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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第17幕:集計とギャンブル



 これが、死亡するという事なんだ。


 凄く違和感を覚えるものだね。

 

 強制的なログアウトはなく。

 カウントと浮遊感が現れて。

 どれだけ時間が経過したのかは分からないけど、数分と経ってはいないだろう。


 感覚が戻り、気が付いたら。


 私は下宿先のベッドに横になっていて。


 暫くは安全圏……都市から出られないのかな。

 ステータス画面のメニューに表示されたのはクエストの進捗度合い。


 【敵将撃破:0/1】


 【敵軍損害:53%】


 【自軍損害:78%】


 ……こんなの、あったんだ。

 戦いに夢中で見てなかったのか、脱落したから見れるのか。


 自軍の損害値が78。

 あと少しで8割…敗北条件だ。

 そして、敵の損害値が53。

 普通に考えて、魔物の相手で疲弊しきっていた状態で黒騎士達を相手取れる筈がないし、このうちの50%は魔物分。

 

 なんて、酷いんだろう。


 3%しか削れないなんて。



 ベッドに腰かけにらめっこし。

 情報を閲覧していると。


 突然に、その時は来た。



――――――――――――――――――――

Mission complete【フォーディーナ】


 人界勢力は魔族勢力に敗北しました。


【ペナルティ】

 短期的に【大迷宮】が封鎖されます。

 


【獲得pt】

 討伐ボーナス(10pt)

 戦線ボーナス(5000pt)

 ギルドボーナス(0gp)


合計pt(5010pt)



【Quest報酬】

・武器・防具一覧へ

・アイテム一覧へ

・実績のアンロック一覧へ

――――――――――――――――――――



 

 ゲームオーバーでも無し、残念賞でもなし。

 ミッションコンプリートと来たか。


 やはり、これは管理者側の意図した通りの結果なんだろうね。

 【クロニクル】は正史となる事実をプレイヤーたちが協力して形作っていくもの。


 その雛型として。

 今回の敗戦は、決定事項だったと。


 全く性格が悪い。


 製作者の顔が見てみたいものだね。



「でも、報酬というのは心が躍るね。――武器やアイテムに……はて、実績?」



 アンロックとは、何だろうね。

 開錠というからには。

 有利な物であって欲しいんだけど。

 取り敢えず、上から順々に見て行こうと武器や防具を選択してみたけど。



 これ、計算合ってるのかな。



 私のポイントは5000もあるけど。

 見た事もないような補正値の武器や防具。


 それらが、何と。

 1000や2000でも交換できる。

 


「つまり、戦線ボーナスとやらが、凄く多い? ……暗黒騎士と戦ったから?」



 心当たりはそれだ。

 戦いにおいて重要な役割だったから、というなら納得がいく。


 まあ、それはそれとして。



「私が貰っても宝の持ち腐れだよね、これ。アイテムとかの方が良いかな。あと、実績の解放も興味深いし」


 

 様々な項目を流し読み。

 私が目を留めたのは。


 実績の項目だった。


 そこには、都市アンロックという項目があり――

 


 

 【重要都市欲張りセット(帝国編)】必要 5000pt


 【重要都市欲張りセット(王国編)】必要 6000pt

 

 【帝国領:学術都市 (重要都市)】 必要 1000pt


 【帝国領:要塞都市 (重要都市)】 必要 1000pt


 【王国領:専農都市 (重要都市)】 必要 1000pt


 【王国領:海洋―――――。 




 ……………コレだ。


 まだまだ、下があるけど。

 命名はさて置いて。

 コレ、私が凄く欲しい物じゃないかな。


 言うなれば、永久割引チケット。

 都市の移動制限が解除され。

 フォディーナと同じように、転移による移動が簡単に出来るようになるという事。


 確かに、アンロックで。


 

 良いね、凄く欲しい。



 武器や防具だって良いんだけど。


 恐らく、凄く強いのだろうけど。

 

 今より良いモノを揃えても。

 私では、とても使いこなせないだろうからね。

 


「――うん、決めた。ここは、欲張りに行こう」



 私が購入するのは、勿論。

 帝国編の欲張りセット。

 これで、観光範囲をもっと広げよう。



「ふんふーん、良い買い物だねぇ。――あ、そうだ。もしかして、アイテム一覧の方に…え?」 

 



 【神智の霊薬】 必要:100000pt




 やっぱり、ソレもあった。

 ……けど、10万だって?


