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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
最終章:フィナーレ編

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301/312

第30幕:空気を読むということ




「私はね? アールさん。特別なんかじゃないんだ」



「どこにでもいる、只の―――普通の、元無職の一般人さ」

「……、ぁ、が」

「人は特別でなくとも輝ける。誰もがその時を待ってるんだ。それを邪魔する資格なんて、誰にだってないんだよ?」



「だから……邪魔しないでね。”浄化の閃”」

「ぐ、あああああああぁぁぁ!!?」



 ………。



「馬鹿な! 御子を……、ぬぅ! ”夢幻―――、!」



 三騎士の対応が遅かったわけじゃない。

 アリギエリはすぐに飛び出して武器を振りかぶっていた。

 けどその剣に光が宿るより早くルミエールさんが逆に騎士の懐へ潜り込んだ。



「技の発動前に刈る、定石だよね。あ、硬……」

「させないわよ」

「どうも」



 結局彼女の攻撃は鎧に弾かれ、そのまま振りぬかれる大剣―――至近距離まで迫った一撃へ回避の仕草さえ見せなかったのはメアさんが間に入ることを瞬時に理解したから。


 そして。



「―――こっち」

「からのこうよね?」

「……ぬ、う!!?」



 二本の長剣と一振りの短剣、攻防が入り乱れ、メアさんとルミエールさんがたった二人でアリギエリを押し返した。

 今の今まで敵だったとは思えない、埒外の連携。



「アール殿―――よもや……、こんなことが。ガラティア、御子は」

「消えた、ようですね。これは私たちの手には負えません。一度退きましょう」

「ぬ。よいのか?」

「今ではなかっただけの事。警戒すべき相手が増えたことも間違いなく……いえ。最初からあなたを警戒しておくべきでしたね、無色の聖女」

「ん、もうそれも辞めたんだけどね」


「さっきも言ったけど、ここではみんなが輝いてる。特別でもいいし、逆に疲れたから一般人としてでもいい。好きに生きるんだ。だから、そのやりたいを否定するのは……何があっても許さないよ」



 NPC最強格の三騎士と真正面から向き合うルミエールさん。

 表情が変わらないからこその得も言われぬ圧。



「あ……。おねーさん、めっちゃキレてる……!?」

「ですー……!」

「さっぱりわからないのだわ!」

「むしろなんでわかるのー?」 



 私も分からない。

 けど、あのルミエールさんがいつもの彼女とちょっとかなり違うっていうのは分かる。


 そもそも論。

 ルミエールさんてあんなに……いや、前からそうであっても全然不思議じゃないとは思ってたけど、それでも実際に目にすると違和感と驚愕が大きい。


 

「まぁこのくらいできて当然よね、ルミなら」

「当然のハードル頭おかしいと思いますよ」



 どうなってんのこの二人。

 ルミエールさんはレベルで言えばまだ68。

 まるで時間が足りない中でレベルを上げたであろうことは、彼女の二次職であり代名詞でもあったはずの【道化師】のレベルが以前とは比較にならないほど下がっていることからも分かるのに、そのうえで急成長した自身の能力を使いこなしてる。

 急激な能力値の強化による誤差、成長痛に鈍るということがまるでない。

 

 

