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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第15幕:騎士王と暗黒鎧



 ――古代都市アンティクア


 それは、現在の最前線。

 人間側PLの限界である。

 各地で経験を積み、ここに集いし精鋭たち。


 彼等は確かな旗印のもと。

 緩やかに連携をとって先遣隊の襲来を迎え撃っていたが……しかし。


 他の戦場などと同様に。


 苦戦を強いられていた。



「……ハァ……ハァ…ッ! …疲れなんて感じない筈なのに。何で、息切れなんて」



 身長は平均よりも低く。


 青い鎧を纏った少年。


 彼は【戦士】系3rdの【聖騎士】だ。

 特筆すべき高い防御力。

 そして並以上の攻撃力。

 何より、天性の白兵センスにより、鬼神の如き働きを見せながらも。


 彼自身の消耗は激しく。


 巨漢の戦士…仲間と背中を合わせ。

 精神が疲弊した肉体を鼓舞するために、甘味のある回復薬を含む。



「なぁ、副団長。これ、マズくないか?」

「うん、ちょっとキツいかもね。むしろ、ここまで食い下がっているだけ凄いと思うよ? 僕たち」



 隙を見て戦場を軽く見回すが。

 その言葉は、間違っていない。


 今なお、大混戦も大混戦。


 ここまでのリソースとは。


 これまでにも彼らは【オルトゥス】の自由度に舌を巻いていたが、今回ばかりはそれを軽く飛び越えて戦慄を覚えるばかり。

 本当に、ただのゲームなのか。

 端的に、「凄すぎる」という感想が漏れる。 


 人間国家の重要都市。


 合わせて四か所で行われる一大イベント。


 両陣営合わせて数千を優に超え。

 万に届こうかという戦力のぶつかり合いが、最終決戦などではなく、ほんの始まりに行われる大規模イベントなんて、どれほど豪華なのだろうか。



「――団員の生存状況を頂戴?」



 レベルの低かった敵を斬り裂き。

 一呼吸を置く間もなく。

 傍で指揮をとっていた【軍師】に確認をとる。



「……50名中、39人が死亡」



 全身を外套に包んだ男。

 軍師は名ばかりでなく。

 事実、彼は【術師】派生の一つ…その三段階。


 優秀な支援職である男は。

 ステータス画面からギルド情報を確認し、努めて冷静に口を開いた。


 小さな、掠れるほどに小さな声で。



「そっか。じゃあ、他のギルドはほぼ壊滅かな? 第二位の【古龍戦団】連中だって、全然居ないし……沢山いた五位の――」

「いや、アイツらは論外だろ」



 彼の言葉は、まさしく。

 慢心にすら聞こえるが。


 それは、間違いで。


 自分たちの力量に対する圧倒的な自信。

 自惚れなどではなく、ギルドランクの頂点に座する組織のNo.2であるが故の客観的な分析だ。


 事実として、周辺で闘う者……。

 戦端を開いている者の多くが個人勢か、団員ばかりで。

 

 そんな精鋭たちですら。


 周りから徐々に削られ。

 

 少しずつ、その数を減らしていく。



「ねぇ、老師。撤退……は、必要ないよね?」

「然り。最早、確定的に明らかよ」


「おい、お二人さん」

「バカにも分かるように説明プリーズ」


「簡単だよ。このクエストは、負けイベントなんだ」

「「はッ!?」」

「【勝利条件】なんてものをさっき見せられて興奮したけど、箱を開ければこの通りさ」



 そもそもの問題だが。


 負け要因があったか?



 否…断じて否なり。



 戦力は十分にあった。

 余計となる悪手など、一度として取っていない。


 にも拘らず、順当に戦い。

 順当に追い込まれる現状。

 最早、間違いなどなく。

 撤退という立て直しの戦術を選ぶよりは、このまま死亡するまで戦い続け、【戦果ポイント】を稼ぐのが良策だろう。



 このゲーム…オルトゥスのギルドシステムは。


 まず、団長と副団長。

 それさえ存在すれば。

 残りの団員数は、制限なし。


 理論上、無限である。


 ―――だが、反対に。


 団員数が50の倍数を重ねる程。

 基本のランキングポイントたるギルドポイント(GP)の入手効率は大きく低下する。


 故に、殆どの上位ギルドは。


 最大50名の精鋭を選りすぐる。


 そして、重要となる二人の大将首。

 彼等の死亡は大きな意味を持ち。


 イベント以外でPLによってキルされた場合。


 副団長ならばGPの20分の1減少。

 団長の場合、GPの10分の1の消失…その他幾つものペナルティがあり。


 彼等上位勢にとって。

 余りに大きな損失だ。

 だが、イベント期間中や敵NPC、魔物エネミーによるキルの場合はそれらも大きく緩和される故、今彼らがするべきは。



 【戦果ポイント】の入手。

 


