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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
最終章:フィナーレ編

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第8幕:隣人を疑え




 精鋭が武器を構える……、ダメ後衛が頭を抱えてしゃがむ。

 私たちがそうしている間にも、空に入った罅は大きく亀裂を増し、頭上の空間の裂け目は広がる。

 何かが来る……、誰もがそう思った時だった。


 バキッ、と………。 

 張りつめられたソレが砕け散るようにして四散……、向こう側から姿を覗かせる影たち―――現れるのは、二、三メートルほどの飛竜に乗った黒鎧の騎士達。


 それは、格好的につい先日も城塞で刃を交えた彼等……魔族領土の暗黒騎士たちに間違いはなかった。


 ……。

 何だか最近新鮮味が薄れて来たね。



「はい予想通りぃ~! またアイツ等かよ! も良いよ、分かったよぉ!」

「なーんかそんな感じしてたんだよねぇ!」

「……。大分参ってますね、これら」

「あ、うん。ビーンさんとレーネ君の二人はちょっと色々あって。ね?」

「確かに色々あった原因だけれど」

「こっちを見るな」


 

 やいのやいのしている間にも状況は変わる。

 今に黄昏を破り、秘匿された裏世迷い森に押し入ってきた彼等は旋回するようにして飛竜を滑空させ、低高度から飛び降りてくる。

 重厚な鎧を纏っている人もいれば、軽装の前、後衛もいて、ローブ姿の人たちもいるバランスの良さそうな構成。

 続々と現れる数はこちらの数を完全に上回り、二十人を超え。



「―――妖精種でありつつも、年齢を感じさせる顔立ち。そして名前。見つけたぞ。妖精王だな……?」

「やっとこさ、って感じだな」



 ……。

 漆黒の彼等、どっかで会ったかな?