 誰が買えるんだろう。


 以前、女将さんに聞いた。

 あらゆる病を癒せる薬。

 見たことのない品々が揃っているから、もしかしたらなんて思ったけど、これは見せつける以上の役割を持たぬ、言わばショーケースの非売品。


 運営の性格が悪い事を。


 まざまざと見せつけられただけだ。


 ptの持ち越しも出来ないようだし。


 次の…また次くらい。

 何時か、買えるようなプレイヤーが現れたら…ってことなのかな。

 

 私にどうこう出来る物でなし。

 この辺は、TPさん達にお任せする事にして。



 さあ、そろそろ。



 戦友諸君と合流しようかな。




   ◇




「――あ、きたきた! ルミねぇ、お疲れ様ー!」

「お疲れ様です」

「……おつです、ルミさん」


 

 ギルドホームには、彼らが待っていて。

 元気に手を振ってくれるけど。


 若干一名だけ。


 ショウタ君だけ元気がない。



 理由は……まぁ、分かるとも。

 仕方のない事なんだよ。

 一番盛り上がる所を逃してしまった上、仲間たちの奮闘を聞かされたのだろう。


 でも、彼は彼で。


 貴重な経験は出来たと言って良い。



「ほら、そろそろ戻れって」

「…だってよ。俺の役回り、完全にネタキャラじゃねえか」

「余裕ぶって上から落ちてきた敵ボスに踏み潰された…ね。面白いじゃん。私なんて、後ろ取ったと思ったらやられちゃったし」



 ワイワイ、ガヤガヤと。


 楽しそうに話す皆。 


 どうやら、感想戦は終わっていて。

 知らぬは私だけのようだね。



「結局、あの後はどうなったんだい?」


「……アハハ。それが」

「すぐに皆脱落したよ」

「完全に本気になったみたいで、動きが変わったんです。目で追うのも不可能といった感じで、一人一人……」



 そんなものかね。


 残念そうに肩を竦める三人。

 

 

