第5幕:囚われ?の道化師
「森の中に――ギルドホーム。しかも凄く広いね」
「「……………」」
「良いだろ? 俺達が見つけた時に権利が譲渡されたんだよ」
一際大きな木のうろへと。
おもむろに手を突っ込み。
リーダー君が何かをしたのか、樹の中から出現した階段。
それを登っていくと、なんとも不思議空間な部屋たちが私達を迎えてくれたわけで。
うん、良い所じゃないか。
出来れば満喫したいけど。
スグ椅子に座らされる私。
……他の皆は?
別室送りというか、連れて行かれそうだ。
「貴様ら。その人に手を出せば」
「我々は死んでも――」
「威嚇しちゃダメだよ?」
「……お嬢様」
「本当に、大丈夫ネ?」
「私は何度でもやり直せる。だから、抵抗は自分たちが危ない時だけすれば良いんだよ」
心配そうな視線。
こんな状況にあって、こちらを気にしてくれているんだ。
「はいはい、あんたらはこっちだ。早く来な」
「「……………」」
「じゃあ、また後でね。許しが出たら面会に行くから」
「はい、また後で~」
「……中々胆力あるな、ご婦人」
その前にキルされるか。
それとも、別室送りか。
どうせ入れるなら。
節約のために、皆同じ檻が良いんじゃないかな。
どっちにも利の出る良い関係で。
床暖房があるなら、なおよしだ。
話しつつも、ズルズルと。
怯える侍従さん、噛み付かんばかりの護衛さん四人と御者さん、イマイチ状況を理解しているか怪しい薬師さんは奥へと連れて行かれた。
「――お前、随分信頼されてんのな」
「光栄な事にね」
「身代わりなんすよね?」
「そうだよ。でも、彼等は役者さんだから、本気で守ろうとしてくれてるんだ。――そっちも危なかったよね?」
「「――はははッ!」」
「まぁ、確かになぁ」
「命掛けられちゃ、かなり厄介だったでしょうな――ふふ」
護衛さん達、本当に強いからね。
確かに全滅はするだろうけど。
あの四人だけでも、彼等TPクラスのギルド【傍若武人】を半壊させるだけの実力があったろう。
……というのが私の見立てで。
それは彼等も認める所らしい。
「でも、そういうのが楽しいんだ?」
「そりゃ、そうでしょ」
「某たちは、そういう集いなので」
「…んで、そろそろ良いか?」
「勿論良いとも。縛るの?」
「まぁ、雰囲気的にな。出来るだけ規約に抵触しないように……っと。これならセーフだろ」
簡単な会話を挟みつつも。
そのまま椅子に縛られて。
尋問の模範解答みたいな構図が出来上がる。
何とも見事なグルグル巻き。
しかも、只の荒縄じゃない。
「――ふむ。良い縄だね、これ」
「ほう…分かりますか」
「実は、魔法を使って編まれた特別製らしくてな。生半可な刃物や魔法攻撃は、絶対に通らないように出来てるらしいぜ」
それは良い。
私も一本貰えないかな。
狩りとか役立ちそうだ。
「……良いよなぁ、コレ」
「「……いい」」
「おい、馬鹿共。バカやってねえで良い質問捻りだせや」
「じゃあ、私がクエストを受けた経緯からね?」
「「素直かよ」」
◇
……………。
……………。
いくらか時間が経ち。
尋問はひと段落した。
「……つまり? ルミエールさんは本当に観光に来ただけで」
「馬車に乗れるからってだけで危ない船に乗ったと?」
「そういう事になるね」
あぁ、非常に苦しくて。
残酷な取り調べだった。
だって…目の届く所に果物籠。
あるのに食べれないなんてね。
しかも、入っているのは私の好きな物ばかりじゃないか。
バナナのような【ウイユ】
ブドウのような【ブードゥ】
ザクロそのままな【グラナト】
オレンジみたいな【レンジュ】……。
「ん…ん……ん。こりゃ、情報無しだな」
「予定通り、ルミエールさんを送り届けるだけで良いんでは?」
――頂上に乗った、ピート。
なんて素晴らしい山だろう。
盗賊というから身構えたけど。
これで、彼らのアジトはかなり文化的だね。
木をくり抜いたような秘密の隠れ家。
温かみのある木製の家具。
きっと、毎日のように退廃的な宴が催されて……私も、あの果物の上でお山の大将をやりたくなる。
「……でさ、さっきから何見てんだ?」
「んう? ――あぁ、その果物だよ。私の好みでね」
相談が一段落したかな?
