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老竜の願い

駆け足になってしまいました!

いずれ、修正するかもしれません!

 春。草木が芽吹き、新たな命が産声を上げる時期。

 朗らかな空気に、大地に生きる者達は、生きる喜びを噛みしめる季節。

 

 ……本来なら、の話だが。


「この風はなんだああああああ!?」

「えーなにー!? 聞こえなーい!?」

「こおおおのおおおおおかああああぜええええええ!」

「はー? なに? この枷ー? なにか悪いことでもしたのー?」

「アンギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「きゃああ! 急に鳴かないでよ!」


 あまりにも強い風に、会話すらままならないとは……。

 ミーシャに至っては、命綱をつけていないと今にも飛ばされてしまいそうだ。

 

 ……命綱の根元が我というのはいささか不満だが、まぁいいとしよう。


「むうん!? 竜の気配だ! これは、空か!?」

「なにー?」

「けえええええはあああいいいいい!」

「毛生えー? ツルツルになったのがそんなに気になるの……あう!?」


 指で弾いてやった。

 どうやら気絶したようだが、このまま連れていくか。

 どうせ、我だけで行こうとしてもついてくるのだしな、この小娘は。


 我は、遥かなる天空へと羽ばたいた。





※     ※     ※



 雲を抜けた。

 上空は、地上に比べて空気が安定しているようだが、いくらか寒い。

 やはり、我の強靭な鱗を失ったのは痛いか……。

 このあまりにも幼稚なポンチョと、靴下が無ければ、凍えていたかもしれないな。


「うーん……寒い……ってきゃあああああ!? 何ここ!? 落ちる落ちる!」

「目が覚めたか」

「め、目が覚めたかじゃないわよ! なんで私、宙ぶらりんで空の旅してるわけ!?」

「我に紐をほどくことなどできん」

「だからってもうちょっと方法があるでしょー!?」


 そういいながら、ミーシャは綱を頼りに、我の背中によじ登ってきた。

 再び失神でもしていればいいものを……、まぁ、この娘は意外にも肝が据わっておる。

 この程度では根を上げんだろう。


「今回は空なの?」

「ああ、今までとは比べ物にならない力を感じる。これは……本当に竜なのか?」


 まさか、これがジェドの言っていたものなのか?


「見て! あそこ!」


 おそらく、ミーシャの言っている物が我の視界に入った。

 白く輝く純白。 

 あれは……白蛇?

 それも、普通の小さな小さな蛇だ。


「貴様は……? まさか!」

「こんにちは。お騒がせしてしまい、申し訳ありません」


 頭に輪っかを浮かべた蛇は、ぺこりと頭を下げた。

 この者は、竜ではない……? それどころか、生物かどうかも怪しい。

 あのジェドを遥かに上回る力。我の本能が言っている、奴に、逆らうなと。


「何者だ? 貴様」

「私に、名はありません。単なる白蛇です」

「嘘をつくな。貴様から感じる気配。竜すらもちっぽけに感じるほどの、強大な力を感じるぞ」

「それは、あなた方が、自分の父や母に感じる感情と同じものでしょう。私は、あなた方を造った存在なのですから」

「造ったって……、もしかして、人類想像の白き蛇!?」


 聞いたことがある。先日、町の吟遊詩人が詠っていた、確か、竜約聖書の一説。

 白き蛇は、人を造り、黒の蛇は竜を造ったと言っていた。

 つまり、我の目の前にいるのが、人類を造った神、ということなのか?


「彗星竜フォルティス。私は、あなたが来るのを待っていました」

「なにぃ?」

「竜が知恵を身に着け、魔法の概念が無くなったこの世界において、人と竜のパワーバランスは崩れてしまいました。知恵をもつ竜に、人は対抗する術を持たず。まるで、太陽や月のように竜を崇拝するばかり。人にとって、手の届かぬ竜は自然そのものになってしまったのです」

「なにがいいたい? 我らが力あるものとして生きることが間違いだとでも言うのか!?」

「いいえ、違います。間違えてしまったのは、私自身です。魔法という、黒の蛇の力。それを宿した人間に、私はなんの恩恵も授けることができませんでした。だからこそ、今度は、世界中の人々に届けたいのです。私の『奇跡』を」

「話が見えてこんな? 届けたければ勝手に届ければよかろう?」

「今はできません。私は、この場所に、とある凶暴な竜を封印しています。その封印に力の大半を使っており、『奇跡』を授けることができないのです」

「もしかして……その竜をフォルティスに退治してもらおうってこと?」

「その通りです」

「ちょっと待て! こ我はこの風を止めに来たのだ! 見ず知らずの白蛇に助力するために来たのではない!」

「では、あなたは、私と戦うというのですか?」


 白の蛇の威圧感がさらに強まった。

 次元が違いすぎる。

 奴は、我らとは生きているステージが違うように感じる。


「……もしも、その竜とやらを倒せば、お主は去るのだな?」

「もちろんです」

「……わかった、力をかそう」

「ありがとうございます。では……」

「まて! その前に一つ質問がある! なぜ、この風を吹かせているのだ!?」

「力のある竜を、呼び寄せるためですよ。風は世界の動きそのもの。大気はどこまでも連なり、遥か遠保の地にまで届きます。春にだけ訪れるのは、それ以外の季節に訪れた竜を見定めるためでした」

