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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第16幕:職業違いで締めくくり




「――ッツ……グ…ウゥッ。カバー頼むっ!」

「ハクロちゃんッ」

「ん!」



 集中力が削られる白兵戦の中。

 主軸となった彼等は。


 本当に凄く強かった。


 ハクロちゃんは、単騎でピカイチ。

 ユウトとワタル君は、連携の練度が段違いに高くて。


 針の穴を通すような戦いを。


 何とか、継続していて。



「――ぁ…これヤバッ」 



 けど、やはり針の糸は細くて。

 疲労も出始めている中。

 やや精彩を欠いた剣を繰り出したワタル君が、無理な体勢だったのか、足を滑らせる。


 当然、それは敵にとって。


 数を減らす絶好の機会だ。



「数的有利に油断したかッ! まずは、貴様――」

「は、ダメだな」

「ナイス、優斗」

「役者過ぎんだろ、航君よ」

「……あれ。ちょっとワザとらしかった? でも、それならやり易いよね?」



 ――ほぅ。じゃあ、アレは作戦。


 というより、即興の連携だね。


 彼等は本当に信頼し合っている。

 でなければ、あんなに危ない賭けになんて出れる筈もない。


 攻撃を防がれた騎士は。


 標的を眼前の青年へ移す。


 

「ならば、まずは貴様からよ」

「―――ッ――弾かれるまで計算だ……“一閃”」



 防御の構えを容易く崩され。

 しかし、そこ迄が作戦と。


 弾かれた長剣を。


 下から切り上げ。


 何らかの攻撃技(スキル)が乗っているのか、赤熱した一撃を走らせるユウト。



「……渾身だったんだがなぁ」

「不意打ち以外も、やりおるか。――はははッ! 面白いぞ人間種ッ!!」



 騎士の隙を見たユウトの斬撃が。


 再び、僅かなエフェクトを生む。


 でも、アレだけの一撃でも。

 剣の防御が間に合うんだ。

 やはり、暗黒騎士は、圧倒的な格上なんだね。


 ……攻撃が当たっているんだから。

 この時点で、埒外からの攻撃という事ではない。


 その仮説は崩れ去っている。

 

 ……なら、やっぱり。


 それしかないよね。



「……数十回打ち込んで、ようやく浅く一回」

「敵、メタル系じゃないよな?」

「……めたる?」

「残念、レベル90の敵将個体です。恐らく、体力設定は私たちより圧倒的に多いですね」



 一体、どれ程の時間が掛かるか。

 考えるだけでおかしくなるよね。


 そもそも、此方(こちら)側。


 人界側の防衛戦は。

 

 既に、壊滅間近で。

 私達がこうして生きているのは、外部からの乱入が完全に遮断されているからだ。



 ―――だからこそ。


 ―――私だって。



「――ッ! キサマッ!」

「年長者として。何か、しないとね」



 投擲した短剣は、戦場の暴風と。

 何より、彼等の戦いの音響に隠れたまま、騎士の頬を掠める。


 固定観念というやつが。

 既に固まっていたから。

 前衛がユウト、ワタル君、ハクロちゃん。

 後衛がエナ……戦闘参加者はその四人。


 それは、間違いなくて。

 敵騎士もそう思っていたのだろう。


 けど…ずっとそうというのは保証できなくて。

 