 そんな感じするような、しないような……。



「いやぁ、緊急クエストっていうから急いで来たら……成程。先客か」

「誰だかの予想通り、人界側が辿り着いたら発動するタイプらしいな」

「道理で。今まで音沙汰なかったわけね。まぁ、念願のキャンペーン最終クエストって事で―――、ん?」

「「………?」」



 結構奇妙な状況だった。

 突然の来訪者にある種の混乱を覚えつつも身構えるこちらに対し、襲撃を仕掛けてきた側の彼等もが何故か固まる。

 つまりは、双方混乱状態。

 私たちはまぁわかるとして、多分あっち側の彼等の混乱の原因って……。



「―――さ。状況を整理する前に暴れてみるのもいいかもね」

「ひとまずは話を整理したいからな。正当防衛がてら、と言うわけだ」



 今に、前に立ち塞がるのが二人。

 彼等にとっては最も運が悪い瞬間かもだ。



「何故どうしてと問う必要もない。そのような命令を下した覚えもない。ひとまずの弁明がなければ、貴様等を断罪する。魔神王陛下の名のもとにな」

「団長命令なら致し方なしよね」


「……ちょお!?」

「何で四騎士……!?」

「どうして人界側とこの人たちが―――バディス将軍たちが一緒にいるんだよ! 仲良しこよし!?」



 やっぱり彼等もクエストを受けたPLだった。

 相手からしても驚愕だろうね、自分達の陣営の最強PL達が何故かクエストの敵対陣営だと思われる存在と一緒にいるんだ。

 状況がアレだけど味方陣営……ヴァディスさんは何らかの説明を求めるように剣の柄へ手を掛けたままだけど。



「―――ちィ!! “水刃・紅時雨” お前等!!」

「“炎天直下”ぁ!」

「喰らえや―――“雷霆の槍”」



 これがバディスさん達が知らないけど、上からの命令的なクエストだったのならもっと他にやりようはあったかもしれない。

 けど、帰ってきたのは攻撃という返事。


 当然―――。



「決裂だな―――真なる焔の使い方を教えてやる。“焔刃貫突(えんじんかんとつ)”」

「“双刃殲風”……、攻撃が単調すぎるわね」



 放たれた攻撃の数々に対し、攻撃スキルの突撃モーションを利用して避けるのは、流石に化け物二人組。

 そのまま、スキルの光を纏った悪夢さん達が真っ先に飛び込んできた人たちを纏めて薙ぎ払う。



「くっっそ!!?」

「やっぱ鬼つえぇぇぇ……!?」

「けど生きてる俺ら氏も捨てたもんじゃねぇ!! “恵みの癒草”」



 相手も流石にここまでやってくるような人たちだ。

 一瞬で危険な相手を見抜き、複数人で応戦―――大きな被害を受けつつ、しかし同時に後衛職が回復を詠唱。

 結果一人も欠ける事無く、陣形を組んで悪夢さんたちを囲む。



「一人も落ちなかったの。やるじゃない。それに、良い連携……まるで獣狩りの陣形ね―――あら?」

「……。お前は、何だ」

「強い……」

「あなたたち……だれ? 私も見おぼえないわ。団長、知ってる?」

「……。……! いや……確かに。お前達は……何だ?」



 入り乱れた戦い。

 その中で、互いに違和感があったらしく動きを僅かに緩めるのは悪夢さん達。

 どうやら知らない顔が混じっていたらしく。

 

 その動きはにらみ合いのこちら側でも起きて。



「―――おい、どうなってやがる?」



 きっかけとなったのは、前衛たちが技の応酬を激化させる中でのレイド君の困惑の声。

 短剣を投げたり、銃を放ったり―――とにかくトリッキーな盗賊の王様が、鹵獲した様々な武器を駆使して戦うままに叫ぶ。



「確かにPLもいるが、NPCの割合の方が多いぞ、アイツ等! 半分以上だ!」

「「!」」

「―――マジで!? ってかそれって……」



 ちょっとワカラナイ。

 だって、相手方の人たちはその全員がPLのアイコン表示がされているわけで。

 けど、あのレイド君が確かにそうだって言うのなら……。



「盗賊王さん!? 目でもおかしくなったの? どう見てもPLにしか……」

「レイド君は変態さんだからね」

「「……確かに……?」」

「誤解を招く! そして相槌やめろ! PKやってりゃあそんくらいわかるようになるってだけだ!」

「変態じゃないですか」

「変態なのだわ……!」



 そもそも、PLとNPCを見分けられる物などシステムが指し示す只の情報でしかない。

 じゃあ、これはシステムの反乱?

 そういうスキルって言っても、流石にシステムそのものに干渉するような技をあの運営が実装するようなものかな。


 けど、それならどうしてPLを示すアイコンがNPCに立ってるのかも分からないし……。

 それとも、これはそういう趣旨のクエストなの?



「―――隣人を疑えよ、諸君」



「……おーちゃん?」

「先の話、そのままだ、るーちゃん。魔族側の異訪者も、人界側の異訪者も。その核は同一。種という肉体すらも自在なのだ。ならば、我らとて同じ存在になり得ない筈もない。大事なのは、器ではないのだ。或いは、既に君の友も、仲間も全て成り代わられていないと何故確信できる?」