 それしか眼中に映らない。

 


 これを、多量に手に出来れば。

 今回の痛手は痛手足り得ない。

 強力な武器防具…あるだろう。

 激レアなアイテムや、特効な消耗品…期待できるだろう。


 これからも頂点であるために。


 長がいずれ追い付かれるまで。

 

 【円卓の盃】が最強であるため。

 戦闘狂の集いは、新たなる力を常に求め続けなければならない。その杯が満たされることなど、あってはならない。



「――だから、やるしかないのさ」

「「…………」」

「文句、ないよね?」

「「愚問」」

其方(そなた)らしくもない」

「本当に、言われるまでもありませんよ? 鬼の副長」



 反論、異論の類など一切なく。

 全員が獰猛な笑みを浮かべる。

 人界側の残存兵力は半数以下…どころか、3割いるかどうか。


 どうせ、立て直した頃には。


 クロニクルクエスト終了だ。



 ―――いや、可能性があるとするのなら。



 Subである目標の達成。


 【敵将個体】の撃破……なのだが。

 

 一帯に響く硬質な金属音。

 その発生源は、一目瞭然。


 全身を漆黒の鎧に包んだ騎士。

 相対する騎士は、純白の鎧で。


 互いに長剣を唸らせ、薙ぎ。


 鎧にすら刃を届かせない。


 全くの互角という様相。

 対照的な両者の戦いは、まさしく「化け物じみた」と形容するに相応しく、トッププレイヤー(TP)たる自分たちでも援護は難しいだろう。



「……で。あれは、どうなるかねぇ?」

「さぁ? 意味不明で」

「俺っちも、まさか、団長と互角に戦うPLがいるなんて思いませんでしたよ。しかも、敵陣営で軍の大将首張っているとか…チーター?」


「……バカな」

「ははッ、まさか。うちの王様と同種なんでしょ」



 敵将個体……名を、ヴァディス


 ―――暗黒騎士ヴァディス・クォ


 最も強力なPLの集う、一大戦場。

 その壁を確実な采配で崩壊させ。

 緻密に追い込み続ける敵軍の指揮官は、白兵も確かな実力者で。


 曰く、最強のPLとして。

 広く知られる【騎士王】

 彼と渡り合っていることからも、その戦闘力は明らか。


 あれが同じPLという事実。


 それこそが、恐ろしい。



「ヴァディス…ねぇ。あれ、PLネームなんすかね?」

「今は――クソッ! どうでも良いだろうが!」

「じゃあ、団長は……」

「気にするだけ無駄だよ。そう簡単にやられるタマじゃないのは知っているだろ? 何より、うちらの王様がやられるようなら――」



 「僕たち(プレイヤー)の手には負えない」



 そう呟いた少年騎士は。

 再び襲い来る敵に相対し、構える。

 


 ………。


 

 …………。


 

 攻撃を往なす前衛。

 荒々しく戦う前衛。

 彼等が、砕けて消え。


 バフを撒いていた【軍師】がやられ。

 頼もしい仲間は皆、みなやられ。


 終ぞ一人になっても奮戦、奮戦。


 まさしく廃人と言うべきスキル。

 

 それをもって、少年騎士は生き残り続けるが。

 善戦虚しく、()()()()()敵に囲まれて、ゆっくりだが、確実に彼はその姿を埋め。


 終ぞ、少年騎士は砕け散り。


 

 ―――そして、当然。



「――終わりだ、騎士王」

「………ッ!!」



 最後に残りし純白の【騎士王】も。

 後方の護りを失ってしまい。

 最早彼を抑える一騎打ちさえ必要のなくなった暗黒騎士が下がったことで、波へと飲まれていく。


 最強と呼ばれた騎士王も。


 やがて、その姿はエフェクトに砕けて消え。

 


「――これで。私たちの、勝ちだ」



 小さく呟く暗黒騎士の声。

 それに呼応するように。


 エイエイと叫ぶ魔族側のPL。

 初期ロット、ほんの一部の特権により【半魔種】という種族としてこの世界に受肉した者たちは、圧倒的な数の暴力…魔物エネミーや、味方NPCと共に人界の盾を屠り去った。


 拓かれた最初の物語。


 最初(はじまり)の戦争は。



 ―――彼らの勝利と言う他ないだろう。

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