 私だって。


 攻撃手段はある。



「――で。いま、当たったよね?」

「ぬぅ……小癪」


「ルミねぇッ!」

「大丈夫。もう、私の役目は終わりそうだよ」



 やはり、そうなんだね。


 彼の秘密が理解できた。


 一度目は、銃の弾丸。

 二度目の防御無視はイレギュラーだったけど、通ったという事は、完全な不死性の塊ではないという事。

 三度目は、長剣の一撃。


 そして、四回目。

 先のユウトの斬撃は入り。

 私の攻撃も――確かに通じた。


 遠距離、近距離も、武器の種類も関係はない。

 重要なのは、材質だ。


 私の【白爛】は、牙製で。

 ユウトのレア武器…骨董。

 正確には【骨董斬鬼】らしいけど。


 アレも、そうだ。


 どちらも、骨や牙などの。

 生物由来の属性を有する。

 つまり、通常の短剣や鏃…銃弾。金属に連なる物だけが無効化されている。


 理論は分からないけど。


 それだけは、間違いない。



「――みんな、非金属の武器は持ってるかい?」

「……! そういう事ですか。では、希少ですけど骨製の鏃(やじり)を」

「成程…な。言われりゃそうだ。俺のは…ルミねぇの短剣も?」

「良いだろう? 私の愛剣さ」



 そういえば、皆には。

 言ってなかったね。


 種が分かってしまえば、後は簡単? 


 ……ではない。

 断じて否だよ。

 素の状態でも敗北イベントだと感じるような惨状で、能力一つがようやく理解できたといったところ。


 ここから、どう切り込むか。



「ハクロちゃん、ワタル君と前衛を頼むよ。防御だけなら金属製でも問題ないから。隙はエナ…と、私が埋められたらいいな」

「ん。攻撃もやる」

「了解です。――ユウト、頼むよ」


「勿論、最善は尽くすよ」

「……話は、終わったか。我が秘密を知ったモノ共を生かしては置けぬ」


「そりゃ、残念。俺達は」

「蘇るので、関係ありません」

「……例え貴様らが異訪者であろうと、斯様な上物を斬らぬ選択は無し――来るが良いッ!」



 騎士の一言を火蓋にして。


 再び突入する混戦。

 息の合った双斬を前衛二人が披露すれば。


 隙を狙った騎士の斬撃を。


 宙を飛散する一撃を。


 ハクロちゃんの大剣が砕き。

 衝撃でバランスを崩した彼女を、次は自分たちがと前衛二人が守る。


 エナは、一回で三矢を。

 連続で射出し続け。

 何度も危うくなる前衛の三人を、的確に援護していく。


 完全に置いていかれているけど。

 こう見えて……私だってね。


 機を伺うのは非常に得意だ。


 観客を喜ばせるタイミングを理解しているという事は、その逆も知っているという事。彼が最も望まない瞬間を見極め、私は回収した武器を投擲する。



「――甘いわッ! そのような慢心の一撃、我には通じん」



 けど、二度目は警戒があるね。

 首筋へ肉薄しつつも、届かず。 

 

 それより、何より。

 

 これが本命に思われるのは心外だ。



「慢心? 違うね。仲間への信頼さ」

「……………ッ!!?」



 タイミングを測るのは私だけど。

 攻撃できるのは私だけじゃないんだからね。


 エナは、本当に凄いんだ。


 まるで、当然のように。


 私の意図を汲み取って。

 対角線上から矢を命中させる。


 囮が本命で、本命が囮。

 訳が分からなくなるだろう? そうなると、もっと嵌って行っちゃうんだ。 



「今回の本命は、私です。では、次は誰になりますかね?」

「ふふ…さぁ、まず一発さ」

「――女ァァァッ!!」



 ……何で私に怒るのかな。


 それもちょっと心外だよ。



「……おのれ……おのれッ! 一度ならず、二度までも我が肉体を」

「余所見は」

「感心しないな――二発目だ」


「――ぬうぅぅぅッ!?」


「これが三発……? 防がないのか?」 

「――うわぁ。本当に凄いね、ハクロさん。速過ぎるよ」



 一回許してしまえば。

 ズルズルと、何度も嵌ってしまうモノで。


 集中力を欠いてはいけない。


 彼等の術中に入っちゃうよ。


 虚を突かれ、怒りに吼え。

 次の瞬間には二発、三発と攻撃を許してしまう敵騎士。


 どうやら、ハクロちゃんも。

 あの時と同じスキルを使っているようだね。



「……行ける、行けるよ」

「かも、しれんな」

「油断、ダメ」


「勿論、するつもりはありませ――ッ!!」

「――油断、ダメ」


「………やはり、要は貴様か。小さき者」



 突如巻き起こった暴風に。


 その場の皆が硬直して。


 唯一行動を起こしていた少女は。

 私にはまるで分からない位の速さで斬撃を食い止める。


 彼女もそうだけど。

 暗黒騎士の実力も。

 まるで、底が見えなくて…ちょっと冷静になる時間が必要だね。


 