「インティ、ミツハノメ、そしてジェド。奴らがこの地に来たのは、お前が呼び寄せたからだったのか」

「その通りです。この地に住まう人間にとっては申し訳ないことをしてしまいました。けれど、これも、人類の発展のため、必要なことなのです」

「ひどい……ひどいよそんなの! 神様だったらなにしてもいいってことなの!?」

「私は、神などという者ではありません。私もまた、一つの生命。やがては広き門に導かれる運命にあるのです」

「なによ……それ」

「無駄だ、ミーシャ。奴は、ただ奴の本能に従っているにすぎん。その点では、お主らよりも、我らに近い存在なのだろう」

「そんな……」

「おい、白き蛇よ。我は、何をすればいいのだ? お主でさえ封印することしかできない竜を、我がどうやって倒す?」

「この魔導石を使ってください。かつて、魔王竜ディエナディーテを造った黒き蛇の力を封じ込めたものです」


 白き蛇の前に、一つの紅い宝石が出現した。

 重力を感じさせないそれは、どんなに風が吹こうとも、空中に漂い、くるくると回っている。


「なぜ、お主自身がこれを使わんのだ?」

「私と黒き蛇は、逆の力関係にあります。私がこれを使えば、相反する力にこの身を焼かれ、消滅してしまうでしょう」

「だから、黒き蛇から生み出された、竜を待っていたのか」

「ええ。そして、その竜は我々の力に耐えられる者でなければなりません。だからこそ、力のある竜が必要だったのです。はじめは、ジェドにこの力を授けようと思っていました。しかし、彼の心には、力へのあくなき欲求と、弱者を虐げる凶暴な精神が宿っていたのです。そんな者に、この力を渡すわけにはいかないと、慈しみの心を持ち、人のためにその身を犠牲にできる竜をまっていました。それが……」

「それが、フォルティスだったのね」

「そうです」


 人を、慈しむ心……だと?

 そんなものが、我の中に存在するのか?

 我は……いったい……なんお為に戦ってきた?


「今、あなたは、とても悩んでいるかもしれません。それはそうでしょう、戦い始めた理由は、己の安寧のためなのですから。しかし、三度の戦いをへて、あなたは変わりました。いってごらんなさい、あなたの、今の願いを」


 我の、願い?

 途端に、過去の情景が、脳裏をよぎった。

 初めて、ミーシャと出会ったとき。小うるさい人間だと思った。

 インティを倒し、町の宴に参加させられた時。感謝されたことに、疑問を感じた。

 ミツハノメの傷を、手当してもらったとき。なぜ、人は我に優しくするのかと、不思議に思った。気づけば、我を疎んでいた神父さえも、我と共に酒を飲み、酔っ払っていた。

 ジェドから受けた傷で、我は自分の命をあきらめた時、暗闇をただ浮かんでいたら、声が聞こえた。

 それはかつて愛した者の声、『自分の心に、正直に生きて』彼女はそういって、我の目の前に一筋の光が見えた。


 目を覚ました我は、人々に感謝され、そして……感謝していた。


「我は……」


 人間とは、矮小で卑怯な生き物だ。しかも、脆弱で、臆病で、我ら竜からすれば、取るに足らない存在。

 だがそれは、同時に、豊かな感情の裏返しなのだ。多くの負の感情を持っている人間は、それと同じくらいの正の感情を持っている……我は、そんな人間を、愛しく思う!