此方へ掛かる呼び声に。
印象が良くなるように、正直に答える。
「………ピート、な。随分余裕みたいだが、別に食っても良いぜ?」
「良いのかい?」
「「……ぷッ」」
「食えるなら、だけどね!」
―――なんて優しい子達だろう。
じゃあ、遠慮なく一つ頂こう。
得意な【縛鎖透過】を使って。
自然に椅子から立ち上がると。
そのまま果物籠に手を伸ばし。
私はお山の大将のようにてっぺんに在った黒果実を咀嚼する。
……消費魔力は10だから。
通常の二倍って事になる。
本来は5で通り抜けられるスキルだから、やっぱり特別な縄なんだね……美味しい、惜しい。
「……………え?」
「「―――へ?」」
「んんー、惜しいね。美味しいんだけど、ちょっと違う。仕入れ所が違うみたいだね」
あれだけ売りさばいているけど。
流石に、別都市までは。
私の御得意先、【黒鉄商店】の青果は置いていないみたいだ。
「「おい! オイオイオィ!!」」
「んう?」
「何立ってんだよ!」
立っちゃダメだったんだ。
……そういえば、尋問中。
じゃあ、改めて座りなおして。
縄は――あぁ、案外上手く通り抜け直せるものなんだね。
「コレで元通り。ホラ、良い子だよ? 続きをやるなら私はいい子にしてるよ?」
「「………………」」
「――立った」
「「はぁ!?」」
「座った」
「「……ふぅ」」
「立った」
「「ウェイ!?」」
「座った」
「「……ふぅ」」
何だか面白くなってきちゃったね。
彼等はとてもノリが良いみたいだ。
立って座ってを繰り返し。
彼等が「ぜぇぜぇ」と荒く息を吐き始める頃、私は大人しく座りなおす。
「……おい、ルミエール。お前、まさか【ユニーク】か?」
「違うよ」
「あぁ、そうだろう……は? 違うの?」
「うん、違うよ。私は【無職】だからね」
……………。
……………。
沈黙、長いなぁ。
「――逃げようとは思わないのか?」
「逃げて欲しいのかい?」
「……………」
「「……………」」
「――じゃあ、遠慮なく行くよ?」
沈黙は……肯定?
でも、その表情は微妙な感じで。
いまいち真意を測りかねるので。
もう縄は存在しない自由な手指を弄り。
大量の煙玉を召喚し、ばらまく。
本当に、この世界は便利なんだ。
無論…当然の如く。
瞬間的に広がった煙で不意を衝かれた彼らは混乱に陥った。
「――なんだッ!? 火属性魔法?」
「違う、煙玉だ!」
「どんだけ持ってんだよ! しかも、AC!?」
まさに阿鼻叫喚。
ACとは、このゲームのプレイ技術らしく。
Advanced Clickが正式名称。
通常、アイテムを取り出すのは幾つかの工程を要するけど。指の動きを極限まで滑らかにし、大幅に短縮させる。
名前を知ったのはやるようになってからだけど。
プレイヤーが一から覚えるのは中々難しいようで。
私には一日の長があったというだけ。
「くそっ! 見えねェ!」
「ルミちゃんが逃げん――あだっ! 誰か足踏んだろ!」
「どさくさに愛称で呼んでんじゃねえ! とにかく出口固めろ! 【暗殺者】組は外、【山賊】共と【忍者】はスキルで索敵だ!」
「……大将。煙で画面見えねえから使えねえわ」
「「みーとぅー」」
「……そういやそうだわ」
「某たち戦闘特化組は何も――間取りとか――いでェ!?」
で、彼等だけど。
凄く楽しそうだ。
あっちへゴツン。
こっちへコツン。
愉快に、楽しそうに踊りまわる彼等の音を頼りに、座ったまま想像を膨らませる。
スキルには二種類の組み分けがあって。
【パッシブ系】と。
【アクティブ系】だ。
前者は常に効果が発動している便利なものだけど、決定打にはなりにくく。後者は使用時に操作が必要だけど、強力なものが多い。
そして、【アクティブ系】にも。
声によって発動するモノ。
画面操作で発動するモノの二種があって。
【縛鎖透過】や【小鳩召喚】は全部声を介して発動できるけど、彼等の使いたいスキルは画面操作が必要みたいだね。
この煙じゃあ難しいけど。
なに、もうすぐ晴れるよ。
「……煙玉……案外厄介なんだな。――おい、行くぞお前等」
「「おう!!」」
「見つかりそう?」
「あぁ、問題ねェ。盗賊系スキルがありゃあ、見えりゃこっちのもんだ。すぐに何処へ逃げたか見つけて……ん?」
「なら、良かった。頑張ってね」
「「……………」」
にらめっこは好きだよ。
私は負けなしだからね。
「……なんでいんの?」
「逃げる必要がないし、私のレベルじゃすぐに捕まっちゃうからね。手間が省けて良かっただろう?」
「「あ、はい」」
がくがく頷く皆からは。
完全に毒気が抜けてて。
仲良くなれそうだね。
そうなれば、もしかしたら侍従さん達を開放してくれるかもしれないし。
「……なぁ、ルミエール。あんた、ソロか?」
「そうだよ。友達のギルドはあるけど、入ってはいないんだ」
「「――じゃあ!」」
「うちのギルドに!」
「是非とも入りませんか?」
「ちと敵に回したくないナニカを感じるし、その方が色々と楽しそうだ」
仲良くなれるかもと思ったけど。
まさか、勧誘をされるなんてね。
彼等は、皆無邪気な瞳で。
こちらを伺ってきていて。
PKも、ロールプレイも……純粋にゲームを楽しんでいる故というのが分かる。
「――うん、ゴメンね」
でも、申し訳ないね。
解放のチャンスでも。
約束は違えられない。
既に先約があるし、断るしかないんだよね。




