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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第13幕:強襲する**騎士



「――待たせたね、衛生兵さんだよ」

「……へ?」

「さあ、私の回復薬を飲むと良い」

「…えぇ? ……と? ありがとう、ございま…す?」



 手ずから渡した回復薬。


 彼女が薬瓶を受け取り。

 ぎこちなく飲み干すのを見守る。


 うん、良い飲みっぷりだ。


 そして、戸惑うのも仕方ないね。

 突然目の前に現れた、知らないPLにこんなことを言われたら、誰だってそうなる。

 


「ではでは、またね会おうね」

「あの、ポーションのお礼――」

「大丈夫だよ。元々、支援用に買ったんだ。それより、更に上を目指さないかい?」


「……うえ?」

「漁夫の利、横取り…戦果」

「…………」

「まだまだ、報酬がウマウマだよ」



 それは、天使か悪魔か…道化師か。

 こうしてプレイヤーちゃんを唆し。


 また一人、戦場へと送り出す。


 しがない後方支援としては。

 かなり上出来じゃないかな。

 何より、今私が居る地帯は比較的後方にあるから、魔物も少ないし。



 仮に居たとしても――



「む? 勝機ッ!」

「エェェェ!? ……ナジェ」



 戦傷者たちでも、魔物でも。

 次なる標的を探していると。


 間を縫うように目の前に来た魔物。


 恐らく、流れ弾とかの影響だろう。

 体力が可視化されたわけじゃないけど、既に満身創痍といった状態のソレに対して短剣を投擲。


 剣が刺さったその身体は。


 見事に砕けて消える。

 ……何か、叫び声が情けなかったような。もしかして、人間の声を充ててたり?


 ともあれ、これは。


 経験値ウマウマだ。



「――漁夫の利…素晴らしいね」



 やや危ない遊びを覚えてしまったけど。

 なんて事は無い、悪びれる事は無い。


 私は寄生をしていた身。

 こんな悪どい手は、今更というものさ。


 でも、ナイフ投げは得意だけど。


 短剣をこの使い方は。

 やっぱり、ちょっと感心しないな。



「投げナイフじゃなし、本来の用途から外れる。…とはいえ、ナコちゃんとテツ君には申し訳ないけど、リンゴ剥き以外もやらないといけないから――!」



 言い訳しながら白爛を回収―――


 と同時に、すぐ真横で爆風が発生。

 吹き飛ぶのは慣れているので。

 一回転して、すぐに受け身をとる事には成功したけど……まるで、本当の戦争だね。


 向けた視線の先では。


 発生源から歩いてくる少女。


 ……彼女は、知っているとも。

 少し前に話したばかりの仲だ。

 向こうも気付いたようで、こちらを一瞥すると歩み寄ってくる。


 彼女の視線は、恐らく。

 私の手に握られた剣で。

 もしかしたら、武器コレクターの趣味を持っているのかもね。



「――それ、良いな」

「そうだろう? ええと、名前を聞いてなかったね」

「……ハクロ?」



 どうして疑問系なんだろう。


 ハクロ…ハクロちゃんね。

 とても良い名前だ。


 彼女の銀髪によく馴染んでいて。

 ゲームっぽい名前が、更に馴染みやすくしている。



「やっぱり、来たのか?」

「まあ、ね。少しは参加しないとエントリーの意味がないし…あぁ、ハクロちゃんも如何かな?」

「ん」

「イッキに、――ああ、良い飲みっぷりだ」



 回復薬は、いくらあっても良い。


 不足してしまうのは。

 一人の所持数に制限があるから。

 無限に回復して戦う、というのを制限するためのモノだろうね。


 でも、二人で立ち尽くし。

 こうして話していても。


 襲ってくる敵は居なくて。


 流石に安置だね。

 連携の取れたプレイヤーが多い箇所であるからか、ぼんやりと立っていても、襲い掛かる魔物が殆どいない。 

 …とはいえ。

 少しでもここから離れれば。

 彼らという嵐が過ぎ去れば。


 逆に、ハグレで形成された魔物の群れとぶつかるだろう。



「――とまあ、薄氷の上なんだよ。怖いね」

「こわいな?」



 でも、その薄氷は魔法の膜。

 敵から受けた衝撃には弱いんだけど、味方側の攻撃であれば、どれ程威力の高いものであってもそうそう決壊はしない。


 PL同士は連携が出来る。


 これが、魔物との違い。


 味方が失敗や誤射をしても。

 近くに居る仲間たちが、すぐに援護に回ってくれるから、何とかなるもんだよね。



 そんな魔法の薄氷は。


 焔の爆発によっても砕けない。



 近場で発生したのは……。

 プレイヤーの放ったものだね?



 あれが、火属性の魔法……凄い威力だ。



 しかも、それを放ったのは。

 私の知っている人物で。

 一緒に居るのも、その仲間たちみたいだ。


 どうやら、【術士】の魔法というのは、単身で戦況に大きな影響を与えるほどの力が在るみたいだね。彼らを迎えながらその事を思案する。



「お待たせしました、【一刃の風】でーす」

「あぁ、待ってたとも」


「ご注文はお決まりでしょうか」

「今日のお勧めは?」

「……爆炎と斬撃の戦場、土の香りを添えて?」

「あと、魔物の群れも。――あーッ、づっがれだー! ほんっと酷い目に遭ったわぁ!」



 太い声をあげるまま。

 座り込むナナミ。

 

 酷い目に、ねぇ。

 その割には、とても楽しそうで。


 冒険と戦闘を心から楽しんでいるという事が伺える。

 彼女の言葉から、敢えて考察するなら。

 