「我は、人を救いたい。人と共に歩みたい!」

「フォルティス!」


 背に乗ったミーシャが、首に抱き着いた。

 思えば、この娘を偶然生かしたことが事の発端だったな。

 運命とは、不思議な物だ。


「わかりました。それでは、この魔導石を受け取ってください」


 紅い水晶が、我の前まで移動して、止まった。

 触れなくてもわかる、これは、邪悪な力だ。


「長時間、それを身に着けていると心を本能に蝕まれてしまいます。チャンスは一度きり。すべての力を、ディエナディーテへぶつけてください」

「わかった」

「フォルティス……私、ずっと役立たずでごめんね。こんな大事な時も、私はなにもできないの」

「気にするな、お主は、そこにいてくれるだけでいい。我の帰るべき場所は、お主と共にある」

「フォルティス……!」 

「行きますよ!」

「応!」


 我は、紅い宝石を飲み込んだ。


「ぐ!? ぐおおおおおおああああああああ!!!」

「フォルティス! しっかりして!」


 熱い。体の中を、まるで溶岩が駆けまわっているようだ。

 いまにも、この体が弾け、我の体が砕け散ってしまいそうで。

 ミーシャの声で、かろうじて意識を保ってはいるが、いずれ、我の本能が暴走するのも時間の問題。


「いま、封印の門を開きます!」


 白の蛇の声が聞こえた。

 そして、赤く滲んだ視界には、ひび割れた空が見えた。


 ひびは徐々に大きくなり、ぱらぱらと欠片を地に落としている。

 そして、奥に潜む暗闇から、白く光る瞳が見えた。



「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 大気が震える。

 いまだかつて聞いたことのない、野性の咆哮。

 その咆哮には、一片の知性も感じられず、ただただ、奴の暴力性だけが伝わってきた。

 いままで見てきた竜の中で、最も下品で、最も恐ろしい感情だ。


「今です! ディエナディーテの頭部に、あなたの全てを撃ち込んでください!」


 やろうとしている!

 だが、体が動かんのだ!

 この力を抑えるので精一杯。一瞬でも気を抜けば、すぐさま意識を乗っ取られそうだ。


「フォルティス! もしも……もしも死ぬときは、一緒だからね!」

「死……?」


 死ぬ……だと?

 何をバカなことを!

 我は、死なせないために戦っているのだ!

 

 思い出せ、今までの戦いを。

 我はいつだって、まっすぐぶつかっていったではないか!

 どんなに体を貫かれようが、焼かれようが、凍らされようが。

 我は、ただ、目の前にいる敵に、渾身の一撃をぶつけるのみ!


「ぐうううううおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 我は、全身を駆け回る力を、口から吐き出した。

 もちろん、我の力も乗せて。


 放たれた力の塊は、青白い彗星となって、春の空を飛んでいく。


 衝撃が、あたりの雲を吹き飛ばし、あまりの高エネルギーで、太陽の光が屈折する。


 辺りの景色が、ふっと薄暗くなった。



「グギャアアアアアアアアアアア!!」

「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 彗星がディエナディーテにぶつかった。

 その瞬間、行き場をなくしたエネルギーは、光と音に変換されて宙を舞う。

 もはや、我の意思とは関係なく、我の体からはすべての力が放出されようとしていた。

 体からは力抜け、魂さえも力に変えて。それでも我は、撃ち続けた。 


「おおおおおおおおおおおおおおおお! 滅びろおおおおおおお!!」

 

 やがて、空は、白い光に包まれた。

 


※       ※       ※



 



 世界は、救われた。


 ディエナディーテは消滅し、白の蛇は力を取り戻した。


 やがて、人々は、不思議な力を使えるようになった。それは、傷を癒し、作物を育て、水を浄化する力。

そして人々は、それを、『奇跡』と呼んだ。

 以降、数千年。人々の間には諍いもあったが、今では皆、手を取り合って生きている。


 そして、竜はといえば、今では人間を見下す者の方が珍しいほど、人の生活に馴染んでいた。人の得た力は、彼らとの立場を対等なものにしたのだ。

 今では、配達業や、飲食店を経営している者までいる。

 かつての、自分たちの力に驕っていた竜からは想像もできないことだ。


 今度、人と竜は、『宇宙』へと飛び立つらしい。なんでも、完全未来演算システム。名前はたしか……『EVA』といったか。

 その力を使い、空を超えるらしいのだ。

 本当かどうかはわからない。なにせ、世間では、古代竜人の石像が動いただの、失われたエデンの国があらわれたなどと、眉唾な噂が蔓延している。

 どちらにしろ、今の我には、確認する方法などないがな。


 我は、すべての力を出し切った後、全身が石になった。

 だが、我の魂の欠片は肉体に残り、この石の器から世界を眺めているのだ。ようやく、好きなだけ寝られる環境が整ったことは嬉しいが、それでもやはり、ほんの少しだけだが退屈だ。


 だが、うんざりするほどではない。

 なぜなら、毎日、ミーシャとペテロの子孫たちが、我に話しかけに来てくれるからだ。 

 何世代にもわたり、いつまでもいつまでも。

 それはきっと、人がこの星を捨てても、続いていくのだろう。

 我は、この未来を作れたことを、誇りに思う。


 また少し、眠くなってきた。


 次に目を覚ました時、この世界はどれほど変わっているだろう。


 願わくば、今よりももっと、美しく。


 今よりももっと、優しさにあふれた世界であってほしい。



 そんな願いと共に、我は眠りに落ちたのだった。



 意識がなくなる寸前、ふと、懐かしい声が聞こえた。






『フォルティス。本当に、本当に、ありがとう!』

そのうち、滅ドラ!のお話につなげていきたいですねー。

ただし、壮大なスケールになりそうなので、滅ドラ完結時にあまりにも人気がなかったら続けないかも……(;´Д`)

いちよう、これ単体でも読める作品……なのかな???

お話し的には、急展開すぎるかもしれませんが、ここまで読んでいただきありがとうございました!!!

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