 誰も入って行けないような戦い。

 二撃…三撃……。


 目にも留まらぬ。 

 激しい剣劇の応酬は。



「………あッ」

「崩れたか、小さき者よ。其方の剣は、見事であった」



 すぐに、均衡が崩れて。


 ――刃が、彼女に迫る。


 彼と私達を隔てる圧倒的なレベル差。

 それを誤魔化していたのは手数の暴力だった。


 しかし、その一角。

 戦闘の要とも言えたハクロちゃんが崩れれば。


 崩壊は、必至。

 

 それは、許容できないね。

 戦力として役に立たないものから消えるのが戦場の常だというのに、順序が違う。変則(アドリブ)が許されて良いのは私たちの世界の特権だよ。

 全ての物事は、順序良く……ね。



「………なんだ、この羽虫はッ!?」



 群がるは、多数のハト君たち。


 どうせ退場するなら。

 温存分も大放出だ。



「ルミねぇ!?」

「ルミ姉さん、危ないです!」

「……るみ」

「ほら、こっちも早く後退だよ? 立て直さないと」


「――ぬぅ!? 小癪ッ!!」



 未知の現象を目にした暗黒騎士は。

 すぐさま、用心と飛び退り。

 その勢いのまま、剣で一番ヘイトを買っている存在たちを斬り飛ばそうとする。



「それはいけない。私の大切な団員君たちなんだ」


 

 ――剣が振るわれる刹那。


 再びタイミングを見極め。


 羽ばたく彼らを送還。

 本来なら、とても目で追えるものでは無いけど。皆が頑張って彼の動きを分析させてくれたからこそ、こんなことも出来る。


 ほら…ね。


 騎士の凶刃は、見事に宙を裂き。


 不自然に静かな静寂が訪れる。


 ああ、分かるとも。

 失敗は恥ずかしいものだ。

 それが、誰かの悪意で起きたものであるのなら。


 当然怒りは―――その者へ。



「……貴様、貴様だ。ああ、そうであった。貴様こそが、我が一手を混迷させる不確定な存在……面妖な、術師風情が」

「それは違うね。ただの無職さ」



 職業違いも甚だしく、謝る事しかできない。

 彼等に失礼が過ぎると思うな。


 私は不思議な【術士】でも。

 高尚な【僧侶】でもない。

 彼等のような身体を穿つ“魔法”なんて、一つたりとも習得してはいない。

 

 あるのは…そうだね。


 心を穿つ魔法、かな。



「――我は、決して――忘れぬ」



 そんな訂正も意に介さず。

 怒りをこちらに向けた騎士は、大剣を振り被り。




「この恥辱、忘れぬ」




 ………凄く早いッ!


 それこそ、あのハクロちゃんの動きが。

 まるで、稚戯に感じられてしまう程で。


 あちらが疾風ならば。

 こちらは暴風…大嵐。

 先ほどまでの動きとは、まるで比較にならない。


 強化? いや、違う。


 これは……むしろ。


 今までが、余興であったという事。

 ずっと……あの騎士は、ずっと加(・)減(・)し(・)続(・)け(・)て(・)い(・)た(・)のだ。



「その貌、しかと胸に刻もうぞ。異界の術者――ッ!!」

「だから、違――」



 おや、おかしいね。


 目の前の情報量が。


 突然、激減して……掠れていく。



「―――――!」

「「――――!?」」



 皆が、何か言っているのかな。


 その言葉が耳に入ってこない。


 ……よく、分からないけど。

 出番が終わったのなら退場、という事なんだろうね。


 ならば、後は皆に任せよう。


 なに。コレは、どうせ。

 敗北必至の戦いだから。



 負けたところで誰も攻めやしないさ。



 そのまま、真っ暗になる視界。

 私は、それがどういうものであるのかをようやく理解した。

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