「あれってさ、無職経由してるよね?」

「転職することですべての履歴を削除するとかいう最悪の一次職だよー」

「ユニークをこんな簡単に手放すなんて……」



 今この状況で確かなのは、私たちの目の前で黒幕側、っていうか黒幕に限りなく近かったであろうNPCが消滅した。

 一切疑問を挟む余地なく、完膚なきまでにやられて消えたってこと。



「異訪者という不確定要素の塊については幾度も教えたはずだぞ、騎士らよ」

「―――元帥閣下……」



 ジュデッカ様はまるで部下に言い聞かせるように……実際部下なのはそうだけど、自身を裏切った三人へ諭すように言葉を投げ。



「我の事も、一撃で仕留めきれなかったのは失態であったな。であれば次に活かすと良い。―――また会おう」


「「必ずッ」」



 魔族を統べる長の言葉に、かつての部下であったはずの三騎士は窓から飛び出して姿を消す。

 自然、要塞の最深部であるこの空間には私たちといまだ動きを見せないアレスだけが存在していて。

 ……? もう一人いたような。


 ともあれ、彼女はあの瞬間以来ずっと静止したままの姿。

 電源の切れた機械のような佇まいには不気味さすら感じるけど、動かないのなら今は。



「ジュデッカ様!」

「無事? 元帥様」

「大事ない……、とは言えぬか。どうやら通常の手段では回復できぬらしい」



 視てたからわかる。

 体力が増えては減って、また増えては減る……今の彼の体力は常にレッドゾーンだ。



「ふはははっ、してやられたわ……!」


 

 多分笑ってる場合じゃないと思うし、彼には消えてほしくない。

 私にとっての恩人だ。


 この場で回復系の能力を持っているのは……。

 


「ルミエール……、さん」

「んー、下手(したて)で来てもらって恐縮だけど、残念だけど今の私の職でできるのはさわり程度でね。そういうわけだから、ステラちゃん、リアさま。彼の回復をしてあげてほしいんだ」

「……。あの、その前に……、えっと」

「ルミエールさま? どうやって? あの時、貴女は確かに消えたはずです」

「それ、私も気になってた!」

「本当にどういうことなのだわ?」

「るーちゃんは偏在するんですかー?」


「あ、えっとね? これに関しては最初から作戦みたいなものだったんだけどね。私はどうしても勝ちたい相手がいてね。だから、ちょっと協力してもらうつもりだったんだ、ある人に。一度、入れ替わりの作戦は見られちゃってるだからこそ今回はギリギリまで攻めてみただけさ」

「怪盗……!」

「じゃああの時消えたのは」

「メモワールさんの方だね。けど直前までいたのは間違いなく私だよ? あの瞬間に入れ替えてもらったんだ。本当にすごい技量だよ。もしかしたら私よりこっちの力を使いこなしてる」



「それに彼って本当に凄いんだ。戦場を上から俯瞰して各所に伝達、指示を飛ばしたり……、とか」

「―――ぁ」



 そうだ。

 出撃の時、確か上空に何かが飛んでいるのが見えた。

 あれはやっぱり見間違えじゃなく。



「ずっと何かが飛んでいるように見えたのは」

「カラスだね。メモワールさんの呼び出した眷属だ。共有能力もなくなった私じゃそういうことは一切できない。だから各所の伝達役を務めてたのは全部私の影武者さん。人界側の実質的な指示役、フィクサーは彼だったのさ」

「道理でこっちの動きが気取られてたわけ。で、影武者らしく散ったってこと……」

「どこかしらのタイミングで入れ替わるつもりではあったんだよ? 偶々ジュデッカさんが突っ込んできてくれたからその手間が省けたってだけで」

「―――我にとっては九死に一生だったわけか」



 ……当たり前のように魔族側と人界側の中枢戦力で会話が成立してる。

 