「え―――どういう意味!?」

「ちょっとむずかしんだけど!」



 ……つまり。



「えぇ―――詰まる話です。PLの中にNPCが、或いはその逆が既に多量に存在している可能性がある……と。そのような意味では?」

「……ぅッソでしょう? そんなの絶対に見てれば……、ぁ」



 そう、気付かなかった。

 いや、そもそもサービス開始初期からずっとNPCの余りに自然な会話や動作で世界を大いに驚愕させたゲームだ。

 むしろ今まで無かった方が驚き。

 そもそも、ゲームの規約にそういうのはなかったかも。



 じゃあ、本当に―――。



「妖精王―――その首もらったぁぁ!!」

「……ってしまったぁ!?」

「抜かれましたね!?」

「あ、おーちゃん……!」



「む……」



 ちょっと誰もが考え事に夢中だったらしい。

 こちらの(いびつ)な動きを好機と取ったか、敵方の複数人が陣形を組み一気に突撃してくる。

 よそ見注意とは言え、最上位ギルドの団長たちやそれに匹敵する精鋭さんたちを出し抜いて来るなんて―――彼等、本当に手練れだ。

 うち一人はヨハネスさんとアミエーラさんの掃射攻撃をも掻い潜っておーちゃんさんに肉薄して―――。


 ……いや、ダメだね。



「らああああ!! 迅雷一閃―――ぅ、あ……!? ―――なに……? ヒーラーが……」

「いやぁ、悪いね」



 後衛だけだと思って油断したらしい。

 私がここにいる限り、誰一人もキルさせるつもりはないよ、ふふ―――。

 接敵した軽装の剣士さんのふところへ飛び込むまま、彼の首筋へ愛剣を薙ぐ―――あ、普通に武器で防がれた。


 金属音が鳴り響く。



「あいたた……、流石に精鋭さんを致命キルは難しかったか」

「ちッ!? お前さん、見せかけだったのか!? にしちゃあ軽い……」



 警戒のままに飛び退る影。

 本当は格好良く決めるつもりだったのに―――いや、防げただけ良しとしようか。



「ふふ……良いね。私もこうやって自分が攻撃を往なしたり、活躍してみたかったんだ。ようやく時代に追い付いた」

「……ルミエール殿!? よもや、あなたが……」

「ルミエールさん……!? それ……!?」



 ヨハネスさんもマリアさんも驚いてるね。

 確かに、今の速さと攻撃は後衛の出せるものじゃない。

 貧弱適正と能力値の私なら猶更。


 本当に私が今までの私なら、だけどね。



「ほら、流行ってるんだろう? 自分の力を隠しておく系のお話」

「「―――――」」

「……あーー、お姉さん? 多分それ数十年前の話だね」

「え」



 あいや、そっか。

 学校に置いてある本とか漫画って結構古いのも混じってるんだ。

 ……。



「まぁ、いいや。お披露目だ。私もちょっと躍らせてもらおうか? ―――最終奇術 道化神の(トリック・オア)悪戯(・トリック)



 得意満面のまま、短剣を持ち替えて構える。

 今の私はまさに完全無欠、前衛もこなせるひーらさんなんだから。



「二次職【道化師】の最終スキル―――道化神の悪戯。ついこの間ようやく発現してね」

「神さまの悪戯!? とんでもなく強そうな響きです!」

「道化師の力なの。って事は私もいずれ使えるようになるのよね?」

「悪夢だ!」

「そういえばそうだった!」



 そうなるよね。

 ただまぁ、私ですら覚えるのにかなりかかったんだから、暫くは無理だろうけど。




――――――――――――――――――

【SKILL】 道化神の(トリック・オア)悪戯(・トリック) (Lv.MAX)



 其は、世界の秩序を嘲る一手。


 到りし道化は三千世界の根底を覆し、

 やがては世界のシステムをも騙す。

 築かれた砂上の楼閣で、簒奪者の神

 は己が妙技に酔いしれるのだ。



◆一時的に能力値を変動させ、他のパ

 ラメーターへ割り振る事ができます。

 ・効果時間は最大魔力量依存

 (魔力10×1秒)


 ・移動可能数値はスキルレベルに

 依存。

 

【現在Lv.1】

 スキルポイントを消費し、一度に変

 動できる最大数値を増加できます。

(Lv.1:変動値10 済)(Lv.2:変動値20 済)

(Lv.3:変動値30 済)(Lv.4:変動値50 済)   

(Lv.5:変動値100 済)

――――――――――――――――――




「今の私は最大で100ポイントを他の場所から回収して、筋力値や俊敏値に再配布出来て―――取り敢えず……じゃあ、君だ」

「……!」



 私の眼が、虎視眈々と機を伺っていそうな剣士さんを捉える。

 ソレを察した私たちは今に、互いに構えを取り。



「ふふ……。相手になって貰おうか」

「来るなら気やがれ無表情……。返り討ちだッ!」



 この人もNPCなのかな。

 とてもそうは思えないけど―――まぁ良い。



「皆、見ておくといい。私の最終奥義……この能力はね? 自身の能力値ポイントを別の能力値へ数秒間だけ差し替えることができる。そこからなる最大の特徴はやっぱり―――わぁぁ……!?」

「「―――――」」

「………?」



 ガッシャーンと飛び込むは、木箱の山。

 何処かへ出荷予定だったのか、大きな箱に梱包されていた中からはさっきまでのお茶会で出されていた果物の山が雪崩のように出てくる。

 丁度、箱の山を防壁にしていた相手の足元に私が転がり込んだんだ形。

 


「……そうそう。こんな感じ。急に身体能力そのものが切り替わるから全く対応できないんだよね、実際」

「つまり見た通りですわね」



 だって、最大で100もの他能力値がいきなり俊敏とかに振り込まれるんだよ?