「負けイベントにしては、善戦したほうだよ」

「まぁ、そうだな」

「前向きにいこっか」

「…そう言えば、ハクロちゃんは?」

「一緒にやられちゃいましたよ。というより、ルミさんがやられてから、真っ先に飛び込んでいって」


「鬼神って感じでしたね」


「間違いなく、俺たちよりかなり上のレベル…3rdクラスだったな。まあ、報酬めっちゃ良かったし、確かに善戦…どころか、大勝利だ!」

「「イエーイ!!」」

「……ははは、ィェーィ…ゥェーィ」



 やはり、報酬…高得点の要因は。


 私達が戦った敵将個体の騎士。


 ショウタ君の様子からも。

 それは、間違いないようで。



「私でも、報酬が凄いっていうのは理解できたよ。中には、買わせる気が無いものもあったみたいだけど」

「……オクスリ」

「酷かったよね」

「俺たちの総合値でも、全然届かんし」

「そもそも個人用の報酬なので、合わせられないですけどね。…ルミ姉さんは何を選んだんですか?」


「うん。重要都市欲張りセットの帝国編だね」

「「……? ―――ッ!?」」



 …………。



 …………。



 おや、何でだろうね。

 皆の表情が「しょうがないな」とでも言いたげに変わっていく。


 こんなお宝なのに。


 羨ましげな顔もしないなんて。


 余程の廃人さんなのか。

 それとも、欲がないのだろうか。



「……ルミねぇらしいというか」

「あんな事しておいて、凄い武器にも防具にも靡かないなんて、欲がないというか…。私だったら、真っ先にそっちだったのに」


「皆は、実績は眼中になかったんだ?」


「行った場所もありますけど」

「都市は、そのうち行けるだろうしな。……戦闘職なら」



 皆の実力なら、そうだね。


 でも、私はこれで良い。


 道楽PLとしては。

 楽して実を取れるというなら、大歓迎なのさ。


 美味しければ。

 果汁弾ければ。

 なお、素晴らしいけどね。



 ……なんて、考えていると。



 皆が改まったように姿勢を正し。

 何かを相談するかのように…。


 これは、もしかして。

 私が来る前に、打ち合わせ…というか、擦り合わせでもしていたのかな。



「――なぁ、ルミねぇ。本当にうちに入らないか?」

「私達としては」

「大歓迎なんですけど」



 それは、とても真剣な眼差し。


 ああ、私が弱い視線だ。


 確かに、断る理由なんてない。

 幼馴染であるユウトたちは勿論の事、ショウタくんもワタル君もとても良い子だし、実際に仲良くなっていると感じているから。


 皆で、一緒に冒険者する。

 

 苦楽を共に分かち合う。


 それは、素晴らしいゲームライフなのだろう。

 


 でも……うん。



「ゴメンね」



 ギルドに入るというのは、何か違う。


 私は、私のやり方で。


 この世界を見てみたいから。


 ちんまい幼馴染が。

 トワがそう言ってくれたように、自由にやってみたいから。


 幸いなことに。


 私達に、多くの言葉はいらない。

 その一言だけで皆が納得したかのように、「残念」と言いたげに苦笑して。


 しかし。


 リーダーの諦めが悪いのは。

 私自身の知るところ。

 彼は不敵な笑みを浮かべるなり、再び口を開く。



「……なら、久々の賭けといこう」

「「おぉ?」」



 ――ほほう、そう来たか。

 

 これは、昔と同じで。

 私と幼馴染たちとの間で譲れないものがあると、賭けが始まる。


 元々は、三人だけの。


 サクヤとトワとの間だったけど。

 いつの間にか、年少組ともするようになって。


 あぁ、久しぶりだね。



「全勝の私に仕掛けるなんて、どんな賭けだい?」

「……第一位だ」

「――ほほう?」

「俺達がギルドランク一位になったら、その時は仲間になってもらう」



 まるで、隠しキャラみたいだ。

 とても気分が良いね、それ。


 なんとなんとの大言壮語。


 若いね…と言いたいけど。


 私は、知っているとも。

 それが、決して身の丈に合わぬ空言でも。

 一時の感情に流されたうわ言でもないと。 


 だって、私の知る三人は。


 分野は違えど、三人とも。

 確かな「天才」であり。

 そんな彼らが此処まで信頼する仲間たちが、「普通」である筈がないから。


 確かに、私の持論では。


 普通なんて存在しない。


 でも、この十人十色の広い世界で。

 確かな足跡を残せる人間は極僅か。

 

 そして、それを出来る者達が。

 自信を持って出来ると言っているのだから、取るに足らぬと一蹴は出来ない。

 

 例え、私が皆との賭けに負けた事がなくても。


 こんな、取るに足らぬ弱小PLの為に。

 何故そこまでと言う事も出来るけど。


 皆が本気で勧誘しているのだから。


 自分を卑下する事は、絶対しない。



 それが贋作でも。


 廃棄物だろうと。


 皆が口を揃えて言うのなら。

 石ころは、最高の宝石に……価値あるものに変わるから。

 

 

 感じる、期待の視線に。



 答えを返さなければいけないだろう。



「――うん。その条件なら、私も納得できる」

「じゃあ!」

「乗ったよ。その賭け」


「「――やったぁ!!」」

「流石親分!」

「頼りになりやすぜ」

「ルミねぇ、それじゃあ早速私たちと――」



 やがて、上がる歓声。

 

 皆、凄く嬉しそうで。


 本当に、皆は凄いね。

 だって喜ぶって事は、それが出来るって信じてるわけなんだから。


 ナナミが、何かしら。

 言おうとしてるけど。


 私からも、助言を送ろうかな。



「でも、ゲーム三昧はダメだよ? 仮にも相手は教師なんだから」

「「……ははは」」



 それは、それだから。



 釘は刺しておかないと……ね?

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