「もしかして、味方の魔法で吹き飛ばされたり、斬られそうになったり、倒れて大地とキスしたり?」 

「「正解」」

「マジで、最大の敵は味方」


「後発でこれなんだから」

「最初に突っ込んでいった連中は、かなり死屍累々だったな」



 差し詰め、不運のフルコース。

 戦闘も良いモノだろうけど。

 前線で戦果を争うプレイヤーたちは、本当に大変みたいで。


 シギさんとハマグリさんに。

 PLと魔物に頭が下がるね。


 私は、完全に漁夫さんだから。



「――所でルミねぇ、その子は?」



 ああ、そうだ。

 ハクロちゃんは、相変わらず隣に居て。


 興味深そうにユウトやナナミやワタル君…の、武器を見ている。特に目を留めているのはユウトの持っているレア武器らしく。

 やっぱり、そういうのが好きなのかな。


 取り敢えず。

 皆にも、中々の趣味をお持ちのハクロちゃんを紹介する。



「彼女は、ハクロちゃんだよ。友達…私の戦友だね」

「友達」

「~~~可愛いッ!」

「……凄く、可愛いですね」



 真っ先に食い付くは女性陣。

 やっぱり、可愛いよね、ハクロちゃん。


 プレイヤーだから容姿が良いのは当然として。

 その庇護欲を誘う背丈と、何処か眠そうな半眼。不釣り合いな剣を背負っている姿は、現実ではあり得ない姫騎士のようで。



「お兄さんたちとも友達になろうぜ」

「うん、許す」

「「……………」」



 思わず、声を掛けるのも止む無し…かな?


 彼女は、素直な子だ。

 誰とでも仲良くなれるタイプだね。


 でも、こういう時は。

 逃げるのが良いかも。

 所謂(いわゆる)、危ない香りのする現場だからね。



「――その子が許しても、僕たちがちょっと」

「どう見ても事案だよな。――判決、有罪。死ぬまで戦場で働け」

「なじぇッ!?」



 基本の基本、労働刑だね。

 彼は貴重な火力担当(ダメージソース)。 

 もっともっと貢献してもらうのが良いんだろう。


 それで…どうかな。



「ハクロちゃんも、来るかい?」

「……ん」



 来てくれるらしいね。

 人見知りもしていないし。


 皆と一緒に戦えるさ。

 

 相談が終わるのを見計らい。

 合流した皆で、方針を決めていく。



「んじゃ、まだまだ頑張ろっか」

「そうですね。ここまではとても良い感じだったので、回復アイテムも温存できてますし」


「もっと上を狙おうよ」

ギルドランク(GR)一位目指してな」



 志が高くて良いね。

 

 彼等は前線を見据え。

 次なる戦場へ視線を光らせる。



 ―――そんな時。
















『システムアナウンス:進行度Ⅱへ移行します』
















 一時だけ戦場の爆音が鎮まり。

 脳に響くは、管理者の言霊。



「……これって」

「第二段階、だね。正念場ってやつだ」



 ―――まるで。

 まるで、天の御声が如きその音に。


 鎮まった戦場の中で。


 私は、空へと視線をやる。

 





 ―――だから、気付けた。






 ……クエストの開始時。

 彼等は、遠くの空から睥睨(へいげい)していて。


 だから、まだ大丈夫だと。


 そう、思い込んでいた。


 でも、いまになって。

 進行度が進んだ今だからこそ。



 ……そう、何かが。



 ―――落ちて。



 ―――来ている。



「……ルミねぇ? 空なんて見上げて、どうかした――!?」

「あれ――はッ!?」

 


 ユウトが、気付く。

 そして。

 その隣にいたワタル君も、気付く。




 ―――でも、それはすぐそこで。




「まあ、どんな敵が来ようと、俺のロマン魔砲でちょちょいの――」

「「ショウタ! 避けろッ!!」」

「「―――え?」」



 次の瞬間。


 小惑星が衝突したような衝撃。

 先程の魔法なんて。

 まるで、及びもつかないような大音響。


 巻き上がる砂埃。


 砕け散るガラス?


 ……ポリゴン質のソレは。

 その音は、手遅れであるという事。


 ただ、説明の余地なく。

 空から、何かが落ちてきた。

 

 本当に、それだけ。


 魔法でなし、魔物で無し。

 武器でも、殺気の籠った攻撃ですらなく。

 砂埃が晴れる頃、次第に見え始めたシルエットは……巨躯の人型を取る。



「――何が、起こったんですか?」

「「…………」」

「……ショウタ君は?」

「手遅れだ。今ので吹き飛んだ」



 余りにもあっけない脱落。


 それはゲーム故か、それとも…。


 人間、命を落とすときは。

 本当にあっけないものだよね。彼は、ギャグのような速度で退場。しかし、それを笑うものは一人もなく。


 私は、目の前の存在。

 

 ――ソレに向かって。


 ――言葉を投げかける。




「随分性格の悪いことをするね。……もしかして、彼を狙って落ちてきた?」




「――然り。術師こそ、我が忌むべき敵である。あれなる男児は、優れた術者よ。しかして、肉体という面では落第よな」




 上空から戦況を見ていたのか。


 兜のない騎士は、真紅の双眸をこちらへ向け、肯定する。

 それは、壮健な男性だった。


 剛腕と形容すべき太い太い腕。


 二メートルを優に超える体躯。


 それで尚。

 私の身長ほどもある大剣を担ぎ上げ、悠々と仁王立ちする余裕。

 その姿は、紛れもなく。

 強者特有の風格を感じさせた。






「―――我が名は暗黒騎士アリギエリ・スム。冥国四騎士が一人にして、最高幹部ジュデッカ様が配下よ」

投稿時間ががががが

ミスしましたね(二回目)

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