 私の元々の敏捷値が補正込み74で、それが一気に174になる……。


 そりゃあ転ぶさね。

 相手から来てくれるならともかく、自分からじゃ狙いが定めずら過ぎてね。

 さっきのは本当に偶々上手く行っただけだ。


 私と同じ二次職を持ってる悪夢さんならこれを使いこなせるのかもだけど、私にはとても無理だ。

 三輪車にジェットエンジンを付けたらどうなるかって話で―――え、面白そう。


 今度トワに相談して―――。



「ってわけだからさ? ここは一つ、態勢を立て直してtake2をやらせてもらえるか交渉したいんだけど―――

「………」

「ダメ?」

「俺の剣に聞いてみろ」



 あ、無理そう。

 顔を見合わせ合ったのち、取り敢えずキルしておくかって感じで足元にいる私に武器を振り上げた彼は―――しかし、すぐに飛び退る。



「ちッ!?」



「お前マジで後で覚えておけよ」

「そんな事だろうとは思っていたぞ」

「いやぁ、悪いね」



 レイド君とバディスさんが飛び込んできてくれたからか。


 これでまた状況は振り出し。

 凄いのは相手方……このトップクラスの面々を相手に、一歩も退いてない。

 しかも、こっちには既にマリアさんの強力バフ援護があるのにだ。



「援護してくれてるんだよね? マリアさん」

「……えぇ。おかしいですわね……。明らかに相手にもバフがあるような……。それも、私と同じくらい高位の……」

「歌姫サマと?」

「けど向こうは攻撃系の術師しかいなさそうだけど?」

「いや」

「―――誰かいますよーー?」



 ……。

 鑑定スキルか何かだろう。

 今に、目を細めたレイド君やルイちゃんが虚空を見据え。



「聖なる闇に死を刻み、写しの世界に炎を注げ……。白と蒼が広がる世界、大地の灰より翠が満ち満ち……“神々の御伽歌(マイソロギア)”……と。フフフ……、幾らか観察させて頂きましたが、相も変わらず異訪者とは愉快なものですね」

「「!」」

「まさか!?」

「うそ……。そのスキルは……!?」



 そしてその美声は―――。

 今に、敵方の中に可視化される肉体。

 ハッキリと分かる金髪に、蒼の瞳―――なんだか他人のような気がしない雰囲気……。

 彼は。



「やぁ、アールさんじゃないか……」

「えぇ、これは無色の聖女ルミエール殿。いえ……海賊貴公子、でしたか? それとも名誉―――」

「多い多い!」

「どんだけあんのさ!」



 本当に奇遇だ。

 まさかこんな所で彼に会うだなんて。



「ノクスの伝令―――。アール……、どうしてあなたが……! しかもさっきの詠唱って……」

「あ? ノクスだ? あれは滅んだぞ」

「えぇ、承知しておりますが。一仕事終えて戻った時に家がものけの殻になっているというのは、いつの時代も悲しいものですね」



 つまり、この襲撃を主導していたのは彼で、彼等に能力強化をしていたのも彼なのかな。

 いつから歌姫様に転職活動……。

 けどどういう事だろう。

 ノクスが滅んだことは理解していて、既に幕を下りたと思っていた存在がまだ暗躍しているわけで―――。



「わぁお……!? なにこれすっごーい!」



 地面を突き破り、いきなり金属質の茨が幾重に伸びてくる。

 見れば、それ等はアールさんの銀色に変色した腕から端を発したように見えて。



「気を付けてください皆さん! 私の記憶が確かなら彼、妖精公子ティリネルさんとかと同じく極光の一条星使えますよ!」

「―――マジなのだわ!?」



 だったね、確かに。

 むしろ私が見た初出こそ、海岸都市の一件で彼が放ったレーザー光線だ。

 自然、固まったり一か所に留まるのは危険。



「マリアさん」

「熱き焔で鉄を討ち、輝く威光で不定を融かせ―――“神々の御伽歌(マイソロギア)”!! ルミエールさん、お願いしますわ!」

「ん、これくらいなら」



 筋力値を向上させて茨を切り裂くと同時、彼女を抱えて飛び退る。

 後衛が幾らでも動き回れるようになれば前衛はもっと自由に戦える。

 ある種理想的な関係だけど……。



「おい、お前は一体何者なんだよ。何で色々使えねえ筈のスキル使える。簒奪は俺らの特権だぞ、なんかイラっとする」

「私怨じゃん」

「身勝手の極致なのだわ……」

「けど結局狙いは何なのかしら?」

「さて―――。何者なのでしょうね。目的という意味ならば、私の目的は最初から現在まで、一度たりとも変化したことはありません。それは、今も継続中……」



「では―――皆さーん。ひとまずここは撤退しましょう」

「「!」」

「……良いのか? アールさんよ」

「えぇ。よもや、四騎士が共に行動していたとは。妖精王単身であればと思いましたが……。更にはこうも人界側の主戦力たる最精鋭が集っていては、流石に分が悪い」

「えへへぇ……」

「そんな褒めんねぇ!」



「どうして私たちが逃がすと思う?」

「あなた達には聞きたい事があるらしいの。団長は怖いわよ? 往生した方が良いわ」



 色々と話が乱れてるな。

 別に彼等がいなくなってくれても一向にかまわない私たちと、ちょっとお話を聞きたい派のバディスさん達。

 双方を見比べ、アールさんは頷く。



「私達に執心するのも良いでしょう。しかし、いま皆様が真に心配すべきは地上。今の危うい協力関係。それが断ち切られる可能性もありますので。確認を急がれた方がよろしいかと」



 地上?

