………!!」」
「おい、リドル。妙な事を考えるな。エルボたちもだ」
「「……………」」
「……本当に、騎士共は」
「抱いて? 抱き締めるんです~?」
諦め悪く釣り上げようとしているけど。
やっぱり、彼等の意志は固いみたいだ。
それはもう、硬派な仏頂面で。
護衛さん達は、ただ私達非戦闘組を守るためだけに剣を構えてくれる。
何故か小刻みに震えてるけど。
やっぱり敵が多いし。
緊張、してるのかな。
「――これは、諦め時ですな。チャラオ、勝負であります」
「あぁ、現在33勝31敗だ」
「逆では?」
「いんや。俺が上だったはず……だぁぁぁい!!」
「――また、汚い真似を。――yapaaaaaaa!」
そして、彼等は。
一人、また一人。
奇声と共に飛び出していって。
獰猛な笑みを浮かべながら、短剣…大剣…長剣…いずれも近接武器のみで敵を狩り始める。
「――ウチには前衛しか居ないって言ったよな?」
「そう言ってたね」
でも、レイド君は行かないみたいで。
私の隣に立ちながら話しかけてくる。
侍従さん達が睨んでるけど。
全く堪えてないみたいだね。
―――彼等のギルドだけど。
戦闘至上主義かつ、近接専門。
そして、何より【盗人】派生。
盗賊派生、山賊派生、海賊派生。
他にも系統外の派生とか。
色々な進化系統があるけど、彼等はそれを網羅するように数多くの職業を取得しているらしい。
団員一人一人を指しながら。
レイド君は解説してくれる。
「――んで、タカモリは何だと思う?」
「うーん……サムライっぽいけどね」
「アレで【任侠】だ。3rdだな」
「おぉー。三段階なんだ」
「1stには雲の上だよな。……で、副団長のチャラオは同じく盗賊派生の3rd【忍者】だな。隠匿能力ならピカイチだ」
やっぱり、彼等のギルドは凄いんだ。
流石にTPを狩っているだけあるよね。
「――それで、レイド君はやっぱり」
「ん?」
「……うん。色々話したいし、また後にしようか」
今は、白熱した戦いが見たいからね。
敵の盗賊が私たちに迫り。
味方の盗賊がそれを防ぎ。
飛び出すは、何と盗賊……。
狙いはまさかの盗賊らしく。
盗賊が首を狩ると、それを隙と見た盗賊が矢を射かけ…しかし、盗賊は華麗に回避……逆に短刀を投げると、それが盗賊に刺さり……うん。
「盗賊天国って所で――」
「地獄の間違いでは?」
「確かにそうかも。でも、やっぱりみんな戦闘狂なんだよねぇ、本当に」
「「……えぇ……?」」
「ほーら、盗賊だよ?」
「いや、ありゃ山賊だ」
「じゃあ、あっちは?」
「あぁ、アレが盗賊だ」
「――あの……頭がおかしくなりそうです、お嬢様」
―――みーとぅ。