「まぁ、そういうわけだから、ここからどうするかっていうのは決まったようなものだよね。すごく怪しいクエストも発令されちゃってるっぽいし。ね? おーちゃんさん」

「……………」



 あ、完全に忘れてた。



「空気を読んで黙っていたが。うむ、では余と共に魔族を―――」

「ごまかし方雑ぅー」

「今更味方面してんじゃないやい!」

「おーちゃん……。仲間じゃないんです?」

「さっきの流れでそんなわけないのだわ! これってつまり第三勢力がいて共倒れさせられそうって話でしょう?」



 その通りだ。

 だからと言って目の前の相手にかまっている暇もない。

 ひとまず私たちがすべきは……。 



「一刻も早く戦いを止めるべきか……」

「それは任せちゃってもいいと思うけどな、あっちはあっちの人たちに」

「ルミ、その心は?」

「私たちのやるべきことはまだ残ってるからだ。とりあえずはアレスさんを取り戻す。そうすれば百人力だ。そうだろう? あとおーちゃんさんも?」

「「!」」


「ステラちゃんとリアさまは元帥さんの治療。リオンさんと双子ちゃんは護衛。ルイちゃん、アミエーラさん、チヅルちゃんにミツルちゃん……おーちゃんさん行ける?」

「です!」

「―――本当にやるのだわ?」

「そろそろやられ役は嫌だァ!」

「最近の私たち良いところないからねー」



「で、残りの三人でアレスさんだね、そしたら」

「ルミエールさま、どうやってアレスを?」

「明らかに普通じゃないですし、ルミエールさまってもう治癒の力が使えないんですよね!? どうやって治すんです?」

「そりゃあ、まぁ……。殴って?」

「「……………」」



「古来からね? 精神分析の分野で最後の手段となるのはこれ、さ」



 ルミエールさんはポンポンと自身の二の腕を叩く。

 


「大丈夫、わたしたちならきっと目の覚めるような一撃をくれてやれるさ」

「あの、それは比喩ですか?」

「あまり手荒にしないで上げてほしいです……」

「それは相手次第。じゃ、悪夢さん。協力は―――出来るよね?」

「誰に……」



 二人は自然に並びたつ。

 ……やっぱり、この二人の間に私が入る隙間は。



「バディスさん」

「団長」

「え?」



「私は火力が不足だ」

「私も決定力に欠けると思うのよね。やっぱり、主役はあるじ様じゃないと」



 ………。



「―――やろう。全てを巻き返す」

「その意気よ」

「ちょっと待ってね、いま私の頼れる助手さんにちゃちゃっとメール送るから……よし」



 また何かの細工かな。

 ルミエールさんに助手なんかいたっけと考えつつ、私たちは静止したままのアレスへと武器を構える。



「さあ、やろうか」

「世界を救う戦いね。団長」


「―――あぁッ」


 

 複数人で背中を預け合う状況で仲間をこんなに心強いと思ったときはないよ。




   ◇




「―――。まさか……、アール?」



「うん……、うん? え、ちょっと待ってちょっと待って、ソレは想定にない。意味が分からないよ? どうしてそんなことするのさ、何でそんなことができるのさ……!」



 ………。



「なんか不測の事態が起きたっぽいな」

「いい気味だぜ。ぺっ」



 実際奴は困惑しているようだった。

 ひとつ確かなのはやはり神様って言っても、ましてNPCって言っても、彼らは全てを見透かしてるわけじゃないってこと。

 NPCごとのプログラムに沿って行動しているだけで相対したPLの情報をすべて見れるわけじゃない。

 だからこそ番狂わせが出てくるのがこのゲームの醍醐味の一つだったのだから。


 およそ、何か当初の計画通りにいかないような不確定要素が発生したんだろう。



「光の神よ。大物を気取っておいて、まさかこの程度で破綻するような計画など立てていないだろうな。だとしたら愚者もいいところだぞ? ははは」

「いやー、まさかそんなポンコツ女神なわけないじゃん、はははっ」

「なわけないよなーー」

「だとしたらちょっと格好悪いかもで―――ひぃ!?」



 ユーシャが言い終わるかといったところでグリンとこちらを向く目。

 挙動が明らかに人間のそれじゃないのはやはり質量を持たない虚像ゆえか。 


 そもそも目の前にいるコイツは本当に本体なのか?



「……従え」



「召喚主たる私に従え。神の威光に、あまねくすべてを照らす光に―――もっと私を敬え、崇めて崇めて、どこまでも続くような信仰を捧げろ! 他の誰でもない、私を信仰するんだ!」

「ヒス入ってんな」

「面倒くさい神なのであーる」

「納得したな。コイツの根幹となってんのは劣等感だ」



 人界三国にも光神そのものを崇める御子はいなかった。

 他の神々に対する大きすぎる、深すぎる劣等感。


 