 ……ハッタリって感じじゃないね。むしろ自信ありそうだけど。



「―――ですね。事実です」

「ヨハネスさん? 何か知ってるの?」

「えぇ。先の前哨基地の陥落を受け、三国が動き始めました。既に上では魔族との戦争に備えた対策が取られ始めています」

「「え」」



 なにそれ知らない。



「だからさァ! そういうの知ってるのなら―――」

「どうしてそれを先に……!」

「えぇ、こっちの方がスクープ力が高そうでしたので」

「ホントにぃ!」

「そういうところなのだわ! このブンヤ!」


「ふはは……。ともかく、伝令者たる彼の言っている事は事実。そして、それに伴い、PL間でも、円卓を中心として大規模な魔族領土への進攻が計画されています。勢いはかなりのモノで、三国とも連携していると。そう遠くないうちに始まってしまうでしょうね」



 ムーン君達が?

 随分乗り気なんだ。

 彼等って結構個人プレイっていうか、普段はサーバー一位のプライドとかもあって孤高の存在みたいな立ち位置なのに。

 そこまで好戦的な性格のギルドでもないし……。



「どうしてあの人たちが……」

「結構穏健派の部類じゃないですか」

「―――なんでも、自らの命を賭して砦にいた敗北者の皆さんを救ってくれた聖女に心打たれたとか」

「「……………」」



 ほう、そんな人がいるんだ。

 まだ捨てたものじゃないね、世界も。



「普通に攻め入れる口実ができたって事もあるんだろうけどな。面倒な話だ。巣穴帰っていいか?」

「僕は参加したいけどなぁ。すっごく面白そうな話になって来てるじゃん!」



「とまぁ、そういう話ですので。我々は帰らせて頂き―――」

「まぁ待て客人」



 いまってどういう空気なのかな。

 結局、本当に空を飛んでいた飛竜を呼び戻して、今に帰り支度を始めた彼等。

 そんなアールさんに待ったをかけたのはおーちゃんさんで。



「別に帰ってくれるのは構わん。だが、先に片付けをしてからではないか?」

「「……………」」



 彼が示すのは、色々なものがぐちゃぐちゃに散乱した現場。

 そういえばお茶会の途中であんな乱入されたら、それは酷い惨状にもなる訳で。



「えーー、あーー」

「でもだよ?」

「果物の山を台無しにしたのはそちらの、そこの金髪無表情―――」

「あ、それはあとで美味しくいただくよ。持って帰って友人に料理してもらう」

「ノルドさんのお仕事がまた増えますわ……」



 ………。

 帰りたい彼等と、この惨状の片付けをしてほしいおーちゃん。

 今に、目が笑ってないおーちゃんさんの動きに合わせ、大樹の威容に成長した木々が緑の大波となって彼等へ。

 数十の巨大な蛇が襲い掛かるかのようなそれが、まさに全てを呑み込むかのように―――。



 わぁ。

 まるで大自然の化身だ。


 本当に凄い。

 彼の能力値、ちょっと覗いても許されたりしないかな―――メガネスチャ。




―――――――――――――――――

【Name】  妖精王おーちゃんさん

【種族】   多分妖精?

【一次職】  神霊演奏者(Lv100)

       

【職業履歴】 

一次:狩人(1st) 霊弓士(2nd) 

   精霊奏者3rd) 天霊奏者(4th)


【基礎能力】            

体力:50 筋力:50 魔力:500 

防御:30 魔防:100  俊敏:90


【能力適正】

白兵:D 射撃:C 器用:C 

攻魔:AA 支魔:AA 特魔:AA

―――――――――――――――――




 ―――おぉ、良い名前……。




「はははっ、素晴らしい……! 流石は神代の時代より生き続ける原初の知性体。能力は12聖とも遜色ないと言えますか―――やはり中々に分が悪い!! では、また……!」



 アールさんのその言葉を最後に、巨大な樹木の波が彼等暗黒騎士を総じてのみ込み―――。



 ………。

 そこには既に誰も、何も残っていなかった。

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