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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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幕間:発令!クロニクル・ストーリー!



「――なぁ、陽子。メンテ資料は?」

「そっちのデスク。勝手に持ってって」


「それ要る? もう大丈夫じゃね?」

「必要ない必要ない」

「……主任、準備万端らしいです」

「うむ、ご苦労さん。…あと7分か。時間まで、しばし待て」



 祝日、なんとふざけた事か。


 今日は四月の末。

 多くの仕事はお休みで。


 祝日であるが故、多くのPLがログインしてくれていることだろう。


 まあ、私たちは出勤だが。

 その分、休みが貰えるのでも問題はない。

 それに、この記念すべき日を目の当たりにして、我々管理チームもやる気十分。


 むしろ、早く始まってくれないかと。


 待ち切れんといった風体で臨んでいる。

 


「――おい、月島」

「イエス、マイロード」

「各管理者への通達は?」

「予定通りに行われています。むしろ、前倒しでも良いくらいに」



 ……うむ。ならば、良し。


 報連相は大事だからな。

 

 これで指揮系統が上手く行かず。

 崩れ去る可能性もある。

 だが、前倒しOKというお墨付きが出ているのなら、心配は不要か。


 では、お待ちかねと行こうか。



「星見、襲撃圏内に存在する重要都市のPL配分は?」

「……現在、鉱山が23、城塞が19、海洋が21、古代が37%となっています」


「なら、概ね予想通りか」

「そのようですね。投入戦力の変更は取り止めで宜しいですか?」



 完全に想定内だし、そうだな。


 あまり苦戦されるというのも。

 我らとしては、面白くない。

 当初の予測では【人間種】の初期地点最寄りの【鉱山】がもっとも多いかとも言われていたが、やはり戦力が集中したのは王国側の【古代】で。


 トッププレイヤー(TP)の大半が。

 そちらへ行ったのだろう。


 それで、どうなるかと言えば。


 ……まぁ、どうにもならんがな。



「――あぁ、予定通りだ」

「御意。このままの調整で参ります」


「サヨナラ人界」

「次の彼等に期待ってことで」

「勝手に滅ぼさないで? 創り直しとか、かみしゃま死んじゃう」



 アホ共のアホな戯言は適当に流し。

 予定通りに進行で。


 変更は無しの続行だ。


 ……事前確認は終了し。

 専用サイズに設えられた席に就く。

 

 私は、小さな支配者だからな。


 コンソールを操作してパネルを開くと。

 そこに広がるのは私の楽しみ。

 管理者である自分たちのみが覗くことのできる、プレイヤーたちの詳細情報。


 営利目的で悪用はせんが。

 表示された重要な要素を確認し。


 ただ一人、ほくそ笑む。



「現在アンロックされているのは…【強欲王】【剣聖】【背教者】【騎士王】【氷魔公】【歌姫】…そして【暗黒卿】――か」



 まだまだ少ないというべきか。

 これでも、ほんの一部だ。

 

 ここにあるは、世界が認めた【ユニーク】のリスト。

 特定のクエストや条件を達成することで、解放が成される専用職である。


 一つの職でも複数の方法があり。

 “詰み”を防げるようにした。

 初期地点に近い場所では、それだけ条件をきつめにして。…反対に、周辺難度が高い都市などで発生するクエストでは緩めに。


 まあ、RPG理論というやつだ。


 初期村の武器屋なんかで。 

 最強装備は売らんからな。

 当然、力が欲しいのなら進むのが吉だ。



(そこを行けば、彼女が就く可能性はほぼ無し…か)



 何だか、微妙に残念だが。

 まぁ、それも良し。


 私は、平等を信条にしている。


 ぶっ壊れとされるこれらも。


 蓋を開けてみれば、同じなのだ。

 ユニークは、一つを除いて。 

 確かに人界側の主力となりうる可能性を持つ者たち……では、あるが。


 それも、彼等の使い方次第。

 組み合わせとプレイヤーとの適正によっては大きく化けるし、そうで無ければ、ただ珍しいだけの有象無象。

 通常職も、ユニークも。

 一長一短になるように設計してあるから。


 長期的に見るのならば。


 最上位職の方が上かも知れず。


 あれらの力は、あくまでも早熟。

 決して届かぬなど、あり得ない。

 誰もが、等しく同じ領域に辿り着ける可能性を秘めている。



 ――だが、今は…まだ。

 


「――Hey、Boss。あと十秒ですよ? その悪趣味中止です」

「誰が悪趣味だ」

「「うちのロリ大将」」

「……言ってろ。お前たちだって、ユニークが出たら何時も見に来るだろうが」



 部下の一人に気分を害され。

 連鎖的に気分を害され。


 しかし、すぐに持ち直す。


 何せ、これからこの特等席で見ることになるのは、最高のショーだから。


 ちっぽけな不快など。

 すぐに、反転する事になるだろう。


 改めて深呼吸した私は。

 手元の固定時計へと視線をやり、決して狂わない秒針を確認する。



 ……5秒前。



 ……4秒前。



 ………3秒前。



 ………2秒前。



 …………1秒前。




 あぁ、今が告知通り。

 ゲーム内時間も、現実でも正午。


 鳴り響く鐘の音。

 …の、代わりのアラームを聞きながら、私は指令を出す。



「さあ、指令を出せ。――出撃開始ッ!」

「「御意ッ!!」」



 ……大仰な連中だな。


 歴戦の軍人のように。

 腹の底から響かせるような声を出しながらも。


 まるで、幼い子供のように。

 お菓子を与えられたように。

 満面の笑みを隠すこともなく浮かべ、コマンドを入力する部下たち。


 

 あぁ、その通り、そうだとも。

 我々は、ただの傍観者。

 傍観者で在らねばならない。


 たったのボタン一つで。


 あらゆる盤を動かしはするものの。


 ゲーム内にダイブし。

 介入などはしない。

 それこそ、チートを持ったスーパーアカウントなんてもっての外。




 ―――そんなの、楽しくなどないから。




 まあ、その分。

 彼等PLに楽しませてもらうさ。


 肝心の親友は……うん。


 まぁ、今回は見送りだな。

 さしものルミでも、あれでは結果は残せまいて。



「本当に……何で【無職】なんて取るかなぁ、ルミの奴」



 アレ、真正のベストゴミ職なのに。

 成長性しかないゴミ…つまりゴミ。


 一応の使い道はあるが。

 本当に意味のない事で。

 簡易的な検証やロールプレイ程度にしか使わない職業。


 砂山を作るだけの能力。


 ……ほぼ、袋小路の職。


 しかし、それでも。

 得体のしれないナニカを成し遂げそうなあの顔を想像すると、自然と顔がにやけてきて…。


 目の前の奴らじゃないが。

 私も、気分が乗ってきた。


 なら、その勢いのまま。

 管理者の天辺たる私は。

 渦中にいる当事者(プレイヤー)たちには一切聞こえないであろう、宣言を下す。



 ゆっくり、ゆっくりと。


 世界最高の奇術師を真似るように。


 勿体ぶるように両手を広げ。

 頭の中で言葉を探す。


 敢えて、彼女風に言わせてもらうのなら。


 あぁ、そうさなぁ。

 やはり、こういう場合は……。



「――さぁ、人界並びに秘匿領域のプレイヤー諸君」




「序章の物語を始めようじゃないか」




「最初にして、最高の戦場はそこに」




「存分に楽しんでくれたまえよ」







「―――この、世紀の()()()()()()をッ!!」

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