「少なくとも。従えって言って従うタイプの異訪者はここにはいねえよ」

「頼み方ってものがあります」

「……。言葉が過ぎたね」

「「切り替え速!?」」



 この辺の切り替えの早さだけは見習ってもいいか。



「ね、頼むよ皆。私の力ではダメなんだ。私じゃあラーディクスを倒すことは出来ない。君たち異訪者だからこそ―――」

「違うな。どうしても私たちにやらせたい理由でもあるのだろう? 力を温存したい、ともいえるが」



 下手に回ってくれたところ悪いが、うちには言葉狩りのムーンさんがいる。

 状況から敵のおおよその思考を予測することに関しては埒外だ。 


 まぁこの辺は誰でも予想できるか。

 神としてのパワーバランスの上ではラーディクスの力の方がアルケーのそれよりも上……。

 その話を信じるにせよ信じないにせよ、神々同士ともなれば熾烈な戦いになるだろうことは必至。


 ゆえに、あくまで俺たち異訪者を使うことによってできうる限りの力をそぐことが狙い。

 結局のところこいつは俺らがラーディクスを倒せるとは欠片たりとも思っちゃいない。



「およそ、アンタにはまだ隠してる奥の手がある。それもとっておきのやつが。俺たちはあくまでも前座に過ぎない……。そうだろ?」

「―――――」

「凄い図星っぽい!!」

「名探偵なんですか!?」



 結局のところ真実を話したように聞こえてもコイツの言葉は全てが信用ならない。

 真に相手を騙したいのであれば嘘の中に真実を織り交ぜること―――よく言われることであり、実際俺のよく知る人も同じ手を好んでいたが。



「誰も幸せにならない嘘が致命的に下手なのも同じか」

「で、どうする? 名探偵」

「ここからの事はかんがえてるのであーる?」



 決断はゆだねられた。

 今この場にいる面子だけで出来ることなんてたかが知れているのもそう。

 今俺たちが出来ることなんて。



「決まってる」



 この状況下で俺たちがとるべき行動なんてただ一つだ。



「逃げるぞ!!」

「そーだよな、それしかねーよな!」

「やっぱそうきますよね!」

「―――この場にいる者たちが漏れなく前衛職でよかったな、高速移動だ!」

「それじゃーばいちゃー!」



 今この場にいる俺たちが消えたら、向こう暫くの時間この真実を伝えることのできるPLがいなくなってしまう。

 敗北イベントとて、逃げるという選択肢があるのだ。



「アルケの想定外をやらかしたとすればおよそ私たちの知ってる誰かだ。三騎士、四祖魔公が突入した要塞内部で何かがあった―――そう考えるのが自然」

「となれば、今頃向こうだってクエストがおかしいってことには気付いている。それを補強してやる必要があるだろうな。……戦場カメラマンの一人でも連れてくるべきだったか」

「余裕か!!」

「屋外へ出るぞ、ひとまずは転移方陣を使える場所まで―――」



「そうかい、それが君たちの選択か」

「「!」」



 突如、背後から惑星ほども巨大な照明で照らされたかのようなまばゆさが。

 前に自身の影ができる。



「戦わないお人形に用はないんだ、君らがそう来るなら―――」

「否、それはナンセンスだ、光の神」



 その時聞こえた男の声は誰のものだったか。

 少なくとも魔神王のそれでないことは確かだったが―――と、そういえばいつの間にかフェードアウトしていた存在がいたことに今更気付く。



「あ、海洋伯さん!」

「「!」」

「いけっ、異訪者たちよ! 諸君らは神の僕ではない、自由の使徒! 決して誰かに与えられた答えに耳を傾けるな。常に己が内側にこそ答えを求め―――走れ!!」

「12聖……。どうしてそっち側に立ったのかな、君は。一度は私の言葉に耳を傾けてくれた、光を見ただろうに」

「それが過ちだったと気づいただけだ。やはり他者を見て己を見つめなおすというのは必要だな、光の神よ」



 駆ける。

 迷う奴は一人もいなかった。

 ひとまず外へ出て安全な場所へ……んで、知り合いで一番声がデカいだろうスピーカーに伝えるんだよ、俺たちが見たもの全て。



 ………。

 ……………。


 

 ………。

 ……………。



「誰がスピーカーですの!!? あと勝手に助手認定!」

「? まりあ?」

「ヨハネス! ヨハネス・グーテンモルゲン!!」

「はーい、こちらにマリア殿」



「特別スクープですのよ! すぐに映像を繋げなさい!」

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