幕間:発令!クロニクル・ストーリー!
「――なぁ、陽子。メンテ資料は?」
「そっちのデスク。勝手に持ってって」
「それ要る? もう大丈夫じゃね?」
「必要ない必要ない」
「……主任、準備万端らしいです」
「うむ、ご苦労さん。…あと7分か。時間まで、しばし待て」
祝日、なんとふざけた事か。
今日は四月の末。
多くの仕事はお休みで。
祝日であるが故、多くのPLがログインしてくれていることだろう。
まあ、私たちは出勤だが。
その分、休みが貰えるのでも問題はない。
それに、この記念すべき日を目の当たりにして、我々管理チームもやる気十分。
むしろ、早く始まってくれないかと。
待ち切れんといった風体で臨んでいる。
「――おい、月島」
「イエス、マイロード」
「各管理者への通達は?」
「予定通りに行われています。むしろ、前倒しでも良いくらいに」
……うむ。ならば、良し。
報連相は大事だからな。
これで指揮系統が上手く行かず。
崩れ去る可能性もある。
だが、前倒しOKというお墨付きが出ているのなら、心配は不要か。
では、お待ちかねと行こうか。
「星見、襲撃圏内に存在する重要都市のPL配分は?」
「……現在、鉱山が23、城塞が19、海洋が21、古代が37%となっています」
「なら、概ね予想通りか」
「そのようですね。投入戦力の変更は取り止めで宜しいですか?」
完全に想定内だし、そうだな。
あまり苦戦されるというのも。
我らとしては、面白くない。
当初の予測では【人間種】の初期地点最寄りの【鉱山】がもっとも多いかとも言われていたが、やはり戦力が集中したのは王国側の【古代】で。
トッププレイヤーの大半が。
そちらへ行ったのだろう。
それで、どうなるかと言えば。
……まぁ、どうにもならんがな。
「――あぁ、予定通りだ」
「御意。このままの調整で参ります」
「サヨナラ人界」
「次の彼等に期待ってことで」
「勝手に滅ぼさないで? 創り直しとか、かみしゃま死んじゃう」
アホ共のアホな戯言は適当に流し。
予定通りに進行で。
変更は無しの続行だ。
……事前確認は終了し。
専用サイズに設えられた席に就く。
私は、小さな支配者だからな。
コンソールを操作してパネルを開くと。
そこに広がるのは私の楽しみ。
管理者である自分たちのみが覗くことのできる、プレイヤーたちの詳細情報。
営利目的で悪用はせんが。
表示された重要な要素を確認し。
ただ一人、ほくそ笑む。
「現在アンロックされているのは…【強欲王】【剣聖】【背教者】【騎士王】【氷魔公】【歌姫】…そして【暗黒卿】――か」
まだまだ少ないというべきか。
これでも、ほんの一部だ。
ここにあるは、世界が認めた【ユニーク】のリスト。
特定のクエストや条件を達成することで、解放が成される専用職である。
一つの職でも複数の方法があり。
“詰み”を防げるようにした。
初期地点に近い場所では、それだけ条件をきつめにして。…反対に、周辺難度が高い都市などで発生するクエストでは緩めに。
まあ、RPG理論というやつだ。
初期村の武器屋なんかで。
最強装備は売らんからな。
当然、力が欲しいのなら進むのが吉だ。
(そこを行けば、彼女が就く可能性はほぼ無し…か)
何だか、微妙に残念だが。
まぁ、それも良し。
私は、平等を信条にしている。
ぶっ壊れとされるこれらも。
蓋を開けてみれば、同じなのだ。
ユニークは、一つを除いて。
確かに人界側の主力となりうる可能性を持つ者たち……では、あるが。
それも、彼等の使い方次第。
組み合わせとプレイヤーとの適正によっては大きく化けるし、そうで無ければ、ただ珍しいだけの有象無象。
通常職も、ユニークも。
一長一短になるように設計してあるから。
長期的に見るのならば。
最上位職の方が上かも知れず。
あれらの力は、あくまでも早熟。
決して届かぬなど、あり得ない。
誰もが、等しく同じ領域に辿り着ける可能性を秘めている。
――だが、今は…まだ。
「――Hey、Boss。あと十秒ですよ? その悪趣味中止です」
「誰が悪趣味だ」
「「うちのロリ大将」」
「……言ってろ。お前たちだって、ユニークが出たら何時も見に来るだろうが」
部下の一人に気分を害され。
連鎖的に気分を害され。
しかし、すぐに持ち直す。
何せ、これからこの特等席で見ることになるのは、最高のショーだから。
ちっぽけな不快など。
すぐに、反転する事になるだろう。
改めて深呼吸した私は。
手元の固定時計へと視線をやり、決して狂わない秒針を確認する。
……5秒前。
……4秒前。
………3秒前。
………2秒前。
…………1秒前。
あぁ、今が告知通り。
ゲーム内時間も、現実でも正午。
鳴り響く鐘の音。
…の、代わりのアラームを聞きながら、私は指令を出す。
「さあ、指令を出せ。――出撃開始ッ!」
「「御意ッ!!」」
……大仰な連中だな。
歴戦の軍人のように。
腹の底から響かせるような声を出しながらも。
まるで、幼い子供のように。
お菓子を与えられたように。
満面の笑みを隠すこともなく浮かべ、コマンドを入力する部下たち。
あぁ、その通り、そうだとも。
我々は、ただの傍観者。
傍観者で在らねばならない。
たったのボタン一つで。
あらゆる盤を動かしはするものの。
ゲーム内にダイブし。
介入などはしない。
それこそ、チートを持ったスーパーアカウントなんてもっての外。
―――そんなの、楽しくなどないから。
まあ、その分。
彼等PLに楽しませてもらうさ。
肝心の親友は……うん。
まぁ、今回は見送りだな。
さしものルミでも、あれでは結果は残せまいて。
「本当に……何で【無職】なんて取るかなぁ、ルミの奴」
アレ、真正のベストゴミ職なのに。
成長性しかないゴミ…つまりゴミ。
一応の使い道はあるが。
本当に意味のない事で。
簡易的な検証やロールプレイ程度にしか使わない職業。
砂山を作るだけの能力。
……ほぼ、袋小路の職。
しかし、それでも。
得体のしれないナニカを成し遂げそうなあの顔を想像すると、自然と顔がにやけてきて…。
目の前の奴らじゃないが。
私も、気分が乗ってきた。
なら、その勢いのまま。
管理者の天辺たる私は。
渦中にいる当事者たちには一切聞こえないであろう、宣言を下す。
ゆっくり、ゆっくりと。
世界最高の奇術師を真似るように。
勿体ぶるように両手を広げ。
頭の中で言葉を探す。
敢えて、彼女風に言わせてもらうのなら。
あぁ、そうさなぁ。
やはり、こういう場合は……。
「――さぁ、人界並びに秘匿領域のプレイヤー諸君」
「序章の物語を始めようじゃないか」
「最初にして、最高の戦場はそこに」
「存分に楽しんでくれたまえよ」
「―――この、世紀の負けイベントをッ!!」




